NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「『統計不正』『児童虐待』... 国民の視線は?」(くらし☆解説)

太田 真嗣  解説委員

k190213_01.jpg
国会では、先週から新年度予算案の審議が本格的に始まりました。審議は、衆議院予算委員会で進められており、これまでのところ、1)厚生労働省の統計不正問題と、それに関連して、2)経済状況をどう見るかという議論、そして、3)児童虐待をどう防ぐか、という3点が大きな焦点となっています。こうした問題について、国民はどう見ているか。国会論戦のポイントを抑えながら、最新のNHKの世論調査をもとに考えます。
k190213_02.jpg

≪安倍内閣の支持率≫
今月12日まとまった、2月のNHKの世論調査で、安倍内閣の支持率は、▽「支持する」が44%、▽「支持しない」は37%でした。前の月と比べると、「支持する」、「しない」とも、わずかに上がっています。
政府・与党としては、この間、災害対策などを盛り込んだ、今年度の第2次補正予算成立といった成果もありましたが、一方で、統計不正問題などもあり、結果として、支持率に大きな変化はありませんでした。
k190213_03.jpg

≪統計不正問題≫
k190213_04.jpg
そうした中、いま、国会で大きな議論になっているのは、厚生労働省の統計不正問題です。
政府は、先に、第三者で作る『特別監察委員会』がまとめた検証結果をもとに、「組織的に隠蔽する意図はなかった」と説明しました。しかし、野党だけでなく与党からも、「調査には客観性がなく不十分だ」と批判され、再調査に追い込まれました。また、他の統計でも、本来、決められた手法で行われていなかったことなどが見つかり、ずさんな実態が明らかになっています。
k190213_05.jpg
この問題を受けて、政府が発表している統計を信用できるかどうかを聞いたところ、▽「信用できる」は、わずか5%、逆に▽「信用できない」は52%と半数を超えました。
言うまでもなく「統計」は、様々な政策を作る上での土台になりますから、それが、いい加減なモノであったら、どんなに真面目に政策を考え、審議しても意味がありません。この問題は、政府・議会、あるいは、与党・野党ではなく、本当に、政治全体というか、国の信用に関わる、深刻な問題と受け止めなければなりません。
k190213_06.jpg
≪統計不正・政治の責任≫
この問題で、野党側は、根本厚生労働大臣の罷免を求めていますが、安倍総理大臣は、続投させる考えを示しています。
そこで、根本大臣は辞任すべきかどうか聞いたところ、全体としては、▽「辞任すべき」が26%、
▽「辞任する必要はない」が25%、▽「どちらともいえない」は40%でしたが、その内訳をみると、与党・野党の支持層、それに無党派層で傾向に違いが見られます。
今回の統計の不正は、民主党政権の時も含め、10年以上前から行われてきたので、これまでの国会審議でも、▽なぜ、不正が続けられ、▽どこに責任があるのか、いまだ明確になっていません。それが、こうした支持政党による違い、あるいは、全体として、「よく分からない」、「判断がつかない」ということになっているのではと考えられます。今後の政府の再調査や、国会審議を通じ、詳しい事実関係がどこまで明らかになるかによって、こうした世論がどうなっていくか、見極めていく必要があります。
k190213_07.jpg

≪経済状況をどう見る≫
k190213_08.jpg
政府は、「いま、日本経済は、戦後最長の景気回復が続いている」としています。そこで、戦後最長の景気回復を実感しているかどうかを聞いたところ、▽「実感している」は8%、▽「実感していない」は66%、▽「どちらともいえない」が20%でした。
k190213_09.jpg

実は、いま、国会では、多くの国民が景気回復を「実感していない」としていることについて、それが国民の感覚の問題なのか、それとも、「本当は、景気は良くないのではないか」という議論が、今回の統計不正問題を切っ掛けに持ち上がっています。
この中で、野党側は、「統計の結果を修正して再計算すれば、労働者一人あたりの『実質賃金の伸び率』は、去年、ほとんどの月でマイナスだった」と指摘し、「景気の実感がないのは当然だ」としています。これに対し、政府・与党は、「パートやアルバイトも含めた雇用者全体の所得、『総雇用者所得』はプラスで、賃金は、増加傾向にあるという判断に変わりはない」としています。
この様に、与野党の主張は、▽労働者個人に着目するか、それとも、▽全体として見るかで、すれ違っています。もちろん、経済の実態がどうかは、ひとつのデータではなく、総合的に判断しなければなりませんが、足もとの経済をどう見るかは、10月に予定される消費税率引き上げの是非にも直結する問題だけに、夏の参議院選挙もにらんだ各党の激しい論戦が続きそうです。
k190213_10.jpg

≪消費増税の是非≫
一方、消費税率の引き上げについて、安倍総理は、「全世代型の社会保障制度を構築するには、安定的な財源が必要で、予定通り10%に引き上げる方針に変わりはない」としています。
そこで、消費税率引き上げについて聞いたところ、▽「賛成」は31%、▽「反対」は41%、▽「どちらともいえない」は21%でした。ちなみに、この結果を、直近の過去のデータと比較すると、今月は、「どちらとも言えない」が減り、その分、徐々に「反対」が増えている印象です。
k190213_11.jpg

こうした背景には、実施時期が近づき、徐々に実感が沸いてきたというのもあるでしょうが、いま、米中の貿易摩擦、イギリスのEU離脱といった、世界経済のリスクが指摘される中、日本経済の先行きに不安が広がっていることも影響していると思います。野党側は、「前回、増税を見送った時より、リスクは高まっている」として、消費増税に反対していますが、政府・与党は、「そうしたリスクがあるからこそ、日本の景気を下支えし、消費税対策を盛り込んだ、新年度予算案の、早期の成立が必要だ」としています。
k190213_12.jpg

≪児童虐待 どう防ぐ?≫
k190213_13.jpg
千葉県野田市の小学4年生の女の子が死亡した事件では、女の子がSOSを出していたのに、学校や教育委員会、そして、児童相談所が、それを受け止めることができませんでした。
この事件を踏まえ、安倍総理は、先週、関係閣僚会議を開き、子ども達の命を守ることを最優先に、▽児童相談所などが把握している、すべてのケースについて1ヶ月以内に緊急の安全確認を行う、その上で、▽ルールの徹底や、▽警察を含めた連携の強化などを指示しました。
k190213_14.jpg
ただ、こうした政府の取り組みによって、児童虐待が減っていくと思うかどうかを聞いたところ、▽「減っていく」は23%、▽「減っていかない」は36%、▽「どちらともいえない」は32%でした。
k190213_15.jpg

こうした厳しい声の中には、「政府の取り組みが、まだまだ足りない」というほか、「行政の取り組みだけでは、虐待はなくならない」という思いもあると思います。
二度とこうした悲劇を繰り返さないため、引き続き、国会では徹底した議論が求められます。同時に、『児童虐待の根絶には何をすべきか』、私たちも、家族、地域、あるいは、社会全体で真剣に話し合っていく必要があると思います。
(太田 真嗣 解説委員)     


この委員の記事一覧はこちら

太田 真嗣  解説委員

キーワード

こちらもオススメ!