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「知っていますか? タイヤチェーン義務化」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

この冬から大雪のとき「立往生の恐れ」のある一部の道路でタイヤチェーンの装着が義務付けられるということをご存知でしょうか。

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◎タイヤチェーンはどういうところで義務付けられるのか?

大雪で立往生がとても起きやすい峠道の幹線国道や高速道路などに限定して、かなりの大雪が予想されたときに義務付けられることになります。
背景には、最近、大雪による車の立往生が各地で相次いでいることがあります。

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今年2月、日本海側の広い範囲が大雪になり、福井・石川県境の国道8号線でチェーンをつけていない大型車が動けなくなったのをきっかけに大規模な立往生が発生。
最大で46キロ、1500台が動けなくなり、解消まで3日間かかりました。

過去5年間で、このような大雪による大規模な立往生が7回起きていて、チェーンをしていない車の立往生がきっかけになったり、影響を拡大したりしました。
チェーン装着の義務化はこうした立往生対策のひとつとして打ち出されたものです。

◎どのくらいの道路が対象になるのか?

規制の対象になる区間は来週以降、公表される予定ですが、はじめは、ごく限定的になりそうです。

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国土交通省によりますと、対象は国道と高速道路で、そのうち
▼過去に大規模な立往生が発生するなど、危険性が高く、
▼チェーンを着脱できる場所が近くにある区間
が対象になるということです。

規制がかかるのは、かなりの大雪が予想されるとき。
具体的には国土交通省と気象庁が共同で「大雪に対する緊急発表」を出していますが、この情報が出るときなどが想定されています。ちなみに昨年度は3回出ています。

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そして対象になる区間にはこの標識が置かれたり、電光表示で示されることになっています。そこを通るすべての車に義務付けられます。

チェーンには金属製のものや樹脂やゴム製のものもありますが、材質は問われません。
ただチェーンを着けずに通行して取締りを受けた場合、罰金が科せられることになります。

◎スタッドレスタイヤではダメなのか?

雪の多い地方ではスタッドレスタイヤの装着がいわば常識になっていて、チェーンを持っていない人も多い。「スタッドレスタイヤで十分ではないか」という声があがっています。
しかしJAF=日本自動車連盟の専門家に聞くと「立往生発生のリスク軽減のためにはチェーンはとても有効だ」と言います。

JAFが凍結した、アイスバーンの坂道で実験を行いました。傾斜は9パーセントです。

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スタッドレスタイヤの車はスリップして登れませんでした。一方、スタッドレスタイヤにチェーンは装着した車は登りきることができました。
JAFによりますと、こうした
▼アイスバーンの路面や
▼踏み固められていない深い新雪の路面では、
スタッドレスタイヤよりチェーンのほうがより有効だということです。

◎具体的にはどう規制をかけるのか?

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道路標識が掲げられるが、始点終点付近には車を停めてチェーンを装着するスペースが必要になる。大雪で規制がかかったときは、そうした場所で係員がチェックをして、チェーンを持っていない車は進入させない、持っている車はそこでチェーンをつけてもらう、という規制の仕方が考えられている。
また高速道路の場合は、規制対象区間の手前で、通行する車にサービスエリアなどにいったん入ってもらい、そこでチェックをする。
チェーンのない車はスマートインターなどから外に出てもらう。

◎来週以降、対象区間が公表されるということだが、すぐに規制できるのか?

公表後、集中的な大雪が予想されればすぐに運用されることもありうる。
対象になった道路を利用するドライバーは冬タイヤだけでなく、チェーンを用意して、使い慣れていない人は練習をしておく必要があります。

◎立往生対策は「チェーン義務化」以外にどのような対策があるのか?

国土交通省は専門家の意見を聞いて大雪で立往生を引き起こさないようにする対策をとりまとめました。

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▼まず早めの注意喚起。「大雪に対する緊急発表」はこれまではだいたい1日前に出されています。国土交通省はなんらかの大雪への警戒呼びかけを2~3日前に出したいとしています。

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▼次にタイムライン。関係する機関がこれに基づいて対策を進めます。地域ごとに国、高速道路会社、自治体、警察、自衛隊、気象台などが連絡本部をつくったうえで、2日前にはこうした対策、1日前には次の措置といった具合に、それぞれの機関が何をするか決めておいて実行していきます。

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▼そのうで交通ネットワークの維持。そのために、それぞれの道路、区間だけで対策を取るのではなく、連携して対策を取るとしています。

例えば、今年2月の北陸の大渋滞は高速道路と国道が並行して走っている区間で、高速道路が早く通行止めになり、車が国道に集中したことが影響を大きくしました。

大雪が予想されたときに連絡を取り合って、早めに広域的な迂回を呼びかけたり、車の流入をあらかじめ制限したりします。チェーン義務化も流入を制限し生活物資の輸送などに不可欠な道路の通行を確保するという狙いもあります。

そして除雪の仕方も工夫します。

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10月末に福井・石川両県の国道事務所や高速道路会社、警察など関係者が参加して訓練が行われました。大雪になったら高速をいったん通行止めにして除雪を集中的に行い、除雪が済んだら高速の通行を再開。同時に国道を閉鎖して除雪を行うなど、できるだけ通行を確保するための態勢を点検していました。

◎本格的な冬に向けて何が必要か?

チェーン装着義務化については説明が十分とは言えません。雪国のドライバーや事業者だけでなく全国のトラックやバスの業界などに対して説明が必要。またチェーンを着脱するスペースの確保など運用前にしっかりと準備をしてもらいたい。

一方、ドライバーの側も雪に対する装備を整えておく必要があります。
「大雪に対する緊急発表」が出るような大雪は「災害」と考えて、自分の身を守るためにも、車を含め無理な外出はしないなど、慎重に行動すること、これが毎年相次いでいる大規模立往生の教訓だと思います。

(松本 浩司 解説委員)


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