東京都内で、外国人の新たな在留資格を取得する試験が行われました。
国内では初めてで、この日はホテルなどで働くことを希望する130人が受験しました。
働く外国人の受け入れを拡大する制度が、4月1日から始まりました。ここまでの準備状況や今後の課題についてお伝えします。
【新しい「特定技能」の在留資格】
Q:外国人労働者の新たな制度、よくニュースで見ますが、どういう仕組みで、どのくらいの人が日本に来るのでしょうか。
A:新しく設けられたのは「特定技能」という在留資格です。
対象は人手不足が深刻な建設や農業、介護など14分野です。日常会話程度の日本語の試験と、業種ごとの技能試験に合格することなどの基準があります。
政府は今後5年間に最大34万人の受け入れを見込んでいます。滞在期間は通算で最長5年(「1号」の場合)。給料は日本人と同等、あるいはそれ以上とされています。
Q:先ほどの試験は「宿泊」分野ですね。いつごろ日本へ来るんでしょうか?
A:14分野のうち、今月中に試験が行われるのは、宿泊のほかに介護、外食の3業種です。今後は、ほかの分野も準備ができ次第、海外の各地で試験が行われます。このため法務省は、試験に合格して就職先を見つけ来日する人が本格化するのは、この夏以降ではないかと話しています。
【外国人の相談窓口は】
Q:来日した人への支援はどうなっているのでしょうか。
A:政府は全国の111の自治体に11か国の言葉に対応できる相談窓口を設置する方針を打ち出しました。ただ実際に運営するのは自治体で、多くは交付金を受けて、すでにある相談窓口を充実することになります。
今回私は窓口の1つを実際に訪ねてきました。外国人が多い東京・新宿区です。
相談窓口があるのは歌舞伎町です。新宿区は住民の8人に1人が外国人。4万3000人あまりに上っています。
「しんじゅく多文化共生プラザ」は制度ができる前から外国人向けの相談窓口を設けています。この日は、「タイ語」と「ネパール語」と「中国語」の相談員の方がいました。ここでは月曜から金曜まで日替わりで、日本語を含めて合計7か国語に交代で対応しています。
Q:それでも、政府が求めている11か国語には足りませんね。
A:そこで新宿区の相談窓口では、タブレット端末を使っています。国のボタンを押せば、通訳につながります。これが13か国語あります。新宿区は、2か所の窓口で年間5000件の相談を受けているそうです。新宿区も国から運営費として交付金を受けることになっています。
【間に合わない自治体も】
Q:新宿区は相談窓口の対応も充実していますね。でも、全国的にはどうなっていますか。
A:まだ進んでいないところが少なくありません。政府が打ち出した相談窓口の設置は全国111の自治体ですが、法務省によると、対象となる自治体から実際に申請があって交付が決定したのは4月17日現在で68でした。6割程度にとどまっています。
Q:どうしてそれだけしかないんですか。
A:一番の理由は時間がなかったからだと思います。
この法律ができたのは去年12月上旬、総合的な対応策が示されたのは年末でした。相談窓口の交付金募集をしたのは、2月から3月にかけてで、今月1日から、もうスタートというあわただしさです。
自治体の中には申請をしたくても年度末で応募期間が短いため、間に合わなかったところもあるようです。いうなれば「急ごしらえの法律のしわ寄せ」が地方に来ているわけで、自治体を責めることはできないと思います。政府はサポートを続けてほしいと思います。
【生活支援は「企業の役割」】
Q:これから近所に外国人が越してたら、どうなるのか。生活のルールを守ってもらえるのか不安を感じている人もいると思います。
A:心配な人も少なくないでしょう。ゴミ出しのルールなどは、自治体も情報提供を行いますが、就職先の企業にも支援する責任があります。法務省は最近、企業などの対応をまとめた運用要領を発表しました。
ここでは義務的支援=企業などが行わないといけないこととして、▼日本に来た外国人の出迎え▼部屋を借りる時には保証人になることなど、そして▼電気やガスの手続きの手助けなどです。
ほかにも生活マナーなどの指導として▼ゴミの出し方や▼交通ルールを教えること▼近所の迷惑にならないように生活すること、このほかには▼日本語学習の機会を提供することも、企業の役割になっています。
Q:会社も忙しそうですね。
A:これが公表されたのも、3月20日。1か月もたっていないため、こうした運用要領もまだ広く知られていません。
もちろん、来日する外国人労働者自身が、あらかじめ日本の習慣を学んで、周囲に迷惑をかけることがないようにすべきです。また、自治体や企業は、住民から苦情があれば、本人にきちんと働きかけることも求められます。
【悪質ブローカー排除を】
Q:会社も早く受け入れの体制を整えることが必要ですね。
A:もう一つ、企業には求めたいことがあります。それは悪質なブローカーを関与させないということです。
日本にはすでに、今回の「特定技能」とは別に「技能実習生」が30万人以上います。しかし、去年1年間で9000人あまりが「失踪した」とされています。年々増え続けて5年前の2点5倍以上です。
Q:どうしてそんなに増えているんですか。
A:定められた賃金を支払わないなど職場の問題、実習生本人の問題もありますが、支援団体によると、出国前に悪質なブローカーに多額の金を払った結果、借金を返済できず、姿を消す事例も後を絶たないそうです。
Q:日本に来た時点で、すでに高額の借金を背負っているケースがあるわけですね。
A:専門家は、今回の「特定技能」でも、雇用して来日する段階で、特に送り出し国側にいる悪質なブローカーが介在するおそれがあると、危惧しています。
企業にとっても雇用した人が多額の借金を抱えて、姿を消す事態は避けたいはずです。
政府は「悪質なブローカーの排除」を打ち出しています。もちろんこれは、本来新しく設置された出入国在留管理庁が果たすべき責任ですが、政府も企業も本気になって、実効性のある対応を求めたいと思います。
新たな制度は、準備期間の短さもあって、いくつもの課題が指摘されています。ただ、すでにスタートした以上、「特定技能」の在留資格を持つ外国人が日本のルールやマナーを守って生活し、不安なく仕事をできる制度を実現することが求められます。
(清永 聡 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら