これから冬にかけて住宅火災による被害が集中します。頼りになるのが火災警報器ですが、意外な落とし穴があることをご存知でしょうか。
【住宅用火災警報器はどのくらい普及しているのか】
住宅用の火災警報器は2006年に新築住宅への設置が義務付けられて、そのあと既存の住宅でも義務化されました。
いろいろな種類がありますが、一般的なのは電池式で煙を感知して火災を知らせるもの。
義務付けから10年ほどたって設置率は82パーセントまであがってきています。
【効果はあがっているのか】
去年までの3年間に起きた住宅火災を総務省消防庁が検証した結果、
▼火災100件あたりの死者数は、警報器があった場合はなかった場合に較べて4割少なく
▼焼けた面積はほぼ半分に抑えられていた
【落とし穴とは】
ふたつありますが、ひとつは一酸化炭素中毒です。
建物火災による死因で一番多いのは一酸化炭素中毒によるもので4割近くを占めています。一酸化炭素は火災によって発生し、吸い込むとわずかな濃度でも死に至ります。色も匂いもないため消防関係者は「サイレントキラー」と呼んだりします。
一般的な火災警報器をつけていても一酸化炭素による被害を防げないケースがあることがわかってきたのです。
3年前、神戸市東灘区のアパートで火事があり、53歳の父親と30歳の娘の親子2人が亡くなりました。火が出たのは2階の一番端の部屋。火元の部屋と隣の部屋の住民は火事に気づき避難しましたが、さらにひとつ離れた部屋の親子が被害にあいました。死因は一酸化炭素中毒。親子が居た部屋はほとんど焼けておらず、服にも延焼していませんでした。
この部屋は2DKで、条例で定められたとおり台所と寝室に2つ火災警報器がきちんと取り付けられていました。そして火事のとき鳴っていたことが確認されています。
【火災警報器が鳴ったのになぜ逃げられなかったのか】
火災のあと、ふたりは玄関に近いところで発見されていて、避難をしようとしていたと考えられます。
これより前、隣の部屋の住民が火災に気づいて避難をする際に、玄関の戸を叩いて呼びかけましたが反応はありませんでした。すでに意識を失っていた可能性がありますが、このとき、「この部屋の火災警報器はまだ鳴っておらず、小窓越しに見えた室内に煙はまだ、まったく見えなかった」と住民は証言しています。
ふたりはなぜ避難できなかったのか。神戸市消防局と東京理科大学などの研究グループは3年間、実証実験を重ねてきました。
今年6月に行った実験では、焼けたアパートを建てた工務店にも協力してもらって2階部分、特に屋根裏を忠実に再現しました。一番右が火元の部屋、ひとつ置いた部屋が、ふたりが亡くなった部屋にあたります。各部屋と屋根裏にカメラとセンターを設置し、ソファーに着火します。
▼ソファーから上がった火の手は次第に高くあがり、
▼1分後、火元の部屋の火災警報器が鳴り始めます。
▼出火から3分半後、火元の部屋の天井が焼け落ちて、煙が隣りの屋根裏に広がって行きます。
▼5分後、被害があった部屋に煙はまだほとんど見えませんが、一酸化炭素の濃度が急速にあがり始め、危険な濃度に達します。
▼出火から8分後。被害があった部屋にも煙が入り込み、煙を感知する火災警報器がここで、ようやく鳴り始めました。しかし、このとき既に一酸化炭素は5500ppm以上と、短時間で死に到るとされる濃度を超えていました。
【なぜ一酸化炭素だけが高くなったのか】
実験でわかったことを整理すると、火災で煙と一酸化炭素が発生し、火元の部屋や屋根裏に広がっていきました。一般に煙と一酸化炭素は一緒に移動すると考えられていますが、この実験では煙よりも先に一酸化炭素が流れてふたつ先の部屋に充満しました。建物の構造や条件によってこうしたケースがあることが確認さたのです。
実験結果をもとに3年前の火災の状況を推定しますと、火元とすぐ隣の部屋の人は火災に早く気づいて避難しましたが、ふたつ先の部屋の親子は火元から離れていただけに気づくのが遅れました。そして火災警報器が鳴る前に一酸化炭素の濃度が高くなって、逃げようとしたが間に合わなかった可能性が高い、ということが裏付けられました。
【どうしたらよいのか】
▼ふたつ対策があって、ひとつは一酸化炭素も感知する火災警報器があります。煙や熱を感知する一般的なものに較べると高いが、安全性は高い。
▼もうひとつは連動型の火災警報器。
複数の火災警報器が電波でつながっていて、一か所が火災を感知するとすべての警報器が鳴って発生を知らせます。
戸建て住宅の場合、1階で火災警報器が鳴っても、2階の部屋の扉をしめていると警報音は3分の1程度になって気づかない可能性があります。連動型であれば各部屋で鳴るので、こうした心配がありません。
さきほどの実験のように、何らかの理由で一酸化炭素が先に移動した場合でも、離れた部屋で出火をいち早く知ることができれば、一酸化炭素が到達する前に避難することができる可能性が高まります。
【住宅用火災警報器のもうひとつの落とし穴】
住宅用火災警報器の設置が義務付けられて10年あまりですが、電池の寿命は10年とされているので、義務付けにあわせて設置したものは電池が切れる時期になっています。実際、電池が切れていたため鳴らずに逃げるのが遅れたり、電池切れを知らせる音がうるさいと警報器を外してしまい、火災に気づくのが遅れたケースが報告されています。
国民生活センターが調査をしたところ、10年で本体の交換が必要なことを知らなかった人が63パーセント、点検をしたことがないという人がほぼ半分、点検をした人の12パーセントが「異常が見つかった」と答えました。
【10年たったら本体の交換を!】
一般の家電製品も安全に使用できるのは10年が目安とされます。電池を交換しても10年を超えると本体が故障をする可能性が大きくなるので、総務省消防庁や専門家は「10年たったのものは新しいものに交換してほしい」と呼びかけています。通常のタイプだと2000円前後からあります。そして交換する際は、割高になりますが、より安全性が高い連動型や一酸化炭素も感知するタイプに替えることを総務省消防庁などは勧めています。
そして10年たっていなくても、定期的に点検をすることがとても大切です。本体についているボタンを押したり、紐を引いたりして所定の音が出れば正常に機能していることがわかります。機種によって異なるので取扱説明書で確認をして点検をする必要があります。
毎年11月から3月にかけて火災による被害が集中する時期です。住宅用火災警報器の備えがきちんとできているか、確認をしてほしいと思います
(松本 浩司 解説委員)
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