「豚コレラ イノシシ対策の効果は?」(くらし☆解説)
2019年04月03日 (水)
合瀬 宏毅 解説委員
岐阜県や愛知県で広がる家畜の伝染病、豚コレラに対し、国はイノシシへの対策を進めています。合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。
Q.豚コレラへの対策が、どうしてイノシシなんですか
イノシシがウイルスを媒介していると、考えられているからです。豚コレラは豚やイノシシの間で感染を繰り返す家畜伝染病です。日本では、去年9月に26年ぶりに岐阜県で豚コレラに感染した豚が見つかって以来、感染が止まらず、5つの府県、40の農場で豚が処分されています。
その豚コレラ、今回見つかったウイルスが、中国やモンゴルなどで流行している豚コレラと遺伝子配列が近いのですが、農場関係者がそうした地域との接点がないこと、それに農場の近くの野生のイノシシから、豚コレラウイルスが見つかっていることなどから、イノシシの間で豚コレラが広がり、それが農場の豚を感染させているので無いかと、専門家は見ている。
Q.そこで、イノシシへの対策というわけですか。
はい。岐阜県で、死んだイノシシや、イノシシを実際に捕まえて調べてみたところ、901頭のうち、4分の1が感染していることがわかりました。豚コレラは、その肉を食べても、人が感染することはありませんが、国内の豚肉供給に大きな影響を与えます。
このため、国としても農場にイノシシが近づかないように、柵を作ったり、捕獲したりしているのですが、十分ではありません。そこで、国内から豚コレラを撲滅するために、野生のイノシシにワクチンを投与することを決めたのです。ワクチンをうてば、イノシシが豚コレラに感染しなくなり、その結果、ウイルスもいなくなってしまうと言う作戦なんです。
Q.ただ、どうやってワクチンをうつのですか?
家畜なら注射を打つこともできますが、野生のイノシシではそうは行きません。そこで、エサの中にワクチンを閉じ込め、それを食べさせようとしています。
こちらは先日、愛知県犬山市で行われた、ワクチン投与の研修会の様子です。ワクチンを製造したドイツの会社から専門家が来日し、イノシシの行動様式や、ヨーロッパで行ったワクチン投与の方法などを、作業を行う猟友会の人たちに丁寧に説明していました。
Q.ヨーロッパでは実績があるのですか。
はい。野生動物にワクチンを食べさせるこの方法、日本では初めてですが、ヨーロッパでは、すでに実績があります。実際に山の中に入って、イノシシにワクチンを食べさせるための講習も行われました。
これがそのワクチン入りのエサです。トウモロコシの粉で固めた中に、カプセルのように閉じ込め、これを噛めば、中からワクチンが出てくる仕掛けです。ただ、イノシシはトウモロコシのエサを食べるのは初めてです。そこでトウモロコシに慣れてもらうために、まずはトウモロコシで餌付けを行い、その後に投与します。
ワクチンは熱に弱く、5日ほどしか効果がありません。このため、土の中に埋めて、5日後に回収することにしています。
Q.イノシシは食べてくれたのですか?
そのワクチンを回収する作業が、この土日に行われました。今回、このワクチン、岐阜県、愛知県両県で、合わせて660カ所、2万6000個が埋め込まれました。関係者の中には、イノシシが好きなタケノコが出るこの季節に、本当にワクチン入りカプセルを食べてくれるのか、疑問視する声もありました。
ただ、回収を行った結果、二つの県ともに、半数以上のワクチンに、イノシシがかんだ跡があったり、無くなったりしていたということで、県の担当者は予想以上にイノシシがワクチンを食べたのではないかと見ています。二つの県では、来週にも、実際にイノシシを捕獲して、抗体ができているのか、効果を確認することになっています。
Q.それにしてもなぜ岐阜や愛知県でイノシシが感染したのか?
今のところ、どうやってイノシシに感染が広がったのか分かっていません。ただ、冒頭に指摘したように、今回のウイルスは、中国やモンゴルで発生しているものと、遺伝子配列が近いとされています。また、豚コレラのウイルス、冷凍なら4年、ソーセージなどの加工品でも3ヶ月近く感染力を持ち続けるとされています。
発生地域からの、持ち込みは禁止されていますが、手荷物などで違法に持ち込まれた加工品が、家庭や行楽地などで廃棄され、それを食べたイノシシが感染した可能性は否定できない。そう専門家は見ています。
Q.手荷物で持ってくる人達が多いのですか?
こちらは空港や港などで、持ち込みを禁止された肉類などの畜産物です。海外との交流が増えるに従って、年々増加し、2017年にはおよそ9万4000件に達しています。その8割以上が豚コレラが発生している、中国や東南アジアなどからの乗客からのものです。
こうしたものの中には、例えばこちら、これは羽田空港で没収された自家製の餃子、そしてこちらは中部空港でみつかったソーセージですが、日本が警戒しているアフリカ豚コレラのウイルスやその遺伝子が付着していました。
Q.対策はとっていないのですか?
はい。出入国する乗客に、ポスターなどで呼びかけると共に、ビーグルなど探知犬を、全国の空港などに配置して、持ち込まれた荷物の中に、豚肉製品などが混ざっていないのか、水際で防止しようとしている。ただ、違法に持ち込まれる数と比べると、その数は全国で30頭あまりと十分ではない。
もちろん、海外から持ち込まれた肉製品が、豚コレラの原因だと、断定されたわけではありません。しかし、海外との交流が盛んになる中で、ウイルス侵入のリスクは、確実に高まっている。
Q.国内の豚が感染しないように、豚にワクチンを打たないのでしょうか。
岐阜県などの養豚家からは、ワクチンを打って欲しいという要望はある。ただ、どの国も、豚へのワクチンは、最終手段です。一旦ワクチンを打ってしまうと、ウイルスが見つけ辛くなり、その根絶には長い時間がかかります。それに、その間は海外からは豚コレラの発生が止まっていないとみられ、豚肉の輸出が難しくなるという事情がある。
Q.イノシシへのワクチンは大丈夫なのですか?
あくまでもイノシシへの対策ですから、豚は関係ありません。政府としてはウイルスを農場に侵入させないように、侵入ルートを断ち切る一方で、まずはイノシシへの対策を万全にする。そうして、事態を乗り切りたいという思いがある。
Q.いずれにしても、なかなか難しい状況であることは確かですね。
ウイルスが一旦、国内に入り込んでしまうと、それを根絶するのは、なかなか難しいものがあります。かつて国内で豚コレラが発生した時には、その根絶に10年以上かかりました。
しかも、海外からウイルスが肉製品に付着して入ってくるとすれば、全国どこでも発生する可能性がある。
これから、春の行楽シーズンを迎えますが、国としては海外からの検疫を厳しくするとともに、私たちも、禁止された国や地域からの豚肉製品などの持ち込みを、不用意にしないように、気をつける必要があると思います。
(合瀬 宏毅 解説委員)
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