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「利用しやすくなる?成年後見制度」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

認知症の高齢者などの支援を行う成年後見制度。最高裁は利用を促すためとして、今年、新たな「考え方」を相次いで示しました。
「使いづらい」という声もある成年後見制度ですが、今後、利用しやすくなるのでしょうか。

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【成年後見制度って何?】
Q:成年後見制度という言葉、よく聞くようになりましたね。
A:スタートしたのは20年ほど前ですが、今では21万人が利用しています。これは認知症や障害などで、判断能力が十分でない人の代わりに財産や権利を守る制度です。多くの場合は子どもなど親族が家庭裁判所に申し立てます。これを受けて家庭裁判所が後見人を選ぶという仕組みです。

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Q:裁判所が選ぶんですね。
A: 両親が高齢で利用した方がいいのかどうか、悩んでいる人も少なくないと思います。まずは、後見人がどういう業務を行っているのか。以前、Eテレの番組で紹介した映像がありますので、見てください。

鳥取市で後見人を務めている弁護士の寺垣琢生さんです。一人暮らしをしている認知症の高齢者の後見人としてヘルパーさんなどと相談しながら、生活費の管理を行っている映像です。
後見人の仕事はそれだけではありません。急に入院することになれば、書類の作成や病院との手続きも行います。寺垣さんは自分で施設から病院へ荷物を運んだり、入院生活のための買い物をしたりと大忙しです。

Q:大忙しで本当に大変そうですね。
A:成年後見人の業務は大きく分けて2つ。「財産管理」と「身上監護」です。財産管理は判断力が衰えた人に代わって預貯金を管理し、必要な生活費を支払います。また、不動産などの管理なども行います。
もう1つが、身上監護。病院や福祉サービスなどの手続き、年金や介護保険の申請や更新などを本人に代わって行います。

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【専門職が7割】
Q:身上監護が多いのであれば、後見人は家族がやればいいのではないでしょうか。
A:もちろん子供や親せきが後見人を務めるケースもあります。ただ、昨年のデータでは親族の後見人は23%。反対に70%近くが弁護士や司法書士といった「専門職」と呼ばれる人でした。先ほどの寺垣さんのように、身上監護も熱心に行う専門職も数多くいます。
しかし、一方で中には家族から「なぜ見ず知らずの人が親の財産を管理するのか」とか、「相談したいことがあっても、なかなか来てくれない」という不満の声が出ることもあります。

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【① 親族から検討も】
A:今回最高裁が示した新たな考え方の1つは、「本人の課題や候補になる人がいるかどうかを確認したうえで、まずは親族を後見人に選任することが可能かどうか検討する」というものです。実は、制度が始まったときは、後見人の90%以上は子供や兄弟など親族でした。

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Q:以前は親族が中心だったんですね。
A:ところが。一部で親族の後見人がお金を勝手に使ってしまう、あるいは横領といった問題が起きました。そこで裁判所はトラブルを避けるため、専門家を選ぶ傾向が強まったとみられます。しかし今回、再び親族をまず検討するという考え方が示されました。個別の判断はそれぞれの家裁が行うわけですが、親族の後見人が今後は増えることも予想されます。
ただ、親族だとトラブルになる恐れがある場合、それから本人の財産が多岐にわたって複雑な場合などは、やはり専門職に頼んだ方が望ましいとしています。それに後見人を頼むことができる親族が周りにいないという高齢者も増えていますから、これからも専門家の力は欠かせないと思われます。

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【②報酬の見直しの検討も】
Q:最高裁が示したもう1つの考え方はどういうことですか。
A:後見人に支払う報酬です。親族だと報酬は必要ないことが多いのですが、専門職に依頼すると、お金がかかります。一例ですが東京家裁が定めた目安では基本報酬は月2万円。あとは管理する財産が高額になれば、3万円から6万円だそうです。
これも家族から「あまり仕事をしていないのに負担が重い」という声の一方で、専門家からは反対に「ボランティアも多い」「たいへんな苦労をしても報酬は変わらない」という声もあります。

Q:どちらも不満があるんですね。
A:そこで最高裁は、新たな報酬の算定についても考え方を示しました。仕事があってもなくても一定のお金を払うのではなく、業務に応じた報酬にできないかというものです。例えば施設への入所手続きや、財産の処分で親族と協議するなど、事務手続きを行った時にはその事務の内容に応じて報酬に反映させるようにすることなどを検討するというものです。
これは具体的な検討は今後、各地の家庭裁判所で行われます。

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【早めの任意後見も】
Q:こうしてみていくと、成年後見制度ってたいへんですね。
A:たしかに、家族にとっては利用しやすいとは言えないところもあります。本人を守るための制度なので、後見人の選任やお金の管理も厳しいんです。しかし、あまり厳しくすると家族が裁判所に後見人の申し立てをためらうことになって利用が伸びないおそれがあります。
ただ、実はあらかじめ、自分で後見人を決めておくこともできます。

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Q:自分で選べるわけですか。
A:これは「任意後見制度」といいます。将来に備えて、判断力が十分なうちに、任意後見人を選んで契約を結んでおくというものです。契約は公証人という専門の公務員に作ってもらい公正証書で残しておくことが必要です。これだと自分が信頼できる人を事前に選ぶことができます。そのうえで、判断力が衰えた時には、裁判所に申し立てを行います。その場合、裁判所が監督人を付けたうえで、後見を開始することになります。元気なうちから十分時間をかけて慎重に考えておくことも大切だと思います。

【求められる市民後見人】
Q:反対に頼れる家族もいない、専門家を頼むお金もない、という人も少なくないと思います。その場合は、どうなるのでしょうか。
A:そんな人のために今、注目されているのが「市民後見人」という存在です。これは市町村が市民に研修を行って、知識を学んでもらい後見人になってもらうという仕組みです。ボランティアが多いようです。

Q:それはどんどんと増えてほしいですね。
A:ところが、昨年のデータだと後見人全体の1%にもなりません。自治体の中には「市民後見人養成講座」を定期的に開いているところもありますが、取り組みはまだ一部で、まだまだなり手が少ないことも理由です。

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【関係機関の連携深めて】
また、欠かせないのは関係機関のサポートです。市民後見人もそれから親族の後見人も専門家ではありませんから、裁判所だけではなく、相談に応じて適切な助言をしてくれる行政の窓口が欠かせません。しかし成年後見制度をサポートする「中核機関」と呼ばれる窓口は、まだ全国の市町村の4.5%にとどまっています。

Q:司法も行政も市民と一緒になって支えていく仕組みが求められますね。
A:厚生労働省は2021年度までに全国のすべての市町村に中核機関を設置するという目標を立てています。一方で、家庭裁判所も自治体任せではなく、積極的に連携する姿勢と、不正を十分にチェックして法的な問題には市民の相談にも応じるよう、体制の充実が求められます。

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認知症の人は2025年にはおよそ700万人に上ると推計されています。一方で後見人の活用は現在も必要とされる人の一部にとどまっているとみられます。大切な福祉サービスが行き届くようにするため、そして財産を守るため、さらに利用しやすい制度の実現が急がれます。

(清永 聡 解説委員)


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