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「令和初トランプ大統領を国賓としておもてなし」(くらし☆解説)

髙橋 祐介  解説委員

令和になって国賓として初めて日本を訪れたアメリカのトランプ大統領。国賓への“おもてなし”は、私たちにとって、どのような意義があったでしょうか?

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ポイントは3つありました。

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国賓は、海外から日本を訪れた大切なお客様。官公庁などが使う文書では「政府が儀礼を尽くして公式に接遇し、皇室の接遇にあずかる外国元首やこれに準ずる者」を指すとしています。「接遇」とは“おもてなし”。アメリカのトランプ大統領は「外国元首」です。こうした文書をよく見ると、前段と後段の間に句読点(「、」)が打たれています。“政府によるおもてなし”と“皇室のおもてなし”には、微妙ですが重要な一線が引かれているのです。

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まず“政府によるおもてなし”。今回のトランプ大統領の来日には「強固な日米同盟を世界にアピールする」そんな日米両政府の共通のねらいがありました。内外のメディアから関心をひきつけたゴルフや大相撲観戦。トランプ大統領には「自分が如何に日本で特別にもてなされたか」をアメリカ国内にアピールしたい思惑もあったでしょう。日本側も「トランプ大統領だからこそ手厚くもてなした」特別な中にも特別な“おもてなし”で心地よくなって頂こうと言うのです。

一方、“皇室によるおもてなし”。日本の象徴である天皇は、憲法に列記された国事行為ではなく、公的行為として国賓をもてなします。その目的は「相手国との友好を増進して親善を深める」ためです。大統領とのご会見や宮中晩さん会、きょう天皇皇后両陛下が大統領夫妻を宿泊先で「お見送り」されたのもそのためです。
皇室は、相手の国が大きくても小さくても、利害関係がどうでも、国賓への接し方は平等で差をつけません。だからこそ、日本を訪れた国賓は誰もが“最高のおもてなし”を受けたと心地よくなるのです。

つまり国賓への“おもてなし”は、特別でありながら平等です。両者の違いは、政治色があるか、ないかです。皇室を政治利用することは、あってはならないからです。

皇室がもてなす国賓は、政府が選んで閣議決定します。国賓として遇されることを希望する外国元首をすべて招くのは、現実には不可能だからです。そこで「細やかな気配り」が重要になってきます。

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政府が国の予算を使って海外から招く賓客は、5つに分かれます。
国賓に次ぐ公賓は、たとえば皇太子など外国の王族、あるいは副大統領や首相など行政府の首脳らが対象です。国賓との違いは公的な地位の違いです。国賓や公賓は、儀礼的な色合いが濃いのが特徴です。

公式実務訪問賓客は、国賓や公賓と地位は同じでも、日本訪問の主な目的が違います。実務的な色合いが濃いのが特徴です。海外から日本へのお客様が増え、国賓として歓迎するために必要な日程を十分確保できない、日本側が負担する予算にも制約がある、そうした事情から出来た仕組みです。このため“おもてなし”は、国賓や公賓より簡素になります。

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戦後日本を国賓として訪問したアメリカ大統領は、1974年のフォード大統領以来、トランプ大統領で7人目です。ひとり抜けているのは、第43代ブッシュ大統領でした。当時“テロとの戦い”のさなかアジア歴訪中だったこともあり、日程を十分確保できず、国賓ではなく公式実務訪問賓客として日本を訪れました。現在の上皇さまが会見されています。
様々な事情から、国賓として迎えられなかった相手にも、「細やかな気配り」は必要です。トランプ大統領も、前回おととしの初来日は、国賓ではなく公式実務訪問賓客でした。
 
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昨夜の宮中晩さん会のメニューにも「細やかな気配り」がありました。明治以来の慣例でフレンチのフルコース。デザートの富士山をかたどったアイスクリームは、5年前に国賓として来日した当時のオバマ大統領も喜ばせた“定番”です。
オバマ前大統領のために用意されたメインの羊は、栃木県にある宮内庁が管理する牧場で丹念に飼育されたものでした。でも、トランプ大統領は牛ステーキが大好物。事前に主賓の好みを徹底的に調べあげ、「細やかな気配り」を欠かさない。それが“おもてなし”の極意なのでしょう。

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では、なぜそこまで気配りをするのでしょうか?「交流を絶やさない」ためです。いま日米関係は良好で安定しています。しかし、一般に国と国との間で、政府どうしの関係には、良い時もあれば悪い時もあります。たとえ政府どうしで関係が悪くても、国賓や公賓レベルの交流を絶やさず、長期的な“信頼の絆”を結んでおけば、やがて関係修復も可能です。だからこそ、国賓への“おもてなし”は重要です。
もうひとつ重要なのは、こうした関係が、国民どうしの分厚くて幅広い交流という硬い土台の上に築かれていることです。この土台が崩れると、国と国との関係そのものが崩れかねません。

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アメリカの大統領経験者で日本を初めて訪問したのは、第18代大統領ユリシーズ・グラントでした。大統領を退任してから世界1周の旅に出たグラントは、明治12年、日本に国賓として2か月滞在し、明治天皇も宿泊先の東京・浜離宮で会見しました。
南北戦争を北軍の勝利に導いた“英雄”で、現在の50ドル札に肖像が描かれたグラントは、軍人としては優秀でしたが、大統領としては実績に乏しく、歴史的評価は分かれます。
しかし、日本にとっては恩人です。大統領時代は岩倉使節団を歓待し、退任後の来日でも、近代国家として歩みを始めた日本がどうすれば発展できるか、親身にアドバイスしてくれました。

当時グラントが東京・芝の増上寺に植えた松は、今や立派な大木に育っています。上野公園での歓迎会は、東京府民で埋め尽くされたと言います。その出来事を忘れないため、50年後の昭和4年に記念碑が建てられました。「平和を我らに」そんなグラントの言葉が刻まれました。しかし、やがて日米関係は悪化の一途を辿り、開戦。昭和19年11月の空襲で、グラントが明治天皇と会見した浜離宮の茶屋も焼失してしまいました。

戦後長い時間をかけて、親密さを増してきた日米関係。国賓への“おもてなし”は、相手が誰になっても今後も大切です。でも、もっと大切なのは、土台となる国民どうしの交流を絶やさず育んでいくことです。今回のトランプ大統領の来日をきっかけに、日米双方で1人でも多くが、互いに相手の国への興味と理解を深めていけると良いですね。

(髙橋 祐介 解説委員)

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