「ラグビーW杯イヤー ラグビー通じ障害者スポーツを」(くらし☆解説)
2019年04月11日 (木)
西川 龍一 解説委員
激しいプレーが特徴のラグビー。ラグビーワールドカップがこの秋、アジアで初めて日本で開催されます。大会を前に、そのラグビーが障害者スポーツの可能性を広げるのに一役買おうとしています。
きょうは「W杯イヤー ラグビー通じ障害者スポーツを」と題してお伝えします。
Q1.ラグビーというと、激しい身体のぶつかり合いという印象があります。障害者とはなかなか結びつかないように思いますが、そんなことはないのですか?
A1.そうなんです。例えば、車いすラグビー。去年開かれた世界選手権で日本代表が初の金メダルを獲得したことで脚光を浴びました。手足に障害がある選手たちが車いすを使ってタックルします。
今回紹介するのは、また違った障害者向けのラグビー、ブラインドラグビーです。目の不自由な方のために考案されました。ラグビーワールドカップ日本大会が開催されるのを機に、今月1日、日本ブラインドラグビー協会が発足しました。先週末、埼玉県川越市で行われた練習会を取材しました。
練習会が行われたのは、埼玉県立特別支援学校塙保己一学園。県立の盲学校で、視覚障害者のスポーツにも力を入れています。
この日は、視力を矯正してもあまり目が見えない弱視の人たち5人のほか、指導者として地元のラグビースクールのコーチなどが参加しました。ブラインドラグビーでは、振ると音が鳴る特別なボールを使います。目が不自由な選手にボールの位置を知らせるためです。視覚障害者向けの球技、例えばブラインドサッカーやゴールボールなどもこうした工夫がされています。
ブラインドラグビーは、15人制ラグビーの半分ほどの大きさのグラウンドを使い、1チーム7人で行われます。ボールを持っている人は、ディフェンス側の選手に両手でタッチされるとタックルが成立したと見なされ、ボールを置かなければなりません。6回目のタッチで攻守が入れ替わるルールです。
Q2.激しいタックルはないんですね?
A2.視力が極端に低かったり、視野が狭かったりする方もプレーするので危ないですからね。それでもボールを落とすとスクラムを組んで再開するのは同じです。ただし、スクラムを押すことは禁止されています。
ブラインドラグビーに参加することで好きなラグビーに復帰したという人もいます。その一人、神谷考柄さんです。高校時代、大阪のラグビー強豪校のフォワードとして活躍し、大阪府大会でベスト4に進出。今は片眼がわずかに見える程度の視力しかありません。
(神谷さんインタビュー)
「10年越しでブラインドラグビーで戻ってきた感じです。ラグビーをあきらめていたので、こういう形でも日本に広めることに役立てるということは幸せな気持ちです。」
Q3.そもそもなぜ、こうした取り組みが始まったんですか?
A3.ブラインドラグビーは、ラグビー発祥の地、イギリスの財団が4年前に考案しました。イギリスでは視覚障害者の8割は1週間あたりの運動時間が30分に満たないと言います。運動したくてもできるスポーツがないというのも大きな要因です。ラグビーに興味があっても視覚障害者向けのラグビーが存在しないためプレーできない多くの人がいると考え、視覚障害者でも安全にプレーできる形でのラグビーが考案されたわけです。ブラインドラグビーは、目標の1つに、障害のある人たちと健常者の共生への壁を取り除くことを掲げています。
ラグビーワールドカップが開催され、ラグビー熱が盛り上がることが予想される日本にも、こんなラグビーがあるということを広めて欲しいと財団から声がかかりました。日本協会の会長を務めるのは、大学や社会人のラグビーチームで監督を務めた経験がある中途失明者の橋本利之さんです。
(橋本利之さんインタビュー)
「視覚障害者と健常者がいっしょになってスポーツを楽しんでいただき、視覚障害者の生活等を理解していただく。視覚障害者は、不便ということはあると思うが、不幸ではない。健常者も不便はいろんなところであると思うので、お互いそういったことがあるということをこのラグビーを通じて理解しあえればと思ってはじめました。」
Q4.共生社会の実現という意味でも、大きな意義を持っているんですね?
A4.そしてもう一つ、視覚障害者が取り組むスポーツの可能性を広げることにつながるという意味合いもあると話すのが、会場となった塙保己一学園の松居綾子教諭です。松居さんはこの学校で、長く視覚障害者のスポーツ活動を支えてきました。
(松居さんインタビュー)
「盲学校ではものを投げるという行為がないんですね。他の競技も床を転がすのが多いですし、実際ボールが来てもよけられないので危ない。こういう競技ってあることも想像できませんでした。子どもたち自由に動くと危ないので、動きを制限されることが多いと思うのですが、このラグビーは安全を考えながらも自分でボールを運んで走ってゴールまでいける。すごく達成感を感じられるスポーツだと思いますので、視覚障害者のスポーツにとっても新しいと感じてもらえると思います。」
Q5.いろんな可能性がありますね?
A5.ブラインドラグビーのボールは、パスをして空中にある間は音がしないため、目が完全に見えないとどこにあるかわからなくなります。そのため、今は全盲の人は参加できません。橋本さんや松居さんは、将来的にはこうした部分にも工夫を加えることで、すべての視覚障害者がいっしょに参加できるブライドラグビーを作っていきたいと話していました。
このブラインドラグビー、秋のラグビーワールドカップに合わせて、イギリスとニュージーランドから代表チームが来日し、日本のチームと試合をすることになっています。協会では関東地方のほか、神戸などでも練習会を開いてチームを強化していきながら、男女を問わず選手も募集するということです。新しく始まったブラインドラグビーが根付いていけば、ラグビーワールドカップ日本大会が残すレガシーの1つとなるかもしれません。
(西川 龍一 解説委員)
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