「外国人労働者・消費増税 国民の視線は?」(くらし☆解説)
2018年11月13日 (火)
太田 真嗣 解説委員
国会では、いま、外国人材の受け入れ拡大や、来年10月の消費税率の引き上げの是非などをめぐって与野党の論戦が繰り広げられています。それついて国民はどう見ているのか。11月のNHKの世論調査をもとに考えます。
≪内閣支持率は?≫
11月のNHKの世論調査で、安倍内閣の支持率は、「支持する」が前の月から4ポイント上がって46%、「支持しない」は、逆に3ポイント下がって37%でした。
安倍政権としては、安倍総理大臣が7年ぶりに中国を公式訪問し、日中関係に改善の兆しが見えることや今年度の補正予算成立が、プラスの要素。一方、国会審議で、閣僚のいわゆる“政治とカネ”の問題が取り上げられたり、答弁で躓いたりして、野党から追及される場面も目立ったのがマイナス要素です。
≪外国人材の受け入れ拡大の是非≫
この国会の焦点となっている外国人材の受け入れ拡大に賛成か反対かを聞いたところ、「賛成」は27%、「反対」は30%で、「どちらともいえない」が36%でした。これを同じ質問をした今年8月の調査と比べますと、「賛成」と「どちらともいえない」が減り、「反対」が増えています。反対が増えた背景としては、法案が国会に提出されても、受け入れの規模やその影響など、全体像が見えてこないのが大きいとみられます。
これまでの国会での議論を聞いていても、「外国人の受け入れ自体に反対」という意見は殆どなく、『人口減少が続く中、ある程度、外国人の手を借りなければ、日本の経済や地域は立ち行かなくなる』という問題意識は、各党、共有しているように思います。
では、『どの分野に、どの位の人数を受け入れることになるのか』。
政府は、人手不足が特に深刻な、介護や建設業など14の業種で、初年度の受け入れは合わせて4万人程度になると想定していますが、実際には、「法案の成立後に省令で定める」としています。それに対し野党側は、「受け入れの上限など、基本設定を先送りしたまま法律を作るのは問題だ」と批判しています。
≪今後の法案審議は、どうなる?≫
安倍総理は、「深刻な人材不足が日本の成長を阻害する大きな要因になり始めている」として、いまの国会で法案を成立させ、来年4月から制度をスタートさせたいとしています。
そこで、この法案を、いまの国会で成立させるべきかどうかを聞いたところ、「成立させるべき」は9%、「成立を急ぐ必要はない」は62%、「どちらともいえない」は20%で、与党支持層でも、半数以上が「成立を急ぐべきでない」という意見です。
実際に、多くの外国人に日本で働いてもらうことになれば、それは単に、『日本に来てもらう』ではなく、『私たちと一緒に生活してもらう』ということですから、言葉の問題をはじめ、教育、医療、あるいは、『地域としてどう受け入れていくか』という話しになります。その意味でも、私たちの暮らしに直接関わることですし、もっと大きく言えば、将来のこの国のあり方が問われる重要な問題でもありますから徹底した議論が求められています。
≪消費税率の引き上げは?≫
安倍総理が、来年10月に消費税率を予定通り10%に引き上げる方針を表明したことについて聞いたところ、「賛成」は32%、「反対」は35%、「どちらともいえない」は27%でした。支持政党別にみますと、与党支持層は賛成が多く、逆に、野党支持層・無党派層では反対が多いなど賛否が分かれています。
政府・与党は、「財政再建、そして、社会保障制度を維持するため増税は避けられない。その代わり、引き上げ分の半分は子育て支援など国民に還元する」と説明しています。それに対し、野党側は、「消費増税は国民生活への影響が大きい」として、他の税制や歳出の見直し、あるいは、政治の“身を切る改革”など増税前にやるべきことがある」と主張しています。
≪景気対策・増税による反動減対策≫
その一方で、仮に税率を上げても、それで景気にブレーキがかかり結果的に税収が落ち込んでしまっては意味がありません。そこで、政府・与党は、消費が落ち込むのを防ぐため、外食を除いた食料品などへの軽減税率の導入や、中小の小売店でクレジットカードなどで買い物をした場合、2%分のポイントを期間限定で還元する制度の導入などを検討しています。
そこで、今回の調査で、こうした制度について賛否を聞いたところ、両案とも増税の痛みを和らげるための施策であるにも関わらず、評価は必ずしも高いとは言えません。その原因として上げられるのは、いずれも『制度が複雑で、分かりにくい』ということでしょう。
≪複雑な制度には、丁寧な説明を≫
なぜ、複雑な制度になってしまうのか。それは、ひとつの施策に複数の異なる政策目標を混ぜ込んであるからです。
例えば、軽減税率で外食を対象から外したのは、全ての食料品を対象とすると減税額が大きくなりすぎて『財政再建と両立できない』というのが理由です。また、ポイント還元の制度も、消費者の負担軽減と同時に、『中小企業対策』、あるいは『現金主義からキャッシュレス社会への移行を促す』といった別の目標が加わり、制度をより複雑なものにしている感は否めません。
公平・中立・簡素が、税の三原則ですが、それは、税制には、納税者の『納得』が一番重要だからです。ですから、国民の理解と納得が得られるよう、引き続き、丁寧に説明することが求められますし、同時に、今回の消費税率の引き上げは社会保障制度の維持という目的もある訳ですから、今後、日本として、どういった社会保障制度を目指すのか、という議論も進めていかなければなりません。
≪社会保障制度改革の行方≫
安倍総理は、「今後3年間で、すべでの世代が安心できる社会保障制度に改革していく」としています。まずは、雇用制度から見直す方針で、65歳以上への継続雇用の引き上げなどを検討するとしています。
そこで、希望する人が70歳まで働き続けられるようすることへの賛否を聞いたところ、全体では、「賛成」は50%、「反対」は15%で、「どちらともいえない」は27%でした。ただ、これを年代別に見てみますと、若い人の方が「賛成」という意見が多く、年を追うごとに「どちらとも言えない」という人が増えているのが分かります。若い人達が、『元気で働けるうちは永く働きたい』と考えるのに対し、実際に永く働いてきた人達には、『もうちょっと、ゆっくりしたい』という思いもあるのかもしれません。継続雇用の延長は、あくまで「希望する人は・・・」という話しですが、いずれにしても、これからの社会保障制度は、個人の価値観、あるいは、ライフスタイルによって、様々な選択ができるようにする『多様化』がキーワードになるでしょう。ですから『制度がどうなるか』という、国会などでの議論の行方に注目するのと同時に、これからは、私たち一人ひとりも、それぞれ『どのような将来を描いていくか』を考えていくことが、より重要になってくるように思います。
(太田 真嗣 解説委員)
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