人生100年時代、老後は2000万円の蓄えが必要だという
金融審議会の報告書が、年金100年安心問題と絡んで波紋を広げています。
担当は、竹田 忠 解説委員です。
Q 竹田さん、今回の報告書、年金をもらっている人も、
これからの人も、みんなが気になっている話しだと思うんですが、
もうこれだけ議論されているのに、
正式な報告書としては認められない可能性が出てるんですか?
A そうなんです。今回報告書をまとめたのは金融庁の審議会なんですが、
所管をしている麻生副総理兼金融担当大臣が、
「正式な報告書としては受け取らない」と、
拒否する考えを会見で明言したんです。
大臣が受理しないとなると、報告書は宙に浮いてしまいますので、
事実上、撤回となる可能性が出てくる。極めて異例の事態です。
麻生大臣は、その理由として、
「政府の政策スタンスとは全然違う」からと、言っているんですが、
野党側は、参議院選挙を前に、年金問題が争点化することを
避けようとしていると見ていまして、強く批判しているんです。
Q なぜ、こんなことになるんですか?
A その理由は、今回の報告書のこの指摘にあります。
簡単にいうと、元サラリーマンの夫と専業主婦の妻、
二人の世帯の一か月の支出は、平均で26万4000円。
これに対して収入は、基本は年金暮らしなので
ほとんど年金で20万9000円。
差し引き、月5万5000円足りない。
この分は貯蓄などを取り崩して埋めている。
報告書は、これを赤字だと表現しています。
では、この赤字がどれだけ続くのか?
今、60歳の人がどれだけ長生きできるかという政府の推計では、
およそ二人に一人は、90歳以上まで生きます。
4人に一人は、95歳以上。
そしておよそ10人に一人は、100歳以上までいきるだろうと。
まさに人生100年時代です。
仮に、65歳から95歳まで、30年間、年金暮らしをしたとすると、
合わせておよそ2000万円が不足する、という計算なんです。
Q すると、本当に年金以外に、2000万円が必要なんですか?
A まさに、そこが、先日国会で議論になったところです。
立憲民主党の蓮舫副代表は
「自分で2000万円を貯めろ、とはどういうことか、国民は憤っている」
と追及しました。
これに対して安倍総理大臣は
「30年で2000万円の赤字であるかの表現は
国民に誤解や不安を与える不適切な表現だった」と述べて
釈明をしたわけです。
なぜ、不適切な表現、というのかというと、これはあくまで平均であると。
つまり、本当にこれだけ足りない人もいれば、年金だけでやりくりできる人もいる。
それを一律にとらえて、年金では5万5000円足りない、とか
30年間で2000万円ないと大変なことになる、
といわんばかりの表現は不適切だ、と言っているわけです。
Q でも、逆にもっとお金が足りない、ということもあるわけですね?
A その通りです。
長い人生、たとえば不足の事態ということもあるわけです。
体が弱って介護サービスをたくさん受けるとか、
病気で入院してお金がかかるとか、
そうなると、やはり、年金以外にある程度の備えは必要になってくる。
ところが、今は、老後、まとまったお金を持つ環境が厳しくなっている。
報告書はそういうことも指摘しているんです。
たとえば、退職金が減っている。
ごらんのように、大卒の人がもらう退職金、
かつでは平均で3000万円を超えていた。
それが直近は2000万円をきっている。
さらに今や、働く人の4割は非正規労働者です。
そもそも非正規の人は退職金がもらえなかったり、あっても低かったり、
また、退職金制度がない会社だってある。
そうしたことを考えると、年金は確かに老後の柱ですが、
プラスして、どう資産を増やしていけるのか、
今回の報告書をもとにもっと政府として総合的な対策を
議論してもいいのでないかと思います。
Q 国会では、もう一つ、年金100年安心問題をめぐって
論戦になってましたが?
A そうなんです。今やこちらの方が焦点になっています。
というのも今回の報告書には
「年金の水準は、今後調整されていく」という表現がある。
これは平たく言えば、年金は今後徐々に目減りしていく、という意味です。
なので、やはり年金以外の蓄えが必要、という指摘になっている。
これについて先日の国会質疑では、野党側の多くの議員が、
「年金は「100年安心」と言っていたのにそれはウソなのか?」
と厳しく追及しました。
これに対し安倍総理大臣は、
「100年安心がウソなどということはない。
100年安心は仕組みとして、それを確保する」と強調したんです。
Q 「仕組みとして」?
A 「仕組みとして」というところがミソなんです。
というのも、今の年金制度は、人口減少に合わせて
徐々に年金額が目減りしていくという作りになっている。
どういうことかというと、
年金制度というのは、若い人が負担する保険料の総額と、
高齢者が受け取る年金の総額が、ちょうど釣り合う仕組みになっている。
かつては、この年金をいくら払うかを先に決めて
それに必要な保険料を若い人から集める、といういわば「年金額重視」の方式だった。
しかし、これだと、年金を増やすたびに保険料もドンドン上がって、
若い人たちから負担が重すぎる!という声があがった。
そこで、2004年に法律を大改正して
先にいくら保険料を負担するかを決めて
その範囲で年金を配る、という方式に変更した。
つまり、「年金額重視」から「負担重視」に変わった。
集まったお金の分だけ、年金を払う、ということになったので、
制度は、安定することになった。
つまり、100年安心という場合、
それはあくまで制度が安心、という意味で、
もらえる年金の額が、100年安心というわけではない、と、
専門家の多くは受け止めているわけです。
Q でも、もらえる年金の額が、今後どうなるかわからない、というのは、
高齢者にとっては、不安ですよね。
A そこで、年金の水準は、
現役の手取り賃金の50%以上を維持する、というルールを決めて、
ちゃんと今後も50%以上が維持できるかどうか、
5年に一度、定期的に検証することになっている。
それが、ちょうど今年で、今、その検証が行われている。
前回なら、すでに結果が発表されている時期なんですが、
今年はまだ、発表の見通しさえ立っていない。
担当している厚生労働省は、統計不正問題などもあったので、
ミスのないよう入念にやっている、と説明しているんですが、
野党側は、これも参議院選挙で争点にされないよう、
選挙のあとへ先送りするのではないかという見方を強めている。
これ以上、年金不安が広がらないよう、政府は、検証結果を早く公表して
もっと国民に丁寧に、説明をすべきだと思います。
(竹田 忠 解説委員)
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