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「早期化がとまらない!? 大学生の就職活動」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

大学生の就職活動について、今井純子解説委員です。

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【就職活動ですが、早まっているのですか?】
はい。主に今の大学4年生。経団連の指針では、3月に説明会やエントリーシートと呼ばれる応募の受付が始まり、6月1日(あさって)から面接・内定が解禁。ということになっていますが、すでに5月1日の時点で、どこからか内定をもらっている学生が、50%を越えていました。

【内定を出している企業は、ルール違反ではないのですか?】
もともと、罰則はない紳士協定のようなルールです。また、経団連に加盟していない外資系やベンチャー企業などは、もともと、このスケジュールより早くに内定をだしています。ただ、今年は、今と同じスケジュールとなった3年前と比べて、この内定率が22ポイント増えています。経団連企業も含め、年々、内定の動きが早まっていて、6月1日は、就職活動のゴールという学生も多くいるとみられます。

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【なぜ、これほど早まっているのですか?】
3点挙げたいと思います。

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まず、売り手市場。大学生の求人倍率は、1.83倍。学生1人を、2社近い企業がとりあう形です。去年とほぼ同じ高い水準ですが、今年は、特に、大型連休が長かったので、その前に、内定を出しておこうという企業が多かったとみられています。

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2つ目は、緩む「しばり力」です。

【どういうことですか?】
経団連のルールには、強制力はないといいましたが、それでも、大企業は、一応、表向き守る姿勢は見せていました。それが、去年の秋、経団連が、2020年から、ルールを廃止することを決めました。ルールが形骸化していることを経団連自らが認めた形になり、守らなくてもいいや、という企業が増えていると見られているのです。

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そして、3つ目は、インターンシップです。

【学生が仕事の体験をしてみるということですね】
そうです。今は、主に3年生の夏に5日間とか、少し長めに。冬には、一日のインターンシップを受ける動きが主流になっています。が、このインターンシップを選考と結びつける、あるいは、優秀な学生については考慮するという企業が70%近くに達しているのです。

【考慮するというのは?】
インターンシップを受けた会社から、「早期の選考会」の案内がきたという学生が50%前後います。つまり、学生にとっては、インターンシップが、事実上、就職活動のスタートになっているということなのです。

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【来年から、経団連がルールをつくるのをやめる。ということですが、さらに、就職活動が早まることになるのでしょうか?】
その懸念が指摘されています。今後は、ルールがいきなりなくなると、学生が混乱するということで、政府が、これまでと同じ日程を守るよう、経済界や業界団体に、要請をすることになってはいます。ただ、経団連の大企業にとってみると、自分たちが作るルールではない。つまり、早い時期に内定を出している外資系やITベンチャーなどと同じ立場になるわけですね。ということから、「しばる力」がもっと弱くなり、採用活動の早期化に拍車がかかるのではないか、という見方がでています。

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その上で、もうひとつ。今後、就職活動の在り方に、大きな変化をもたらしそうな動きが出てきています。

【なんでしょうか?】
「通年採用」です。どういうことかというと、例えば、
▼ 4年の夏に帰国した留学生や、いったん卒業した後、ボランティアなど様々な経験をした人にも、いつでも新卒採用の対象として門を開く。
▼ あるいは、AIやデータ分析など、専門性の高い知識や技術を持った人材を中心に、他の新卒一括採用の枠とは別の枠、別の給料体系で、いつでも採用する。
というように、年に一度ではなく、何度か、あるいは、一年を通して、採用をするという考えです。

【新しい動きになりそうなのですか?】
そうなのです。先月、経団連と大学側が、これからの採用や大学教育のあり方について、共同提言をまとめたのですが、その中で、今後、通年採用を含め、多様な採用方式をとろうという考えを盛り込みました。大学4年生を中心に、企業が、まっさらな学生をまとめて採用して、企業の中で育てていく一括採用が今後も中心という考えは変わっていません。それに加えて通年採用も増やそうという考えで、実際に取り組む企業も増えています。

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【いつでも就職活動ができるということは、いいことのようにも聞こえますね】
そうですね。就職への考え方も、例えば、今年の新入社員の60%近くが、自分にもっとあった会社があれば転職したいと答えるなど、「就社」から「就職」へと、大きく変わりつつあります。そうした中、採用も多様化していくことは、ある意味、時代の流れに沿った動きだとは思います。大学側も、勉強に力を入れる学生が増えるのではないかと歓迎しています。ただ、心配な面もあります。というのも、AIなどの専門の学生は、今、採りあいが最も激しい分野ですので、企業が、研究室を訪問したり、高給のアルバイトを持ちかけたりするなど、あの手この手で接触をはかり、より早く内定を出そうとする。早期化のいわば免罪符として通年採用という言葉が使われるのではないかという指摘が、就職問題の専門家の間からでているのです。

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【そうなると、学生は振り回されそうですね】
そもそも、経団連は、AIやビッグデータなどビジネスを取り巻く環境が大きく変わろうとしているこれからの時代。学生には、文系・理系に関わらず、数学的な思考や統計の知識。語学、さらに歴史や哲学などの幅広い教養を身につけてほしいと訴えています。そうであれば、じっくり勉強する時間が大事になります。企業は、せめて、インターンシップや採用活動は、長期の休みとか、土日に限るなど、授業の妨げにならないよう、これまで以上に配慮すること。そして、早くに内定を出したとしても、囲い込むのでなく、一定の時期までは、学生が他の会社を受けられるようにすることは、徹底してほしいと思います。

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【学生はどう考えたらいいのでしょうか?】
今年、ひとつ、注目する数字があります。300人未満の中小企業への就職を志望する学生が、一年前より11.6%増えたのです。インターンシップで、やりがいなどをアピールする企業が増えたり、技術力の高いベンチャー企業を志望する学生が増えたりしていることが背景にあるとみられています。こうした企業の中には、これから採用活動を本格化するところも多くありますので、今、まさに就職活動をしているという学生は、視野を広げて考えることも大事だと思います。

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その上で、低学年の学生さん。勉強はもちろん。部活やボランティア活動などで、専門性や人間の幅を広げること。これが、一番大事で、焦る必要はまったくないと思います。ただ、その上で、余裕がある場合、夏休みなどに少しずつ、中小を含めてインターンシップを経験してみることも、将来どういう仕事につきたいか、そのためにどのような勉強をしたらいいのか考えたりする上で、よい経験になるかもしれません。

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様々な経験のひとつとして、インターンシップを考えてみていただきたいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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