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「国際調査で日本の先生は」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

テーマは、「国際調査で日本の先生は」。5年に1度行われる小中学校の先生に関する国際調査の結果が先週公表されました。調査の内容から何が見えてくるのでしょうか。

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Q1.先生に関する国際調査ということですが、どういう調査なんですか?

A1.OECD・経済協力開発機構が世界各国の教員、つまり先生を対象に行っている調査で国際教員指導環境調査、TALIS(たりす)と呼ばれています。OECDの教育関係の調査というと、PISAテストと呼ばれる生徒の学習到達度調査がよく知られていると思いますが、先生を対象にした調査も5年に1度行われているんです。目的は、先生たちの勤務実態や指導内容などを調べることです。今回の調査は、去年行われ、世界の48の国と地域が参加し、日本では小中学校のおよそ7000人の教員が対象となりました。

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Q2.勤務実態というと、学校でも先生たちの働き方改革が話題になりましたよね。どんなことがわかったんですか?

A2.先生たちの長時間労働が問題となって、今年1月には、文部科学省の中教審・中央教育審議会が学校の働き方改革について答申を出しました。そんな中行われた今回の調査ではこうしたことを裏付けるような日本の先生たちの実態も明らかになりました。大きく3つあげたいと思います。「世界の中でもっとも多忙」、「多忙の原因は授業以外に」、「なぜか低い自己評価」です。

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Q3.まずは、「世界の中でもっとも多忙」ですね。やはり日本の先生は忙しいんですね?

A3.そうなんです。中学校の先生の1週間の勤務時間の比較です。全体の平均は38.3時間です。日本は56時間と最も長時間になっています。世界に目を向ければ、次に長いカザフスタンが48.8時間ですから、突出して長いことがわかります。主なところでは、イギリスが46.9時間、アメリカが46.2時間などとなっていて、最も短いジョージアは25.3時間でした。3年前に文部科学省が行った勤務実態調査では、平日の中学校の先生の勤務時間の平均は1日あたり11時間32分でしたから、1週間ではほぼ同じ勤務時間となります。調査の規模や内容が異なるので一概に比較はできませんが、文部科学省の調査で明らかになった過労死ラインを超える先生たちが多くいる実態はほとんど変わらないことがうかがえます。

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Q4.その多忙の原因が授業以外というのが、次のポイントですね?

A4.そうです。多忙の原因は、授業以外にありました。仕事時間の内訳を見ると、授業時間は18.0時間で、全体の平均の20.3時間より2時間ほど短くなっています。これに対して、▽部活動などの課外活動が7.5時間、▽書類作成などの事務業務が5.6時間、▽授業計画準備が8.5時間といずれも参加国中、最も長くなっています。このうち特に課外活動は、全体の平均1.9時間のおよそ4倍です。

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Q5.やはり、部活指導が大きいんですね?

A5.1月の中教審の答申で、先生の勤務時間が増え続けてきた構造的な要因としてあげられたことの一つが「部活動の指導時間の増加」でした。今回の調査でこれが裏付けられた形です。海外では、授業以外のスポーツ活動などは地域に委ねられているケースがほとんどです。すでに導入されている外部の部活指導員など、地域の力が必要なわけです。また、授業計画準備が長いのは、大量採用時代のベテラン教員が定年の時期を迎え、経験の浅い若い教員が多くなったことが一因とみられています。一方で、この調査で気になる結果があります。

Q6.なんですか?

A6.職能開発と呼ばれる活動にかける時間の短さです。全体の平均が2時間だったのに対し、日本は3分の1にも満たない0.6時間でした。職能開発というのは、先生がほかの先生の授業を見学したり、研修に参加したりして自らの授業の進め方や教え方を研究するなど、教員としてのスキルを磨く重要な時間です。来年度の小学校をはじめとして順次新しい学習指導要領が実施され、従来型の授業に加えて自ら主体的に子どもたち同士で話し合いながら探究するアクティブラーニングという新しい形の授業が本格的に導入されます。新しい授業を始めるには、教える内容も教え方も変えていくことが求められます。こうした変革のための時間が思うように取れないことで新しい学習指導要領の実施に支障が出ることがないのか心配です。

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Q7.そして、3つ目のポイントが「なぜか低い自己評価」ですね?

A7.こちらも今回の調査で大いに気になる結果です。授業や指導に対する自己評価がほかの国や地域に比べて低くなっているんです。たとえば「生徒に勉強ができると自信を持たせる」指導ができていると回答したのは、24.1%。「生徒の批判的な思考を促す」指導ができていると回答したのは、24.5%。「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」指導ができているは、30.6%でした。これらはいずれも平均が70%から80%となっていて、日本の先生たちの自己評価が低い傾向が顕著に表れた形です。

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Q8.小中学生の保護者としては、ちょっと心配になりますよね。先生たちは自分に自信がないということでしょうか?

A8.なぜそう思うのか、理由を聞いていないので、詳しいことはわかりませんが、昨今、先生たちは何かあるとすぐに批判にさらされるような状況に置かれています。こんなに一生懸命働いているのに、評価されていないと思い込むような状況です。

Q9.プレッシャーも大きいわけですね?

A9.ほかにも謙譲の美徳という言葉があるように控え目で謙遜する国民性から、自信があるとはなかなか言えない空気があるのかもしれません。ただ、それでは国際社会では通用しません。OECDの国際学習到達度調査・PISAテストで、日本の生徒は好成績が続いています。そうした状況を鑑みても、先生たちが自信を失うような状況にはないように思います。ただ、多忙な学校現場の現状をこのままにしておいては、本当に先生たちが自信を持って授業に当たることができなくなることは避けられないでしょう。

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Q10.調査全体を通して、どんなことが言えますか?

A10.やはり、「学校の働き方改革は待ったなし」です。OECDのアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は、「日本は幸いにも優秀な人材が教職を目指してきたが、これが今後も続くとは限らない。若者が進むべき仕事であると思えるような施策を進めるべき」と述べています。現に、長時間勤務が当たり前とみなされる教員の働き方が、教員志望者の減少につながり、教員の質の確保が難しくなっているとの声があがり始めています。ことは、学校が持続できるかという問題につながりかねないという危機意識を持って今回の調査結果を受け止め、学校の働き方改革実現のための施策を進めることを文部科学省には改めて求めたいと思います。

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(西川 龍一 解説委員)

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