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「どうなる?住宅・車の消費増税対策」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

先週まとまった来年度の税制改正大綱。住宅と車について、手厚い対策が盛り込まれました。今井解説委員。
 
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【なぜ、住宅と車なのですか?】
住宅や車は、本体の価格が高いですよね。このため、来年10月に消費税率が10%に上がるときに、負担がその分重くなるということで、かけこみ需要と、その後の深刻な冷え込みが心配されています。そこで、税制改正大綱に、住宅と車について、特に手厚い対策が盛り込まれたのです。

【どのような対策が盛り込まれたのですか?】
住宅から、見ていきましょう。すでに決まっていた対策も含め、こちらの、住宅ローン減税、給付金、ポイントと、主に3つあります。
 
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まず、今回の税制改正で決まった、住宅ローン減税の拡充です。これは、年末に残っている住宅ローン残高の1%分を、その年に払わなくてはいけない所得税や住民税から差し引ける仕組みです。今は、一般の住宅(マンションも含めて)の場合、最大、年間40万円の減税が、10年間うけられることになっています。
それを、消費税率が10%に上がった後、買った住宅については、減税を受けられる期間を3年間延長します。そして、その3年間は、仕組みを少し変えて、この期間に、最大で、消費増税で負担が増えた分を取り戻すことができる。という内容になっています。
 
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【でも、最大で、増税分を取り戻せる。ということは、増税前に買った方がお得というケースもあるのですね】
税だけでみると、そうなります。そもそも所得が低くて所得税を多く払っていない人には、減税の恩恵はあまりありません。ということで、決まったのが、「すまい給付金」の拡充です。

【どのような制度ですか?】
はい。これ、もともとは、消費税率が8%になった時に導入されたもので、収入がおおむね510万円以下の場合、一戸当たり、10万円から30万円が一回に限り給付されます。それが、消費税率が10%になった後の住宅については、給付がもらえる収入の上限が775万円までに増えて、もらえる額も最大50万円に増えます。
例えば、収入が500万円の人は、もらえる額が今は10万円ですが、10%になった後だと40万円と、30万円分多くもらえることになります。
こちらは、住宅ローン減税と違って、ローンを組まない人も、50歳以上など一定の条件にあえば、もらえます。
 
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さらに、政府は、来年度の予算案に、新しいポイント制度を盛り込むことも決めました。

【新しいポイント制度。これは、どのような制度ですか?】
増税後に住宅を新築したり、リフォームしたりした際に、ポイントがもらえる制度です。対象は、省エネ性能や耐震性能などについて、国の基準を満たした住宅の新築。それから、例えば、二重窓にしたり、廊下に手すりをつけたり、食器洗浄機付きのシステムキッチンを入れたりといった、リフォームです。
新築で最大35万円分。リフォームで最大30万円分のポイントがもらえ、家電製品など、様々な商品と交換することができるという内容です。
 
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【住宅だけでも、いろいろな対策があるのですね。結局、増税前と増税後と、どっちに買うとお得なのでしょうか?】
条件にあえば、3つの制度を同時に利用することができます。それだけに、増税後に買った方がお得というケースもでてくると見られます。ただ、買う人の年収、建物の価格、ローンを組む条件によって、恩恵は様々です。住宅を買うことを検討している人は、早めに展示場などで、きちんと計算してもらって比べるのがいいと思います。
 
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【一方、車の対策はどうなったのですか?】
車も複雑です。主に、こちら。買うときにかかる税金、そして、保有している段階でかかる税金。2つの対策があります。

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まず、車を買うとき。今は、「自動車取得税」がかかりますが、来年10月、消費増税にあわせて、燃費性能を基準とした「環境性能割」という仕組みに変わることになっています。それを、最初の1年間に買った新車・中古車については、最大、価格の3%となっている税率が、1%分引き下げられます。
 
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【これは、減税ですね】
はい。次に、車を持っていれば毎年払う「自動車税」。
来年10月以降に新車を買って登録した場合、排気量に応じて減税になります。
▼    例えば、排気量が1000cc以下の車だと、4500円の減税になります。これは、恒久的な減税です。毎年の負担が減りますので、持ち続けるとその分、恩恵が膨らむ形になります。
ただ、軽自動車については、もともと税の負担が軽いということで、据え置きになります。
 
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【車は、消費増税前に買うのと、増税後に買うのと、どっちが割安になるのですか?】
買う時の負担は、増えます。ただ、長く持ち続けると、税の負担だけみた場合、自動車税の減税がきいてきます。政府の試算では、例えば、
▼ 本体の価格がおよそ135万円。排気量1000ccの車の場合。車の平均寿命といわれる13年間、保有し続けたとすると、消費税の増税分から、減税分を差し引いて、あわせて、4万3500円分、増税後に買った方が負担が少なくなるという計算になります。

【増税後に買った方が、お得ということですか?】
それが、減税分の財源を一部確保するために、燃費のよいエコカーに対して行っている、様々な減税措置の減税率を、2019年4月以降、順次縮小していく。つまり、その分増税になることも決まっていて、複雑です。また、何年同じ車に乗るのかによっても、変わってきます。ただ、ざっくり言うと、軽自動車を除いて、価格が安めの、お手ごろの車ほど、消費税の増税分は小さく、自動車税の減税が大きいので、増税後に買った方がお得な車がある。一方、価格が高い高級車を中心に、増税後の負担が重く、増税前に買った方がお得という車もあると見られます。ただ、これも、今回、政府が、増税後の値引きセールを事実上推奨していることもあり、販売店に事前に話を聞いて判断したほうがいいと思います。

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【結局、住宅も車も、増税前に買うのがお得な場合と、増税後に買うのがお得な場合があるということは、かけこみと、買い控えはなくなるのでしょうか?】
今回は、ばらまきという批判もかなりあるくらい、手厚い対策になっていますので、ある程度、効果はあるだろうと思います。むしろ、対策が切れた後の冷え込みが心配だという声があがっているほどです。
ただ、本来、税制は、簡素で理解しやすいものにするというのが、原則です。それが、あれもこれも盛り込んだ結果、住宅も車も、消費者にとって、一段とわかりにくい仕組みになってしまいました。せめて、販売店は、個々のケースに応じて、いつ買ったら負担がどうなるか。客観的にわかりやすく説明してほしいと思います。また、買う側も、政府の対策に振り回されるのでなく、気に入った住宅や車があるのか。今が、自分にとっての買い時なのか。冷静に検討することが何より大事だと思います。

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(今井 純子 解説委員)


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