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「女性議員 どうしたら増えるの?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

女性の政治参加を促すための「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されてから、きょうで1年になります。
ただ、現状では、日本の女性の政治進出は、世界各国と比べて、遅れていると言わざるを得ない状況です。
女性の政治進出を阻む壁は何なのか。女性議員を増やすには、どんな課題があるのか。政治担当の増田解説委員に聞きます。

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Q1)
増田さん、日本の女性の政治進出が遅れているということですが、実際、どういう状況なのでしょうか。

A1)
はい。この問題では、列国議会同盟・IPUが、衝撃的なデータを発表しています。こちらをご覧ください。

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日本の国会の女性議員の比率は、現在、衆議院が47人で10.1%、参議院が50人で20.7%です。

そしてこの数字をふまえて、IPUが2019年2月1日時点の各国議会の女性進出に関する調査報告をまとめました。

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これは、世界の193か国の一院制議会または下院での女性議員の数を比較したもので、日本の場合は、衆議院が対象になります。
それによりますと、1位はルワンダで、61.3%、ただ、ルワンダの場合は、内戦によって多くの男性が亡くなったという特殊事情があります。そして、キューバ、ボリビア、メキシコ、スウェーデンと続きます。

Q2)
そして、日本はというと・・・何位なんでしょうか。

A2)
日本は164位でした。しかも、前の年から順位を下げています。G7・先進7か国では、日本以外に100位台の国はなく、断トツの最下位です。中国や韓国よりも下で、G20・主要20か国でみても、最下位でした。

Q3)
日本では、去年、新しい法律が施行されましたよね。
このことは、今回の調査報告に反映されているんですか。

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A3)
「政治分野における男女共同参画推進法」が施行されたのは、ちょうど一年前、去年の5月23日です。それ以降、衆議院の総選挙は行われていませんので、今回のIPUの調査における日本の女性議員の比率や数は、前の年と変わりません。ただ、他の国が伸びたので、相対的に日本の順位が下がっています。

Q4)
では、実際のところ、法律の施行から1年たって、日本の女性議員の数は増える傾向にあるんでしょうか。

A4)
「政治分野における男女共同参画推進法」は、国政選挙や地方議会の選挙で、男女の候補者の数ができる限り、「均等」になるよう政党に努力を求める理念法です。この法律の施行後、初の大型選挙として、この春、統一地方選挙が行われました。

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この時は、41の道府県議会選挙に立候補した女性の候補者はあわせて389人で過去最多、全体に占める割合も12.7%と過去最高となりました。とはいっても、前回・4年前と比べて増えたのは10人だけですし、全体に占める割合も1割強に過ぎません。
少数者の意見が意思決定に反映されるには3割が必要といわれていますし、政府が掲げる女性管理職の目標も「2020年に3割」となっていますから、そうした数字には程遠い状況です。

Q5)
女性の政治進出、どうして進まないんでしょうか。

A5)
はい。私も、実情を知りたいと思いまして、この問題に取り組んでいる与野党の女性議員に話を聞きました。

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まず、自民党の松川るい参議院議員。議員になる前は、外務省で初代の女性参画推進室長を務めました。現在は、超党派の「国際女性活躍推進議連」の事務局長です。2人の子供を育てる母親でもあります。松川氏は、「日本では、『政治はボーイズクラブ・男性の世界』という意識が根強い。女性が立候補したいと思っても、男性の現職が多くて、なかなか選挙区が空かない」と言います。また、議員になっても、「選挙区での集会廻りなどで土日を使い、仕事のスタイルは不規則、子育て中の女性議員がそれに合わせるのは無理がある。ベビーシッターや夫の協力など、バックアップなしでは難しい」と話します。

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こうした状況をふまえ、松川氏が主張しているのが、男性の育児休暇の義務化です。「日本の女性は、男性の7倍の時間を家事と育児に使っているとされている。これでは、女性が男性と同じように活躍することは難しい。一方で、日本の男性の育児休暇の利用率は5.1%に留まる。育休を取れば、出世に不利になると考えるからだ。これを解消するためには、育休を事実上、義務化する。つまり、申請がなくとも、企業の側が育休を与えるようにするしかない」と言います。

Q6)
確かに、女性にとって、仕事と育児の両立は大変です。もっと、男性が育児をサポートできる環境を整えてほしいとは思います。

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A6)
はい。次に、立憲民主党の大河原雅子衆議院議員です。党のジェンダー平等推進本部の事務局長を務め、女性の立候補支援に取り組んでいます。政治活動をしながら、3人の子供を育てました。
大河原氏も、日本社会の根底には、「女は家庭で、男は仕事。特に政治の世界は男のもの」という意識が根強くあるといいます。

「女性の立候補を支援しようというと、『女にゲタをはかせるな』と批判する男性がいる。自分は生まれながらにゲタをはいていて、裸足で歩いたことがないことに気づいていない」と指摘します。

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その上で、大河原氏は、「子育て支援や介護といった問題は、全て政治につながっているのに、そのルールを決めている国会や地方議会に、実感を持った女性の視点が足りない。虐待や貧困など困難を抱える女性の声を形にするためにも、女性議員が必要だが、女性には、資金面や家族の反対などあらゆる壁が立ちはだかる。党では、立候補をめざす女性のために、選挙資金の準備に関する相談窓口を設置しているが、立候補へのハードルを下げるため、供託金の引き下げも検討する必要がある」と話しています。

Q7)
確かに、女性が政治の世界に飛び込むのは、大変なことだと思います。サポートする仕組みが必要ですよね。

A7)
そうですね。こうした中、女性議員を増やすため、松川氏と大河原氏がともに、検討する価値があると指摘するのが、クオータ制の推進です。

Q8)
クオータ制と言いますと。

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A8)
クオータ制とは、政治における男女間格差を是正するため、議会選挙の候補者における一定の人数や比率を、女性に割り当てる制度をいいます。最初に導入した国は、ノルウェーで、憲法や法律で定める方法と政党による自主的な運用を合わせて、現在、130以上の国がこの制度を導入しているとされています。
日本の「政治分野における男女共同参画推進法」は、男女の候補者数ができるだけ「均等」になるよう、政党に努力を促す内容に留まっていますので、クオータ制の推進というのは、これを、より強制力のある制度に改めようという議論になります。

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例えば、日本の政界で注目されているのが、フランスで2000年に制定されたパリテ法です。パリテとは、フランス語で「同等」を意味し、この法律では、比例代表選挙の候補者名簿の記載順序を男女交互にすることや、選挙区での政党の候補者を男女同数にすることが定められました。また、候補者の男女差が2%を超えた場合には、政党への助成金を減額する罰則が定められています。

Q9)
強制的に女性議員を増やそうという政策ですね。ただ、これには、反発はないんでしょうか。

A9)
ありますね。男性の側の正当なチャンスを奪うことになる、いわゆる逆差別になるという意見です。女性の方が尻込みするのではないかという見方もありますし、そもそも、こうした制度は日本の政治風土になじまないという指摘もあると思います。
それでも、強制力のあるルールで一押しして、最初のドミノを倒さないと、状況は変わらないという意見もあります。
令和の時代は、多様性が尊重される時代だといわれます。
社会の多様な声を反映した民主的な議会とは、どうあるべきか。
政治の場での真剣な議論が求められています。

(増田 剛 解説委員)


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