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「始まる 『休眠預金』で公益活動の支援」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

金融機関に預けられたまま、放置されている「休眠預金」を使って、公益性の高い民間の事業を支援しようという制度が来年から本格的に動き始めます。今井解説委員。
 
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【休眠預金。銀行などに預けられたままの預金ですね】
はい。10年以上「取り引き」がない預金や貯金です。これまでは、銀行の利益に計上されていました。

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といっても、本人が申し出をすれば、いつでも引き出すことはできました。ただ、結果的に誰も払い戻しにこない預金が、毎年、およそ700億円に達しています。

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【多いですね】
そうですね。ただ、考えて見ると、
▼    小さい頃、親が自分名義で口座をつくってくれた。
▼    こどもの学校の給食費や授業料の引き落とし用に、特定の銀行・特定の支店を指定されて口座をつくった。
▼    一時期転勤していた先で、口座をつくった。
こうした口座が、そのままになっているというケース。思い当たる方も、結構いらっしゃるのではないでしょうか。

【それが銀行の利益になっていたわけですね】
そう。でも、これは、預金者=広く考えると国民のおカネです。銀行の利益になるくらいなら、世の中で困っている人を助けるために使えないか。ということから、2016年に、議員立法で新しい法律ができ、こうしたおカネを民間のNPOなどの公益的な活動に使うことができるようになったのです。

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【それが、来年から本格的に動き始めるのですか?】
そうです。来年1月から、新しい法律に基づく「休眠預金」が発生し、金融機関から、預金保険機構という機関に移されることになります。

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【古い預金が全部移されるのですか?】
いいえ。対象になるのは、新しく発生する休眠預金です。具体的には、2009年1月1日以降、10年以上、取り引きがないままの「普通預金」や「定期預金」などが対象です。

【取り引きがないというのは、どういう状態ですか?】
預金の出し入れをする。クレジットカードの引き落としに使う。振込みをする。といったおカネの出し入れがない状態です。通帳への記入や残高照会は、取り引きがあったとみなさない金融機関もありますので、注意が必要です。

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【そして、集められた休眠預金。どのような活動に使われるのですか?】
これから決まる財団法人などの団体が、来年の秋以降、3つの分野の活動。
▼ (こどもや若者の支援)例えば、夜、親と一緒に食事をとれないこどもたちが集まって、ご飯を食べられる食堂をつくる活動。
▼ (日常生活で困難を抱える人の支援)介護の負担を抱えて悩んでいる人たちが交流できる、集いの場をつくる活動
▼ (地域活性化の支援)地域の空き家や古民家を改修して、賑わいをつくる活動
こうした活動をしている民間のNPOを公募で選び、助成などをすることにしています。ただ、全国には、地域に根付いた活動をしている、様々なNPOがあります。支援先が公平に選ばれるのか。利権になって無駄な使い方をされないか。不安視する声がすでにあがっています。選ぶ過程を透明にするなどして、市民の意見を反映できるようにしていくことが欠かせないと思います。

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【趣旨は、理解できます。でも、こうした活動に使われるとなると、今後、休眠預金になると、おカネを引き出すことはできなくなるのですか?】
いいえ。新しい制度でも、これまでと同じように、原則、何年経っても、おカネを引き出すことはできます。

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【郵便局の貯金も同じですか?】
普通貯金は、銀行の預金と同じです。何年経っても引き出すことができます。
ただ、ひとつ。注意が必要なのは、2007年10月の郵政民営化の前に預けた、「定額郵便貯金」や「定期郵便貯金」といった、定期性の貯金です。これは、旧郵便貯金法という法律の決まりで、満期がきた後、20年2か月、放っておくと、国の一般会計に繰り入れられて、預けた人は権利を失うことになります。

【引き出すことができなくなるのですか?】
そうです。すでに10年以上、取り引きがない、こうした貯金は、4500億円に達していています。放っておくと、順次、権利が失われていきます。思い当たる方は、早めにお近くの郵便局やゆうちょコールセンターに問い合わせをしていただきたいと思います。

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【こうした定期性の貯金以外は、いつでも引き出すことができるということでしたが、預けたまま忘れていることもありますよね】
そうですね。でも、口座に1万円以上残っている場合。取り引きがなくなって9年以上たった段階で、金融機関から、通知が送られてくることになっています。三菱UFJ銀行が、実際に送った通知には、預けた後、かなりの期間がたっている預金があることを確認する内容が書かれています。ほかのメガバンクや地銀なども、順次、通知を送ることにしています。ネットバンクなど、メールで通知がくることもあります。

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【通知がきたら、どうすればいいのですか?】
通知が届いた人は、その時点で、新しい取り引きがあったとみなされて、なにもしなくても、その後、10年は休眠預金になりません。
ただ、引越しの届けをしなくて、通知が届かないケースがあります。また、残高が1万円未満だと、こうした通知は送られてきません。その場合、時期が来るとおカネは預金保険機構に移されて、自ら問い合わせをしないと引き出せなくなります。

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【あとから気付いた場合、預金保険機構に行かないといけないのですか?】
いいえ。手続きは、これまでと同じです。休眠預金になったら、ATMでの引き出しはできなくなります。でも、自分が預けた銀行の窓口に、通帳や印鑑、本人確認ができる免許書。こういったものを持っていけば、引き出すことができます。元本だけでなく、それまでの間の利子もつきます。仕組みとすると、そのあと、銀行が、預金保険機構からその分のおカネを返してもらうことになっています。

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【自分が預けた銀行がなくなっているケースもありますよね】
統廃合や合併で、銀行の名前すらわからなくなっていることもありますよね。でも、どこかで口座は引き継がれています。今、なんという銀行になっているのかインターネットなどで調べて、相談窓口に電話をしてみてください。どこに行って、どのような手続きをすればいいか、教えてくれると思います。

【通帳やカード、印鑑をなくしてしまっていても、引き出せるのでしょうか?】
本人確認ができれば、大丈夫です。いつごろ、どのあたりの支店に口座があったはず。といった情報からでも、調べてくれます。ただ、書類を調べるのに時間がかかるケースもあります。

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【思い当たる方は、まず、電話などで問い合わせることが大事ですね】
そうですね。いつでも引き出せると言っても、また忘れてしまうかもしれません。古い預金があるという方は、これを機会に、いったん引き出して、管理できる範囲に口座を集約することを考えたほうがいいかもしれませんね。
一方、遠くの銀行に数百円程度の預金が残っているといった場合、近くの銀行に振り込んでもらう手数料や交通費の方が高いこともあります。そうした方。今後は、放っておいて休眠預金になっても困っている人を支援する活動に使われる。それで世の中の役にたてる。そういう考え方もあるかもしれませんね。

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(今井 純子 解説委員)


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