少年事件が大幅に減少しています。これに伴って、今、少年院などを集約して新たな施設が作る動きも出ています。
一方で振り込め詐欺などに関与して検挙される少年は後を絶ちません。新たな施設と、立ち直りに向けた必要な支援についてお伝えします。
【少年事件は減っている】
Q:少年事件は減っているんですか。そういう印象はありませんでした。
A:急激に減っています。ここでは便宜上、少年と少女を両方まとめて「少年」と表現しますが、刑法犯で検挙された20歳未満の少年は去年1年間でおよそ2万3500人。これは10年前の4分の1です。昭和50年代と比べると8割以上減っています。殺人などの凶悪事件も減っています。昨年の検挙者数は戦後最少になっています。時に「凶悪な少年事件の増加」という言葉が使われることもありますが、実際は正反対です。
Q:誤解している人も多いと思います。少子化の影響でしょうか。
A:子どもの数が減っていることも理由ですが、事件の減少は少子化よりもはるかに急激です。社会が豊かになったことや、犯罪防止の取り組み、そして少年院などの指導も効果を上げているのではないかと指摘されています。
【少年院と刑務所どう違う】
Q:少年院は少年、刑務所は大人の施設ですよね。
A:年齢だけではなく、目的からまったく違う施設です。刑務所は懲役を受けて服役する矯正施設です。刑罰を受ける場所ですから、日中は刑務作業などを行います。
これに対して少年院は、おおむね12歳から20歳までを収容し、立ち直りを目指して教育などを行う施設です。刑務作業はなく、生活指導や学習が中心です。
ただ、現在は少年事件が減っているため、ここ数年、一部で施設の集約が行われています。その一環で東京・昭島市に4月から、関東地方の2つの少年院など、3つの少年に関する施設が1つの場所に集約されます。
今回、私はこの施設を事前に取材してきました。
【新しい少年院の中は】
新しくできた国際法務総合センターに少年の施設が入ります。生活する場所は共同スペースと個室に分かれています。この中であれば、部屋からの出入りが可能です。個室には鍵もついていません。
もちろん窓には鉄格子がかかっていて、外に出るということはできません。それでも一定の範囲で行動は可能です。
体育館もあります。実際に体育の授業などをここで行うほか、20歳になる子がいれば、成人式もここで行うそうです。
「木工部屋」と書かれた部屋もあります。少年院は刑務所と違って、刑務作業はありません。ですから、こうした部屋で職業指導などを行うことになっています。実際に作られた作品が飾られていました。
Q:むしろ学校に近いですね。
A: この施設では、身体的あるいは精神的に支援が必要な少年を受け入れる予定です。法務省は施設を集約することによって、教官や勤務する医師などによる、より手厚い指導が可能になると説明しています。
こうした施設は、今後、地元の理解と協力も欠かせません。
【施設出た後の再非行どう防ぐ】
Q:こうした取り組みで少年事件がさらに減っていくといいですね。
A:一方で課題も残っています。それは、施設を出た後の少年をどうやって社会復帰させていくかという問題です。
3月、名古屋市で少年の再非行防止について考えるシンポジウムが開かれました。主催したのは、NPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」です。少年院を出た後の少年を、どう社会復帰に導くかは、全国的な課題になっています。団体は非行少年の社会復帰に向けた活動を続けていて、シンポジウムでは周囲の大人によるサポートの大切さを訴えていました。
Q:確かに、せっかく少年院の教育が充実しても、地域に戻ってから非行を繰り返さないようにする必要がありますね。でも、少年ですから、本来は親の役割なのではないでしょうか。
A:たしかにそうですが、実際には親と感情的にもつれたり、適切な養育をしなかったりするケースも少なくないそうです。その結果、家庭に戻れず、再び事件を起こす少年もいます。
最初に全体として少年事件は減っているとお伝えしましたが、実は、ある事件に限ると、増えているものがあります。
それは振り込め詐欺など特殊詐欺です。
検挙された少年の数は、警察庁のまとめでは、去年全国で750人。これは一昨年の1.6倍と急増しているんです。また7割以上が、いわゆる「受け子」と呼ばれる、現金の受け取り役という統計もあります。
Q:どうして、振り込め詐欺への関与が増えているんでしょうか。
A:関係者に話を聞くと、少年院などを出た後も親の元に帰れず、居場所のない少年に詐欺グループなどのメンバーが「すぐに稼げる方法がある」と声をかける。そして、振り込み詐欺など犯罪を手伝わせるケースがあるそうです。しかも「受け子」という最も末端で逮捕されやすい役を、やらせているわけです。
【再非行防止に取り組む民間団体】
Q:こうした犯罪グループに引き込まれないようにしないといけませんね。
A:ところが少年は未成年なので自分で家を借りることも難しく、仕事も見つけにくいため、大人以上に、自立が困難です。
このため、先ほどシンポジウムを開いた「再非行防止サポートセンター愛知」などは、鑑別所や少年院にいる間から面会などを行って、相談に乗っているほか、施設を出た後も生活の場を整えて、必要な手続きを教えたり、悪い仲間に呼び戻されないよう、指導をしたりしています。
また同じような取り組みを行っている、大阪や広島の団体と去年、「ネットワーク協議会」も作りました。こうした民間団体の手助けも大切です。
「再非行防止サポートセンター愛知」の理事長、高坂朝人さんは「自分を受け入れてくれる人や場所がないという状況は、少年を深く傷つけ、社会や人を信頼する力を奪ってしまう」と話していました。
高坂さんは自らもかつて事件を起こして少年院に入った経験があります。その教訓から少年は大人以上に、継続してサポートすることが大切だと話しています。
【継続した支援へ理解を】
Q:少年院などの充実で終わるのではなく、その後の支援が大切ですね。
A:非行少年の中にはコミュニケーションがとりづらく、仕事を見つけて自立するまで、時間がかかる子も少なくないそうです。それでも、大人の手助けが少年による犯罪をなくし、安全な社会へとつながります。
再非行防止に取り組んでいる民間団体への私たちの理解と支援も、これからは一層大切になると思います。
(清永 聡 解説委員)
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