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「クレーターもできた! 快挙続くはやぶさ2」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

はやぶさ2の快挙が続く。
小惑星の内部を探るため、金属の塊を衝突させてクレーターを作ることに成功したことが、先月確認された。着陸に続く快挙で、惑星探査の先輩格のアメリカも助言を求めてくるまでとなっている。
はやぶさ2の探査について、水野倫之解説委員の解説。

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できたクレーター、深さははっきりしないが、直径10mほど地形が変化していた。
その画像がこちら。

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金属を打ち込む前に撮影した画像と比較すると違いがわかる。
このくぼみがクレーターで、もともと埋まっていた岩があらわになったり、
この大きな岩は端が欠けている。

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小惑星に人工的にクレーターを作ったのは世界初。
今回も1号機の失敗を教訓に、
いくつもの安全対策を積み重ねてきたことが功を奏した。
はやぶさ2は先月、リュウグウ上空で衝突装置を分離、
火薬を爆発させて金属の塊を表面に衝突させるという少々手荒い方法。

塊を天体に打ち込むとどうなるのか。チームでは実験室で数百回の衝突実験を行い、
岩石の破片が逆円すい形に勢いよく舞い上がることがわかった。
重力が弱い小惑星では破片がさらに舞い上がり長時間漂う可能性もあるため、
はやぶさ2は衝突の瞬間、小惑星の影に隠れたほか、
カメラを放出して衝突の瞬間を撮影して警戒。
その画像がこちら。

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破片が逆円すい形に高さ70mほど舞い上がっている様子がわかる。
はやぶさ2はリュウグウから念のため100キロ離れて避難。
先月末に再びリュウグウに接近してクレーターを見つけた。

直径10mというのは想定の中で最大級で、大変な驚きという。
というのもこれまでの衝突実験で砂地であればできるかどうかいう大きさだということで、
岩だらけのリュウグウだが、岩の下に砂の層があるのかも。
最も注目しているのは黒い部分。
チームではむき出しになった地下の岩石が黒く見えているのではないかと。
チームはこの小惑星の地下の物質を手に入れたい。

地表面と違って地下は、太陽からの粒子や放射線の影響を受けにくく変質しておらず、
太陽系が誕生したときの物質がより新鮮な状態で残されていると考えられている。
こうした小惑星が昔、地球に衝突して水や有機物をもたらし、
それが地上の生命の元となったとも。
地下の新鮮な岩石を持ち帰れば、そのあたり手がかりが得られる可能性。
チームは、黒くなった領域に再び着陸して岩石を採取することを検討。

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ただリュウグウはこれから太陽に近づいて地表面が熱くなるため
7月初めまでに着陸しなければ。ただやはり平坦な場所がなければ着陸できない。
チームではクレーター周辺の地形を詳細に観測し、
実際に着陸するかどうか判断する。
ただチーム内では慎重な意見が多い。
すでに1回着陸して岩石を採取できたとみられているので、
これを何としても地球に持ち帰って調べたいという研究者が多い。
再着陸でトラブルが起きて地球に帰還できなければ元も子もない、というわけ。
ここまでの着陸・岩石採取、そしてクレーターと
快挙が続くはやぶさ2の探査に強い関心を寄せているのが、アメリカ。
同じように探査機を小惑星に送り岩石採取を目指していて、
プロジェクトチームのメンバーが先月来日、はやぶさチームに助言を求めてきた。

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はやぶさ2をどうやってピンポイントで着陸させたのか、
そのノウハウを聞きたいという。
NASAの探査機は去年12月、地球から1億2,000万キロの小惑星「ベンヌ」に到着し、
同じように着陸して岩石採取を目指しているが、
リュウグウに勝るとも劣らずゴツゴツの状態で、
安全な着陸場所を探すのに苦労している。

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そこで会合ではNASA側からどうすれば探査機を狭い範囲に誘導できるのか、
その詳細な方法について助言を求め、はやぶさチームが着陸方法を解説した。
宇宙開発はお互い競争だが、小惑星探査に関して言えば、太陽系がどうやってできたのか、
地球生命はどのように誕生したのかという人類共通の関心に答えていくもので、その探査に国境は関係ない。

会合では日本チームからもアメリカの探査に大きな関心が寄せられた。
それはベンヌの表面から粒子が噴きだす現象。

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先月までに15回観測され、
1回につき50個から100個の粒子が最大秒速3mで飛び出している。
リュウグウにはない現象で、メカニズムは全くわかっていない。
日米は、岩石を地球に持ち帰った後、交換しあって分析することにしており、今後お互いが協力して、噴出の謎、そして地球生命の起源の謎の解明に取り組んでほしい。

(水野 倫之 解説委員)


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