「迫る外国人受け入れ拡大 どうする日本語教育」(くらし☆解説)
2019年02月14日 (木)
飯野 奈津子 解説委員
外国人の受け入れを拡大する新たな制度が今年4月に始まります。きょうは日本語教育をどう充実するかがテーマです。担当は飯野解説委員です。
Q1 新たな制度がスタートするまで残り1か月半となりました。
A1 もうまじかに迫っていますから、受け入れ環境の整備を急ぐ必要があります。その中でも最優先の課題が日本語を教える環境です。せっかく日本に来ても日本語がわからないと、職場への定着が難しいですし、地域の人たちとコミュニケーションがとれないと、孤立してトラブルになる恐れもあると思うからです。
Q2 今回新たに受け入れる外国人はどの程度日本語ができる人たちですか?
A2 ある程度日常会話ができて生活に支障がない程度の能力があるとされています。
今回の受け入れ拡大で、新たに2つの在留資格が設けられました。
相当程度、一定の技能を持つとされる「特定技能1号」と、より熟練した技能が必要とされる「特定技能2号」です。このうち1号の日本語能力は日本語能力試験、N4程度とされています。N4というのは、5段階の能力の下から2番目、「基本的な日本語を理解するレベル」です。私が話した感じでは、片言の日本語というかんじでしょうか。スムースに会話ができるレベルではありません。
特定技能2号は、さらに経験をつんで日本語能力が高いと考えられているので、日本語能力のレベルに定めはありません。
特に心配なのは特定技能1号。今回の制度では、技能実習を3年以上経験すれば無試験で特定技能1号に移れることになっています。しかし3年の経験がある実習生でもほとんど日本語を話せないと人もいます。
Q3 そうした状況では、やはり日本語を教える環境が重要ですね。
国はどのように進めようとしているのでしょうか。
A3 今回の制度で国は、外国人を受け入れる企業に、生活に必要な日本語習得を支援することを求めています。といっても企業自ら日本語を教えなくても、地域にある日本語教室を紹介する程度の支援でよいとしてしまっています。
となると重要なのが、日本語教室をいかに整備するかです。
今も地域に暮らす外国人のために全国に1000か所あまり、日本語教室があります。
しかし設置するかどうかは自治体の判断なので、地域に偏りがあって全体の6割の自治体には、教室がないのです。そこで今回国は、教室を全国各地で開けるよう自治体を支援し、総合的な対策を進めるとしています。ところが、受け入れまであと一ヵ月半というのに、その具体策がみえてこないのです。
外国人住民が多い自治体でつくる外国人集住都市会議が、先月開いた公開討論会でも、日本語教育に対する国の消極的な姿勢に、厳しい意見が相次ぎました。
Q4 自治体からはどんな意見が出たのですか?
A4 国が責任をもって早く取り組みを進めてくださいということです。具体的には地域の日本語教室に国が確実に財政支援を行うこと、そして外国人を受け入れる企業の責任を法律で明確にして、企業自ら日本語教育を行うとか、教室にゆだねるなら財政支援するとか強い措置を講じること。また海外のように国が主体の日本語教育制度を設けるべきだという意見もありました。ドイツなどでは、長く滞在する外国人に、言語を学習することを法律で義務付けて、国が600時間の語学教育を提供しています。
Q5 海外では国が責任をもって日本語教育を進めているのですね。
A5 それに比べると、日本の国の対応はお粗末です。これまでも日本語教室の運営を自治体に任せきりだったので、どこも手探りの状況です。
そのうちのひとつ、群馬県太田市の教室を取材しました。
日本語教室を運営するのは住民ボランティアです。日系人が増え始めた20年以上前から、日本語の会話や読み書きをほぼ無料で教えています。教室は週3回です。
教えているのも住民ボランティアの人たち。30人余りが交代で教えています。しかしメンバーの多くが高齢者ですし、新たなボランティアも思うように集まらず、増え続ける外国人への対応にも限界があるといいます。
Q6 なかなか大変そうですね。
A6 ほかの地域の日本語教室も、教えているのはほとんどが住民ボランティアです。それによって住民と外国人との交流が深まるメリットはありますが、ボランティアだけでは回数を多く開けませんし、教え方にもばらつきがあります。これまでのような自治体任せ、ボランティア任せにならないよう、国が早急に具体策を示して、日本語を教える環境整備を急ぐ必要があると思います。
そして、もうひとつ、日本語教育という点で、対策を急がなければならないのが、日本語が十分理解できない子供たちへの教育です。
Q7 子供たちへの教育も大事ですよね。
A7 今回新たにできた在留資格、特定技能1号の人たちは、家族を連れてくることができませんが、日本で結婚して子供が生まれることもあるでしょうし、2号の人たちは子供をつれてくる事も認められています。でも日本語ができない子供への教育は、そうした将来の話ではなく、まさに今、学校現場が直面している問題です。
小中学校や高校などの公立学校で、日本語指導が必要な子供の数は、平成28年度およそ4万4000人と10年前の1.7倍にのぼります。家族の呼び寄せや国際結婚が増えているためです。しかしこのうちのおよそ4人に1人は日本語指導を受けていないんです。
Q8 国はこれまでこうした子供たちに、対策は講じてこなかったのですか?
A8 日本語指導が必要な子供が多い学校に、教員を増やす措置をとってきましたが、増やすといっても数が少ないですし、日本語指導の経験もほとんどありません。
国は、今回の受け入れ拡大で、教員を増やす地域を広げるとしていますが、自治体からはもっと抜本的な対応が必要だという意見が出ています。
具体的には、指導を行う教員の数をもっと増やすこと。そしてその教員の日本語指導のレベルを高め、その対策を急ぐことです。さらに教員の指導を補助する自治体独自の取り組みへの財政支援も求めています。
たとえば、先ほど紹介した群馬県太田市では、来日間もない、学校に行く前の子供を対象にしたプレクラスを開いています。学校生活のルールやマナー、日本語の読み書きなど、40日間、集中して教えています。
外国語が話せるバイリンガルの指導員なども雇用して、母国語も交えながら、子供たちを指導しています。こうした取り組みによって、子供たちが学校にスムースに入れるようになって、学校側の負担も軽減したということです。
Q9 こうした場があると子供たちも安心して学校に通えるようになりますね。
A9 しかしどこでも同じような取り組みができるわけではありません。子供たちがどこに暮らしていても、早い段階で日本語を習得できて、友達と一緒に楽しく学べる環境づくりを急ぐことが国の責任だと思います。
まもなく外国人を受け入れる新たな制度が始まります。子供たちへの教育も含めて、外国人が安心して生活できる環境を作れるか。これまでのように自治体任せにせずに、国が責任をもって取り組みを進めなければならないと思います。
(飯野 奈津子 解説委員)
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