「大学入学共通テスト 課題の克服は」(くらし☆解説)
2019年04月05日 (金)
西川 龍一 解説委員
きょうは、大学入試がテーマです。「大学入学共通テスト課題の克服は」と題してお伝えします。
Q1.大学入学共通テストというのは、今の大学入試センター試験にかわって行われるものですよね?いつから実施されるのですか?
A1.再来年2021年1月からです。この春、高校2年生になった生徒たちが現役で受験するのが最初ということになります。
共通テストの実施は、引き続き大学入試センターが担います。そこで大学入試センターは、実施に向けた課題を解決するため、試行テスト・プレテストをおととしと去年の2回行ってきました。去年11月に行われた2度目のプレテストは、実際に共通テストを行う大学を会場に実施され、およそ68000人の高校生が受験しました。4日、その分析結果が公表されました。
Q2.課題はどうなったのですか?
A2.一定の工夫によって克服のメドが立ったというのが大学入試センターの説明です。ただ、高校の現場や予備校関係者などからは依然残された課題は解消されていないという声が多く聞かれます。
Q3.課題としてはどのようなものがあげられていたのですか?
A3.今のセンター試験と新しい共通テストの違いがそのまま課題になっている形です。大学入学共通テストは、1点刻みの入試問題ではなく、知識を活用し、自ら判断する力を測るという大学入試改革の目的を実現するため導入されることが決まりました。大きく変わるのは、▽国語と数学にマークシートに加えて記述式の問題を導入すること、▽英語で「読む」「聞く」「書く」「話す」の4つの技能を評価することです。それぞれ課題は異なります。個別に見ていきたいと思います。
Q4.まずは、記述式ですね?
A4.記述式には、おととし行われた1回目のプレテストで、こんな課題が浮き彫りになりました。▽正答率が低くて選抜に使えないのではないか▽受験生の自己採点と採点結果が一致せず、出願の参考にできないのではないか、そして▽採点体制を確保できるのかという問題です。
Q5.正答率が低いというのは、問題が難しいということでしょうか?
A5.受験した高校生がこうした問題に慣れていないということもあるかと思いますが、1回目のプレテストでは、国語で120字の記述を求めた問題の正答率が0.7%とほとんどが解けなかったほか、数学はどの問題も半数前後が無回答という事態になりました。今回は、問題づくりを工夫するなどして国語の120字の記述式問題の正答率は15%となり、ほぼ想定通りの難易度だったと言います。一方で、数学は3つの問題ともに正答率が低いうえ、相変わらず無回答が多い状況は変わっていません。
Q6.自己採点が一致しないというのも困りますね。こちらはどうだったんですか?
A6.採点結果と自己採点の一致率は、国語が7割程度、数学が8割から9割程度と1回目とほとんど変わりませんでした。記述式はマークシートと違って自分の解答が許容範囲なのかどうかを受験者自身が判断することが難しいのが実状です。合っていると思っているのが間違いと採点されたり、逆に間違っていると思ったものが正解とされたりすることもあります。この点、大学入試センターは、解答の許容範囲がわかるような冊子を作るなどの対策を検討するとする一方で、「自己採点と採点結果を完全に一致させることは困難であると言わざるを得ない」との見解を示しています。そうであれば、自己採点をもとに志願先を最終的に決めるという制度そのものを考え直す必要があります。
Q7.記述式の最後は、採点体制ですね。マークシートのように機械では採点できませんよね?
A7.まさに、人海戦術での採点となります。こちらは、1回目のプレテストの結果を踏まえ、採点業者とのすりあわせや、実際の答案をみながら採点基準の調整などを進めることでおおむね計画通りに採点ができたというのが、大学入試センターの説明です。しかし、採点中に基準の調整をしたことが採点担当者に十分伝わらず、最終的にセンターで結果を補正するケースが出るなど、ここでも課題は残された形です。
Q8.記述式だけでも課題は多いように思いますね。大丈夫なんでしょうか?
A8.今回のプレテストに参加したのは68000人ほどですが、実際の共通テストは50万人を超える受験生が参加します。同じ規模の記述式の採点を事前に試験的に行うことはできず、ぶっつけ本番となるだけに、採点の質の確保ができるのかは不透明なままです。
Q9.英語のほうはどうなんですか?
A9.当面、「読む」「聞く」の2技能のみを評価するマーク式の共通テストと、4技能すべてを評価する民間の検定試験の活用という2つの方式を併用し、大学ごとにどの試験を利用するかを決めることになっています。問題は民間の検定試験です。利用できるのは受験年度の2回の結果で、成績は英語の国際指標である「CEFR」に換算した6段階評価と素点が大学入試センターを通して大学に示されることになっています。しかし、そもそも試験の目的が異なる検定試験を指標にあわせて換算して入試に使うこと自体、無理があるとの専門家の根強い意見があります。また、公平性を担保するとして、高校を会場にしたり、教員が試験監督をしたりすることはできないことになったため、受験機会の均等化や高額な検定料をどうするのかという問題もあります。これまでに多くの国公立大学が、英語についてどの試験を必要とするのかを明らかにしていますが、東京大学など検定試験を必須としない大学も多く、対応はまちまちというのが実状です。大学が理念に基づいてどのような学生を受け入れるかを判断するという意味では、大学ごとに判断が異なるのは当然のことではありますが、受験生側が戸惑うことのないような丁寧な説明が必要です。
Q10.入試の制度が変わるというのは、大変なことなんですね。受験生自身はもとより、保護者も不安にならないようにして欲しいですね。
A10.知識の活用力や判断力を測ることや、英語の4技能を評価するという理念そのものは理解できます。しかし、50万人が受ける共通テストでそれを実現するには思った以上に高いハードルが残っています。理念と課題の綱引きは決着しない状態なわけです。それならその部分は先送りという判断もあるはずですが、文部科学省はこのまま突き進む考えです。
平成のはじめに共通一次試験からかわった大学入試センター試験は、受験科目の組み替えなど、見直しが行われるたびに混乱が生じ、翻弄され続けてきたのは、その時たまたま受験期にあたった子どもたちです。共通テストは、採点や、英語の場合は試験そのものを民間の力に大きく依存することになるだけに、1度うまくいったからと言って、翌年以降も同じようにうまくいくとは限りません。その際、誰が責任を取るのか。スケジュールありきで進められた改革のつけを受験生に払わせるようなことだけはあってはならないと思います。
(西川 龍一 解説委員)
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