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「和風元号『令和』 国民の受け止めは」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

今の「平成」に代わる新しい元号が「令和」に決まりました。
来月・5月1日から、元号は「令和」になります。
出典は「万葉集」。日本の古典・国書を典拠とする初めての元号です。国民は、新しい元号をどのように受け止めているのか。
政治担当の増田解説委員に聞きます。
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Q1)
増田さん、この番組でも、元号の話題を何度か取り上げてきましたが、増田さんは、「令和」、予想していましたか。
A1)
全く予想していませんでした。特に、「令」の字には、驚きましたね。
「令和」は、最初の元号の「大化」以来、248番目の元号になりますが、「令」の字が使われるのは初めてなんです。
アルファベットの頭文字での表記は「R」になります。
典拠・いわゆる出典は、現存する日本最古の歌集「万葉集」です。
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奈良時代にまとめられ、全20巻におよそ4500首の歌が収められています。天皇や貴族から、当時の兵士の防人、無名の農民まで、幅広い階層の人々の歌が含まれています。そして、「令和」の2文字は、万葉集の第5巻、梅の花を歌った32首の序文に使われています。この序文には、奈良時代の天平2年に、当時の大宰府長官だった大伴旅人が宴会を開き、そこに集まった32人の役人が、庭にある梅にまつわる歌を詠んだ状況が綴られています。「時に初春の令月にして、気淑く風和らぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は凧後の香を薫す」。
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現代語に訳すと、「時あたかも新春のよき月、空気は美しく風はやわらかに、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香のごときかおりをただよわせている」となります。
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Q2)
自然や女性をイメージさせる文章から引用されていますね。
A2)
そうなんです。では、国民は、この新元号「令和」をどのように受け止めているのか。きのう・8日にまとまったNHKの4月の世論調査の結果をみていきます。

まず、「令和」という元号に、どの程度、好感が持てるかを聞いたところ、「大いに好感が持てる」が30%、「ある程度好感が持てる」が51%で、あわせて81%が「好感を持てる」と答えました。
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また、今回、初めて、元号が日本の古典から引用されたことについて、
「評価する」が63%、「どちらともいえない」が30%、「評価しない」は3%でした。男女別にみても、年代別にみても、この傾向は、ほとんど変わりません。多くの国民は、「令和」を好意的に受け止めているようです。
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一方、ふだん、元号と西暦のどちらを多く使うかを聞いたところ、「元号」が38%、「西暦」が21%、「同じくらい」が36%でした。
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国民の間では、元号と西暦を併用する習慣が根づいていることがうかがえます。
ただ、「令和」について、しっくりこないとか、なじみにくいと感じている人もいるかと思います。例えば、「令」という字には、「命令」という意味もありますから、政府が定める元号に、そのような意味を持つ文字が入ることに、抵抗感を覚える人もいるかもしれません。
実際、一部の海外メディア、例えば、イギリスのBBCは、「令和」の「令」の意味は、秩序を表す「order」だと速報していました。
こうした状況を受けて、外務省は、外国政府や外国メディアに、「令和」の意味を説明する際は、「beautiful harmony」
=美しい調和という意味が込められていると説明するよう、海外に駐在する大使や在外公館の担当者に指示しています。

Q3)
確かに、「令和」の意味やニュアンスを外国語で正確に表現するのは難しそうですね。
A3)
そうです。日本人の間でさえ、いろいろな解釈がありますからね。
また、発表から1週間がたちましたが、この間、新元号に「令和」が選ばれた舞台裏が、NHKをはじめとする報道各社の取材によって、次々と明らかになっています。
まず、「令和」の考案者ですが、国際日本文化研究センター名誉教授の中西進さんとみられることがわかりました。長年にわたり、万葉集の研究を続けてきた国文学者で、大阪女子大学や京都市立芸術大学の学長も務めました。平成25年には、文化勲章を受章しています。
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Q4)
政府は、新元号の考案者を公表していませんよね。それなのに、そこまでわかっちゃうんですか。
A4)
政府が公表しようとしないことでも、関係者に取材して報道するのが、ジャーナリズムの役割だと考えてください。
また、政府は、4月1日、各界の有識者からなる「元号に関する懇談会」を開き、ここに新元号の原案を初めて示しました。そして、衆参両院の正副議長の意見を聞き、全閣僚会議を経て、閣議で新元号「令和」を決定したんですが、この時、有識者懇談会に示された原案6つが、すでに明らかになっています。
「英弘(えいこう)」「久化(きゅうか)」「広至(こうし)」「万和(ばんな)」「万保(ばんぽう)」、そして「令和」です。このうち、
「英弘」と「令和」は、国書・日本の古典を典拠とし、「久化」と「万和」「万保」の3つは、漢籍・中国の古典を典拠としています。「広至」は、国書と漢籍の両方に拠っているということでした。
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Q5)
原案では、国書と漢籍がほぼ半々だったんですね。
A5)
そうです。ただ、これまでの247の元号は、確認できる限り、すべて漢籍が典拠になっていますから、そうした前例と比較すると、今回は、原案の段階から国書の存在感が大きかったといえると思います。実際、懇談会では、封筒に入った一枚の紙が配られ、このように、右から五十音順で6つの案が、典拠とともに並べられていました。

Q6)
「令和」に決まったからそう思うのかもしれませんが、「令和」が目立っているような気がします。
A6)
政府としては、単に、あいうえお順に並べただけということかもしれませんが、何となく、両端に目が行きやすいですよね。
また、懇談会の議論の詳細は明らかになっていませんが、懇談会の後、メンバーで作家の林真理子さんは「一人一人、意見を言いましたが、『令和』は、一番、人気があったと思います」と話していました。安倍総理も、1日夜のNHKの番組で、「有識者9人全員が国書を典拠とすべきだと言っていた」と明らかにしています。
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Q7)
安倍総理は、やはり今回、国書から採用したかったんでしょうか。そして「令和」が意中の案だったのでしょうか。
A7)
安倍総理の発言を聞く限り、そうした思いがにじんでいますね。
安倍総理は、3月に入ってから初めて、「令和」を含む複数の案について説明を受けたことを明らかにした上で、「令和は、漢籍を典拠としたものと違い、自然の情景が目に浮かぶ。厳しい寒さを越えて花を咲かせた梅の花が、咲き誇っていく。大変新鮮で、明るい時代につながる印象を受けた」と話しています。そして、典拠となった万葉集は、日本の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する、誇るべき国書だと繰り返し強調しています。
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ただ、これに水を差すわけでありませんが、専門家の間からは、「令和」も、実は、漢籍の影響を受けているのではないかという指摘が出ているんです。

Q8)
どういうことでしょうか。

A8)
万葉集に収められた歌は、当て字のような「万葉仮名」で書かれていますが、今回、引用元になった「序文」は、漢文で書かれています。ただ国書に書かれた漢文というのは、漢籍を引きながら記されている例が多いんですね。「令和」の考案者とされる万葉集の大家・中西さん自身、その著書の中で、序文は、中国の書家として名高い王義之の書の形式と同じだと指摘しています。
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今回のように、皇位継承前に新元号が発表されたのは、憲政史上初めてのことです。昭和天皇の病状悪化を受け、極秘に準備された30年前の平成改元と異なり、選定の手続きは事前に公表されました。世の中が重苦しい自粛ムードに覆われることもなく、例えば、新元号予想がネットを賑わせたのも、今回、初めて見られる光景でした。こうした明るい雰囲気の中で、元号をめぐる議論が自由に行われたこと。このことこそが、国民主権の世の中にふさわしい、今回の新元号選定の最大の意義だったと思います。

(増田 剛 解説委員)


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