1月14日は成人の日です。
成人年齢は3年後に現在の20歳から18歳に引き下げられますが、まだ対策が決まっていない制度がいくつもあります。18歳成人に伴う課題を取り上げます。
【変わるもの・変わらないもの】
Q:成人年齢の引き下げはいつからですか。
A:3年後の2022年4月からになります。引き下げの背景には選挙権などを通じて、18歳と19歳の若者に早く社会参加してもらいたいという狙いもあります。実に140年ぶりの改正です。
法務省は現在、年齢引き下げを広く知ってもらう取り組みを進めていて、若者を対象にした動画コンテストなども行っています。
Q:年齢が18歳に引き下げられることに伴って、何が変わるのでしょうか。
A:有効期間10年のパスポート取得や親の同意なしにクレジットカードの契約などが可能になります。また女性が結婚できる年齢は18歳に引き上げられます。一方で、喫煙や飲酒、そして競馬などはこれまで通り20歳未満は禁止です。
ところが、このほかにもまだ対応が決まっていないことや、今後の議論が必要なことがあります。成人式、養育費。そして少年法の3つです。まずは、成人式からみてみましょう。
【課題1・どうする成人式】
去年の横浜市の成人式では、全国最大規模の2万3000人あまりが出席しました。人数が多いので、午前と午後に分けて行われました。成人年齢は2022年4月から引き下げられますから、このままですと、翌年2023年の成人式は、18、19、20歳を一度に祝うことになるかもしれません。もしそうなると3倍です。
Q:たいへんです。そんな会場はありませんね。
A:しかも、18歳だと高校3年生。1月のこの時期はちょうどセンター試験など受験の直前です。成人式どころではないという高校生も少なくないでしょう。また、飲酒は20歳のままなので、成人式の後に祝賀会や同窓会が開かれてもお酒が飲める人、飲めない人に分かれてしまいます。
法務省も関係省庁と「成人式をどうするか」分科会を作って、検討しているほどです。
問題は2つあると思います。2023年は3年分を一度にやることになるのかということと、その後も18歳で成人式を行うかどうかということです。
ヒアリングで着物や写真の業界団体はいずれも「今のまま20歳を対象にしてほしい」と話しています。18歳では参加者が減ってしまう恐れがあると懸念しているんです。
議論ではほかにも「18歳が参加しやすいよう時期をずらしてはどうか」とか、「若者が都合のいい年を選んで出てはどうか」という意見。それからすでに「今後も成人式の対象年齢を20歳に維持する」と明らかにしている自治体も一部にあります。
実際に成人式を行うのは市町村などですから、最終的には各自治体の判断になります。法務省の分科会は来年までに様々な意見を情報としてまとめて自治体に提供する方針です。専門家からは大人の都合で一方的に決めてしまうのはおかしい、という声もあります。
いずれにしても、若者が参加しやすい成人式にしてほしいと思います。
【課題2・どうなる養育費】
養育費というのは、子供が自立するまでに必要な費用のことです。離婚した場合調停などで、いつまでの期間、いくら支払うかを取り決めます。
これは全国の家庭裁判所で養育費を求める際に提出する最近までの書類です。ここに「未成年者」と書かれています。
Q:「未成年者」ということは、3年後には養育費の対象は18歳までになるのですか。
A:違います。養育費をいつまで支払うかは、あくまでも調停などで個別に必要性を判断しますから、18歳に限定されるわけではありません。この申立書は誤解を与えかねないことから、最高裁はつい先月、ここを「対象となる子」に変えたところです。
それでもこの申立書がまだ使われているところもあるということで、家庭裁判所の窓口で、誤解しないよう個別に説明するということでした。
Q:未成年に限定するのではないのですね。それなら安心です。
A:ただ、もう一つ、懸念されていることがあります。
成人年齢見直しの議論が始まる前から、調停で養育費の期限を「成人まで」と記していることも多いそうです。そうなると、今後、成人年齢が18歳になったことを理由に、相手側から「18歳で支払いを打ち切る」という主張が行われる恐れがあります。
Q:18歳というのは、大学や専門学校への進学で、むしろ一番お金がかかる時期です。
A:しかし、改めて話し合いを求めれば、時間もかかりますし、弁護士費用などの金銭的な負担がかかる恐れがあります。この点は、大きな問題です。政府も最高裁も対策を急ぐ必要があります。
【課題3・少年法の見直しは】
少年法は今、まさに国の法制審議会で、対象年齢を現在の20歳未満から18才未満に引き下げるべきかどうかなどの議論が行われています。
Q:少年と大人で制度はどう違うんですか。
A:手続きの流れを一例で示します。少年が起こした事件はすべて家庭裁判所に送られます。そして少年審判で、少年院送致などの決定を受けます。これに対して、成人は検察庁に送られ、起訴されると刑事裁判を受け、実刑ならば刑務所で服役します。
Q:似たような仕組みに見えます。年齢が引き下げられた場合、18歳と19歳は大人の手続きに移ってくることになりますね。
A:ところが、大人は全員が起訴されて裁判を受けるわけではありません。軽い事件を中心に、おおむね60%あまりが起訴猶予や不起訴になっています。
警察庁の統計では、刑法犯で検挙された18歳と19歳は一昨年7800人。もし単純に大人と同じ扱いのままだと、この6割、つまり事件を起こした数千人の若者が毎年起訴されず、そのまま社会へ戻されることになります。
これに対して、少年はすべて家庭裁判所に送られ、調査官が事件の原因やその背景を調べます。大人なら起訴猶予になるような事件でも、問題があると判断されれば、少年院や施設に送ることもあります。家庭裁判所でも不処分などの結論を出すこともありますが、その場合も何もせずに終わるのではなく、親への指導や教育機関との連携など、多様な措置を取ることができます。
また、反対に重大な事件の場合は、検察庁に送り返して大人と同じ刑事裁判を受けさせることもできます。
少年法は甘やかしだ、などと単純に言う人がいます。しかしこれを見ると、軽い事件を中心に大人の方がほったらかしであり、専門家から「このままでは非行少年の野放しになり、治安が悪化する」という指摘もあるほどです。
Q:どちらが、地域の安全に役立つかという点を考える必要がありますね。
A:少年事件の件数は大幅に減少していて、現行制度は多くの専門家が評価しています。少年法の議論では、18歳や19歳には特別な処分を設けるべきという意見もでています。一方で、それならば引き下げなくてもいいではないかという意見もあって、議論は現在も続いています。これは若者や社会に与える影響が大きいだけに、慎重にじっくり検討をしてほしいと思います。
【形式論でなく実態を踏まえて判断を】
残された課題はどれも難しい問題を含んでいますが、大切なのは、18歳ですべてが大人だという、一律の線引きをしてしまうことは、必ずしも望ましくないということです。
18歳はまだ大人の始まりだととらえれば、「法律上の統一」という形式論ばかり繰り返して単純に引き下げることが、必ずしも適切ではないと分かると思います。あくまでも実態を踏まえ、どうすることが若者や社会に最も良い結果をもたらすか、個別に検討していくことが求められます。
(清永 聡 解説委員)
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