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「どう考える? コンビニの24時間営業」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

きょうはコンビニの24時間営業について、今井純子解説委員です。

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【コンビニ。いつでも開いているのが当たり前になっていますよね】
そうですね。コンビニは全国に5万5千店以上ありますが、大手では、95%以上が24時間営業です。深夜に、突然、必要なものがでてきて、コンビニが開いていてよかった!と感じたこと。多くの人があるのではないかと思います。
ですが、どのコンビニも24時間開いていて当然。というこれまでの常識が、今、岐路に差し掛かっています。背景にあるのは、「人手不足」です。

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発端は、東大阪市にあるセブンーイレブンの加盟店のオーナーの声でした。去年春以降、なかなかアルバイトが集まらず、やむを得ず、先月1日から、朝6時から日付が変わって午前1時までの、一日19時間の短縮営業に踏み切りました。

【午前1時から6時までは店を閉めるということですね】
そうです。ところが、本部のセブン―イレブン・ジャパンから、契約違反だとして、「24時間営業に戻さない場合は、契約を解除するとともに、およそ1700万円の違約金が必要になる」と求められたということです。本部側は、24時間営業を続けられるようサポートしていきたいとしていますが、オーナーは、営業時間を選択できる仕組みにするよう求めて、対立が続いています。

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【人手不足は、そこまで深刻なのですか?】
はい。コンビニを含めた商品販売の仕事を見てみると、求人倍率は2.73倍。ほぼ3つの店が1人を奪い合う状況です。それでもコンビニの数は、増え続けています。コンビニの時給は去年より3%あまり上がっていますが、アルバイトが集まらなくて、「結局、昼も夜もオーナーが働きっぱなし」という悲鳴があちらこちらからあがっています。東大阪の店のオーナーも、命の危険を感じて、営業時間の短縮に踏み切ったと話しています。オーナーは、独立した個人事業主の扱いなので、働く時間の規制がありません。

【個人事業主なのですね】
そうです。それなのに、自分の店の営業時間を自由に決めることはできず、本部から24時間営業を強いられているわけです。人手不足の中で、これまでの仕組みそのものが破綻しつつあるという指摘もあがっています。

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【外食などでは、24時間営業をやめるところもありますよね】
スーパーや外食チェーンでは、24時間営業をやめる動きが広がっています。ですが、大手コンビニは、駅の構内やオフィスビルの中などを除いて、原則24時間営業の姿勢をとり続けています。というのも、今コンビニは、モノを売っているだけではありません。
▼ 宅配の受け取り場所にもなっていますし、
▼ ATMで現金も下ろせます。銀行のATMが減り始めている中、ありがたいという声があがっています。
また、行政サービスとして、
▼ 住民票の写しの発行を受けたり、
▼ 公共料金の支払いもできます。
さらに、行政との協定に基づいて
▼ 家に帰れなくなっているお年寄りを保護したり
▼ 大規模な災害のときに、おにぎりなどを配る拠点になったり。
▼ いわゆる帰宅困難者にトイレや水を提供する役割も担っています。ほかにも・・・

【まだあるのですか?】
「ストーカーにつきまとわれている」「知らないひとから声をかけられた」として、女性がコンビニに逃げ込む事例が年間7000件近くあります。半数以上が深夜の時間帯です。交番の数が減る傾向にある中で、地域の防犯の役割も担っている面があります。

【あれもこれもコンビニに頼っている面があるのですね】
だから、社会的なインフラとして、24時間店を開けている必要があるというのが、本部の立場です。ただ、それだけではなく、
▼ 本部には、売り上げに応じて手数料が入る。つまり、深夜、1人でも客がくれば、その分利益が増える仕組みです。一方、人件費は、店側の負担なので、客が少ないと、その分重く店にのしかかります。そのような、フランチャイズ契約の仕組みが、本部が24時間営業にこだわる背景にあるという指摘もあります。

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【でも、命にも関わりかねない問題ですよね。なんとかならないのでしょうか?】
全国を見てみると、24時間が当たり前でないコンビニもあります。例えば、
▼ 北海道を中心にコンビニを展開しているセイコーマート。24時間営業をしている店は、都市部を中心に22%にすぎません。あとは、立地や季節によって、営業時間を柔軟に決めています。

【立地や季節ですか?】
▼ 農家の多い地域では、朝6時から深夜0時までという営業時間が多いのですが、農作業の繁忙期は、早めの5時に店を開けたり、イベントがある日は、遅くまで営業したりすることもあるといいます。
▼ 過疎の町では、朝6時半から夜8時までという店もありますし、
▼ 今年の元日には、全体の60%の店が休んだといいます。
営業し続けるためには、立地や客のニーズ、さらに働く人の立場にも寄り添って営業時間を柔軟に考えていく必要がある。そのような考えからだといいます。

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【店を維持するためにも、無理をしないということですね】
そうです。他にも、こうした事例はありますが、大手でも、模索は始まっています。
ひとつは、ITを活用した省力化です。
▼ ローソンは、客が、スマホで商品のバーコードを読み取って支払いができる、スマホ決済に対応した店を増やしていますし、
▼ ファミリーマートも、電子マネーやクレジットカードで支払いができるセルフレジを増やしています。
人の負担を減らすことで少ない店員で対応できるようにしよう。それで、店側の負担も減らそうという狙いです。

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その上で、営業時間の短縮を模索する動きもあります。

【どのような模索ですか?】
▼ ローソンは、全国40の店で個別の事情に応じて営業時間の短縮を認めていますし、
▼ ファミリーマートでも、一部の店で営業時間を短縮する実験を始めています。
さらに、今回の事態を受けて、
▼ セブンーイレブンも、今月中旬から全国10の直営店で、営業時間を朝の7時から夜の11時までと短縮する実験を始めることになりました。フランチャイズの加盟店でも、まだ、いつから、何店舗で行うかは決まっていませんが、実験を行う方針です。収益にどのような影響があるか。夜中に行っている配送に支障がでないか。さらに、働きやすさにつながるのか。検証を進め、今後、営業時間をどう考えるのか、判断する材料にしたいとしています。

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【24時間が当たり前ではなくなるのかもしれませんね】
大手は、まだ実験や模索の段階ですが、確実に社会の環境は変わってきています。働き方の見直しで、夜遅くまで働く人は減っていますし、深夜営業を支えていた若者のライフスタイルも朝方にシフトしています。そう考えると、24時間必要な場所はあると思いますが、すべての店が開いている必要はないのではないか。立地やオーナーの意向などに応じて、柔軟に営業時間を変えられるようにしてはどうか。そういうことを考える時期にきているように思います。

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私たちも、冷蔵庫代わりにコンビニを使うといった、便利に慣れきった生活は見直さなければいけない時期にきているように思います。

(今井 純子 解説委員)


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