2009年に新型インフルエンザの感染が世界中に広がりました。当時、毎日マスクをして外出したのを覚えている人も多いと思います。
新型インフルエンザは、2009年の4月頃から世界に広がり始めて、5月に日本で最初の感染者が見つかりました。それからちょうど10年になります。
10年前とは別の新型インフルエンザが今後、流行するという脅威は今も続いています。
それがいつ発生するのかは、わかりませんが、次のパンデミック=つまり世界的流行が、仮にいま起きたら、どうなるのか、どうしたらいいのか考えてみます。
◇過去の新型インフルエンザと次の被害想定
下の図は、過去に起きた新型インフルエンザのパンデミックを示したものです。
1918年のパンデミックは「スペインかぜ」として知られています。「かぜ」と呼んでいますが、スペインかぜも当時の新型インフルエンザだったのです。2009年までの間、パンデミックは10年から40年くらいの間隔で起きています。何度も繰り返されていて、次も起こると考えておく必要があります。
2009年のとき、日本ではおよそ200人が死亡し、2000万人以上が感染したとされています。
次のパンデミックについては、国の被害想定があります。日本だけで、17万人から64万人が死亡し、3200万人つまり国民の4人に1人が感染すると想定されています。
なぜ、これほど違うのでしょうか。
2009年は、重症になる人が比較的少ないタイプのウイルスだったことなどから、こうした規模だったと考えられています。次のパンデミック(世界的流行)は、想定より被害が少ないこともあり得ますが、1900年代の被害をみると、ここまで想定する必要があるのです。
◇新型インフルエンザの脅威とは
新型インフルエンザは、誰も感染したことがないので、世界中の人=人類は免疫を持っていません。このため、ひとたび人の間で感染するようになると、世界中に爆発的に広がるパンデミックになると考えられています。また重症化しやすく、多くの死者を出してしまうのです。このため、警戒が必要なのです。
◇患者が確認されたらどうするか
仮に日本で、いま新型インフルエンザの患者が確認されたら、私たちはどうしたらいいのでしょう。
基本は、人混みに行かない、手洗いの徹底、咳をするときは手で覆わすにハンカチなどで口を覆う「せきエチケット」を行うといったことになります。毎年の冬のインフルエンザのときと同じです。
基本はこうなりますが、国内で感染が拡大するような状況になると、総理大臣が「緊急事態宣言」を発表します。
国民に対して、様々なことが求められます。
具体的には、
▽不要不急の外出の自粛の要請、
▽催し物の中止などの要請、
▽生活物資の価格が買い占めなどによって高騰しないようにしないといけません。高騰していないか国や自治体が監視することになっています。
さらに、
▽学校閉鎖などの措置も広い地域でとられることが考えられます。
国の想定では、会社など仕事を休む人は、一時的に最大40%程度になるとされています。
◇生活への影響
健康被害だけでなく、日常生活への影響も大きくなってきそうです。具体的に見てみます。
電気・水道・ガスといったライフラインの事業者は、供給を維持できるよう、あらかじめ計画を立てています。
ただ、例えば鉄道などは、必要な人員を確保できなくなる恐れがあります。「状況によっては、在来線や新幹線の運行本数を減らすこともあり得る」と鉄道会社は話しています。会社員の人も、通勤の人混みを避けるということもあって、在宅勤務にするなどの対応を迫られるかもしれません。
運送業は、ただでさえ人手不足なので、影響が大きくなる恐れがあります。
例えば、インターネットで購入した商品がなかなか届かない、あるいはコンビニに行っても商品が揃っていないということも考えられると指摘されています。新型インフルエンザによる経済的損失は、日本だけでおよそ20兆円に上るという試算もあります。
ものが手に入りにくくなると、生活に困ってしまいます。
政府は、新型インフルエンザ対策として、食料や日用品など2週間分を備蓄しておくよう求めています。主なものがこちらです。
米、パン、レトルト食品。マスク、常備薬、トイレットペーパーなどがあります。災害用の備蓄と共通したものが多くなっています。電気・水道・ガスといったライフラインは使えるとみられますから、水やお湯を使う食品も含まれます。
◇感染したと思ったら・・・
仮にいま、新型インフルエンザの感染が国内で報告されているとして、熱が出るなど「自分が感染したかもしれない」と思ったらどうすればいいのでしょうか。
国内の患者が少ないうちであれば、自治体に設置される「相談センター」などに電話して、感染の疑いがあれば、指定された医療機関で診察を受けます。感染が確認されれば、入院などの措置がとられます。
このとき国は、その患者と過去に接触した人を調べるなどします。感染した人全員を把握して、ウイルスが広がらないよう対策を進めます。
ただ、感染者の人数が増えてくると、こうした対応にも限界が出てきます。
感染者が多数になると、毎年の冬のインフルエンザの時のように、普段かかっている医療機関で、他の患者と違う入り口から入るような対応に切り替わっていきます。
◇治療や予防の体制
新型インフルエンザに対する、治療や予防の体制はどうなるのでしょうか。
国は、新型インフルエンザに備えて、国民の45%分のインフルエンザ治療薬の備蓄を進めています。「新型」と言っても、同じインフルエンザなので、従来の治療薬でも一定の効果が期待できます。
さらに、予防のため、新型インフルエンザに対応したワクチンの開発・製造が急ピッチで進められます。発生後、半年で国民全員分のワクチンを作る体制を整えるとしています。
◇ワクチン接種
新型インフルエンザが流行していることを考えると、ワクチンを求める人たちが殺到しそうですが、大丈夫でしょうか。
ワクチンは、優先順位を決めて接種されることになっています。患者に接する機会のある医師や看護師など医療関係者、警察官など治安維持に欠かせない人など、そして公共性の高い仕事をしている人も優先されます。
それ以外の人も、流行しているウイルスがある病気の人や高齢者が重症になりやすいといったことがわかれば、その病気の人や高齢者を優先するというように、よりリスクの高い人から接種されることになります。具体的な優先順位は、発生後に正式決定されます。
国民全員分もあると、接種すること自体に大変な手間がかかります。効率よく接種するため、学校や公民館などで、地域の人に集団接種が行われることになります。
◇正確な情報を得ること
このように見てくると、国がどのようなことをしてくれるのか、正確な情報を入手することが大事になることがわかります。
10年前と大きく変わった点ですが、SNSなどの発達で情報が行き渡りやすくなった反面、デマや不正確な情報が飛び交い、混乱するのではないかということが心配されています。
パンデミックの時、国は記者会見を定期的に開くことにしているほか、ホームページなどで情報提供することにしています。こうした信頼できる情報に基づいて、行動することが求められます。
今回は、仮に「いま新型インフルエンザが発生したら」ということをみてきました。
いつ発生するかわからない、パンデミック・世界的大流行に冷静に対処するためには、新型インフルエンザの発生で、どのようなことが起こるのか、どう行動したらいいのか、考えておくことが大切です。
(中村 幸司 解説委員)
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