「東日本大震災から8年 "震災関連死"を防ぐために」(くらし☆解説)
2019年03月13日 (水)
飯野 奈津子 解説委員
発生から8年になる東日本大震災では、避難生活で体調を崩して死亡するいわゆる「震災関連死」と認定された人が、3700人あまりにのぼりました。災害のたびに繰り返される関連死をどう防げばいいのか、担当は飯野解説委員です。
Q1 震災関連死というのは、地震や津波など、災害による直接的な被害で亡くなられた方とは違うのですね
A1 違います。災害が起きた時には助かったものの、避難生活を続ける中で体調を崩して亡くなり、それが災害との因果関係があると認定された人たちです。
復興庁のまとめによると、震災発生から去年9月末までに、震災関連死と認定されたのは、全国で3701人にのぼります。年齢別ではおよそ9割が66歳以上の高齢者です。そして、関連死とされた人がいつ亡くなったのか、その時期をみますと、災害から一週間までが472人、それ以降1ヶ月までが741人、それ以降3ヶ月までが682人などとなっていて、全体の75%の人たちが震災発生から1年以内となっています。
Q2 1か月くらいのところが最も多いですね。関連死の原因は何ですか?
A2 関連死と認定された人すべてを分析した調査はないのですが、震災の翌年に、当時関連死と認定されていた1200人あまりについて復興庁の検討会が原因を調べた結果があり、参考になります。
それによると最も多いのが避難所などでの生活による肉体的、精神的な疲労、ついで避難中の移動による疲労、病院の機能停止による持病の悪化などとなっています。避難生活による疲労では、冷たい床の上に毛布一枚で過ごすことのストレスや集団生活の中での睡眠不足、おにぎりやパン中心の食事は食べられなかった、トイレを心配して水分を控えているうちに体調を崩した、こうした事例が報告されています。
Q3 お年寄りの場合、環境が大きく変化するとその変化に身体がついていけないことがあるのかもしれませんね。
A3 そうですね。こうした関連死を防ごうと、東日本大震災を教訓に、法律が改正されて、それぞれの市町村に避難所の環境を整える努力義務が課せられました。ところが、避難所の環境改善は思うように進んでおらず、その後の災害でも関連死が相次いでいます。そうした中で注目されているのが、去年の西日本豪雨の際に、岡山県倉敷市の避難所で、福祉分野の専門職、災害派遣福祉チームが展開した活動です。
Q4 災害派遣福祉チーム、あまり聞きませんが、どんなチームですか?
A4 メンバーは、普段高齢者や障害者施設、生活保護の現場などで働く福祉専門職です。災害発生の2日後に避難所に入りました。避難してきた人から聞き取りをして、必要であれば施設に移す手配をしたり、避難所の段差をなくすための環境を整えたり。高齢者のサロンや子供たちの遊び場も設けたり。県内のチームだけでは手が回らないので、京都や岩手など5府県のチームも応援に入って、およそ2か月の間、避難所で支援を必要とする人たちを支えました。
Q5 こうした活動が関連死を防ぐことにつながったのでしょうか。
A5 避難所には何でも相談コーナーも設けて、家族のことやお金のこと、健康のことなど、被災者からのあらゆる相談に耳を傾けて、必要な制度につなげる支援を行いました。医療や保健師などのチームと連携しながら、避難して来た人たちが体調を崩さないように、生活そのものを支えたという点で、一定程度、関連死を防ぐことにつながったと思います。ただ、この福祉チーム、まだ全国の半数程度の都道府県にしかできていません。全国に設置して災害時に被災地に派遣できる広域支援体制を急ぐ必要があると思います。
そしてもうひとつ重要なのが、避難所の環境そのものを改善することです。
医師や災害の専門家で作る避難所・避難生活学会が、 TKB=トイレ、キッチン、ベッドの改善を求めています。頭文字をとっているんですね。
関連死の主な原因は、▽不便で不潔なトイレや▽冷たい食事▽床での雑魚寝といった避難所の環境にあると考えているからです。
トイレが汚かったり数が少なかったりすると、水分を控える人が増えて、健康上のリスクが高まりますし、冷たい食事が続くと食欲が落ちて、体力も衰えてしまいます。床に直接寝ると塵やほこりを吸い込んで肺炎などの感染症の恐れがありますし、床から背中に伝わる冷え、立ち上がりにくさが、足の静脈に血栓ができるエコノミークラス症候群などにつながります。
避難所・避難生活学会によりますと、こうした劣悪な環境の避難所は先進諸国の中では日本だけだそうです。
Q6 他の先進国はもっと避難所の環境がいいということですか?
A6 そうです。この学会が、TKBの導入が進んでいる事例としてあげているのが、日本と同じように繰り返し大地震に見舞われている、イタリアです。
イタリアでは、発災から72時間以内にトイレキッチンベッドを避難所に設置することを法律で定めているそうです。
●まずトイレ。コンテナ製の広いトイレが避難所に届きます。中には手を洗うスペースもあります。被災者20人に1台以上のトイレが設置されます。
●そしてキッチン。避難所に料理をするためのキッチンカーが配備され、温かい食事が被災者に提供されます。栄養のバランスが良いというだけでなく、温かい食事が、疲れ切った被災者の心を癒すことにもつながるからです。
●3つ目がベッドです。イタリアでは、家族ごとにテントとベッドが支給されます。枕と枕カバー、毛布、シーツもセットになっているそうです。
Q7 日本でも段ボール製のベッドを使う動きが出ていますよね
A7 そうですね。去年の西日本豪雨の際も、岡山県倉敷市の避難所で段ボールベッドが使われました。ですが、災害時に段ボールベッドの提供を受けられるよう、業界団体と防災協定を結んでいる市町村は、まだ300程度にとどまっているということです。
Q8 なぜ、イタリアではこれほど避難所の環境が充実しているのですか。
A8 きっかけは、1980年の大地震で、避難生活で体調を崩して亡くなる人が多数出たことでした。それまでは日本と同じように、避難所の環境整備をそれぞれの自治体に任せていましたが、それでは命は守れないと判断して、国を中心に、避難所の環境を整える仕組みを作ったそうです。
災害時に国民を保護する市民保護省が、ものと人両面から避難所を支援します。各地に備蓄倉庫を作って、コンテナ型のトイレやキッチンカーなどを備蓄しているほか、様々な職業をもつ職能ボランティアに事前に登録してもらっています。災害が起きると、たとえば、登録しているコックさんが避難所に行って、届いたキッチンカーで温かい食事を作って提供するといった具合です。被災地までの交通費は国が支払い、日当を支給する場合もあるそうです。
Q9 日本も避難所の環境改善を急がなければなりませんね。
A9 イタリアの仕組みはひとつの参考になるのではないでしょうか。日本では、災害が起きた時に、避難所の環境が悪くても仕方がない、我慢するしかないと考える人がまだ多いように思います。災害時だから仕方がないではなく、災害時こそ、できる限り普段と同じようにすごせるよう環境を整える。国や自治体の取り組みとともに、私たちも、自分の地域の避難所に関心をもち、環境を整えられるよう声をあげていくことが、関連死を防ぎ、被災した時に健康を守ることにつながるのではないでしょうか。それが、災害の後、復興を早めることにもつながるのだと思います。
(飯野 奈津子 解説委員)
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