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「ノートルダム再建へ 広がる支援」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

世界中に衝撃を与えたパリのノートルダム大聖堂の火災から1週間、被害の状況が次第に明らかになってきました。同時に再建をめぐる動きも活発化しています。

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Q.大聖堂の火災は衝撃的でした。

ノートルダム大聖堂はゴシック様式を代表する建造物で、世界中から毎年1300万人が訪れるパリのシンボルです。火災直後に市民も旅行者も誰もが言葉もなく立ち尽す光景は、衝撃の大きさを物語っていました。

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12世紀から180年かけて建造され、1804年にはナポレオンの戴冠式が行われました。廃墟となった時期もありましたが、大聖堂を舞台としたヴィクトル・ユゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」で再び脚光を浴びて修復されました。小説はディズニーの「ノートルダムの鐘」でアニメ映画化されました。1991年には大聖堂を含めた一帯が世界遺産に登録されました。また、大聖堂はフランス各都市への距離を表す起点ともなっています。まさにフランスの中心であり、国民の心のよりどころでもあるのです。

Q.火災の原因は特定されたのですか?

改修工事用の足場付近から出火したと見られ、作業用エレベーターの電気回線がショートした可能性が指摘されていますが、出火原因の特定にはまだ時間がかかりそうです。

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被害の状況は少しずつ明らかになっています。出火からまもなく高さ93メートルの尖塔が焼け落ち、大聖堂の屋根も崩落してしまいました。大聖堂といえば石でできているイメージが強いのですが、これらの部分は木造だったのです。一方、イエス・キリストが十字架に張り付けられる際にかぶっていたとされる「いばらの冠」やルイ9世が身に着けていたとされる上着などは、火災直後に消防士に運び出されて無事でした。ステンドグラスやパイプオルガンも大きな被害は免れたようです。

Q.再建の動きも始まっていますね。

火災の翌日、マクロン大統領はテレビ演説で、「5年以内に大聖堂の修復を完了する」と表明しました。5年後といえば尾パリでオリンピックが開かれます。それまでに再建したいというわけです。一方、フィリップ首相は、尖塔を再建する場合は世界中からデザインを募集することを明らかにしました。

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Q.これまでとデザインが変わる可能性もあるのですか?

はい。尖塔を再建するかどうかも含めて公募で決め、再建する場合は火災前と同にするか、まったく新しい近代的なものにするか国際的なコンペティションを行うとしています。大聖堂全体の構造は残されており、尖塔や屋根のデザインが変わっても世界遺産としての価値は変わらないだろうと専門家は話しています。何年か後にどのようなかたちで復活するのか楽しみですね。

Q.再建を支援する動きも広がっているようですね。

パリ市長が再建のための寄付を呼び掛けたところ、わずか2日で8億ユーロ、日本円で1000億円近くが集まりました。フランス有数の資産家である「モエ・ヘネシー・ルイヴィトン」のCEOは2億ユーロ、およそ250億円の寄付を申し出ました。グッチやサンローランなどを所有するケリングの会長兼CEOも1億ユーロと、寄付文化のヨーロッパとはいえ日本では想像もつかない額ですね。
多額の寄付に対してはパリで反政府デモを続けている「黄色いベスト運動」が、「税金逃れ」だとか貧困層への支援に回すべきだと抗議していますが、歴史的な文化遺産を保存、修復し後世に残すことも意味のあることだと思います。

Q.日本から再建に協力したいという人はどうすればよいのですか?

フランス政府は、世界各国に再建への支援を求めており、これら4つの財団を通じて募金活動を行っています。8年前の東日本大震災ではフランスから多額の義捐金が寄せられただけに、今度は日本から支援したいという人も大勢います。

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世界文化遺産の高野山を抱える和歌山県高野町(こうやちょう)では17日から町役場や観光情報センターなどで募金の受付を始めたところ、大勢の町民が募金に訪れ、町民以外からも募金が寄せられているということです。

Q.とはいえ再建は簡単ではないですね。

歴史的建造物の修復には長い年月と莫大な費用がかかります。ノートルダム大聖堂の再建の手本となるのではないかといわれているのが、1984年に火災の被害を受けたイギリスのヨーク大聖堂です。
ヨーク大聖堂でも修復工事中に火が出て大聖堂の屋根が崩落し、有名なステンドグラスが粉々になってしまいました。ステンドグラスは専門家の手で4万個の破片がジグソーパズルのようにつなぎあわされ、4年後に復活しました。

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瓦礫からよみがえったのがドイツ東部ドレスデンのフラウエンキルフェ、聖母教会です。第二次世界大戦中、イギリス軍の空爆で町は完全に破壊され、教会も瓦礫と化しました。45年後に始まった再建を求める市民運動が実を結び、300年前の図面をもとに破片を一つ一つ組み合わせる作業の末、2005年に復活しました。蘇ったバロック建築の美しい教会には数万の市民が祝福に駆けつけ感動に包まれました。さらに空襲に参加したイギリス空軍パイロットのお子さんが新しい十字架を教会に寄贈するなど、教会は悲劇を乗り越え和解の象徴となりました。再建費用の半分以上が内外からの寄付金で賄われ、日本からも大勢の人が再建に協力しました。

Q.ノートルダム大聖堂の再建も歴史に刻まれるのでしょうか。

そうなるでしょう。フランスは反政府デモが続き、国が二分されているだけに、教会の再建が国を一つにまとめるチャンスとなって欲しいものです。また、今回の火災は歴史的建造物の防火対策を強化するきっかけになるのではないでしょうか。大聖堂の焼け落ちた木造の屋根の部分にはスプリンクラーが設置されていなかったと指摘されています。また、出火の30分前に火災警報器がなったにもかかわらず異常がないとして見逃されてしまいました。原因の究明とともに防火対策の見直しが急務です。

Q.歴史的建造物の防火対策は日本も他人ごとではないですね。

はい。とくに日本は木造建築が多いため防火対策は重要です。

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日本では昭和24年、ちょうど70年前に世界最古の木造建築、法隆寺金堂で、暖房用の座布団から火が出て燃え広がり、国宝の壁画が焼けてしまいました。これを機に文化財保護法が制定され、火災があった1月26日を文化財防火デーとして毎年防火訓練が行われています。お寺や神社が自衛の消防団を組織して初期消火の訓練を行ったり、非常時に貴重な文化財を搬出する訓練を行ったりしています。また、景観を壊さないように地下や床下に消火用の放水ポンプを設置しているところもあります。今回のノートルダム大聖堂の火災を教訓に日本の文化財保護をより拡充するとともに、日本の進んだ取り組みを世界に広めていくことも重要ではないかと思います。

(二村 伸 解説委員)


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