大学生の就職活動。経団連がルールを決めるのをやめると発表し、混乱が心配されていましたが、当面、政府主導でルールが維持されることになりました。今井解説委員。
【就職活動のルールは、変わらないことになったのですね】
そうです。ルールは変わらないことになりました。でも、実際の就職活動の日程は、今回のことをきっかけに、変わっていくのではないか、という見方もでているのです。
【ルールは変わらないけれど、実際の日程は変わるかもしれない。どういうことですか?】
まず、ルールを見てみましょう。
来年。つまり、今の大学3年生までは、
▼ 大学3年生が終わる3月に、説明会やエントリーシートと呼ばれる応募の受け付けが始まり、
▼ 大学4年生になった6月から面接、事実上の内定が解禁となっていました。
経団連が定めて、加盟している企業に守るよう、要請してきました。
それが、再来年。今の大学2年生もついても、
▼ このルールが維持されることが、先週、決まりました。今の大学1年生以降も、当面、このルールが維持される方向です。
【同じですね】
ただ、今度は、政府が、経済団体や業界団体に要請する形になります。それによって、経団連の大企業が、採用を始める時期を、早めてくるのではないかという見方があるのです。
【なぜですか?】
これまでは、自らがルールをつくっていたので、それに縛られていました。でも、これからは、政府の要請です。早くに内定を出している経団連以外の企業と同じ立場になるからです。
【早くに内定を出している企業ですか?】
例えば、IT系や外資系の企業です。これまでも2月、3月ころに内定を出してきました。こうした企業。若いうちから責任ある仕事を任され、高い給料がもらえるということで、学生の間で年々、人気が高まっています。これに対して、経団連の大企業は出遅れているという焦りがあったというのです。それが、政府の要請に変わります。
【政府の要請は、守らないのですか?】
一定のメドとしての効果はあると思います。ですが、義務ではありません。IT系や外資系の企業は、もともと「採用活動は、企業が自由に決めるべきだ」との考えで、今後も、政府の要請に縛られずに動くとみられています。一方、多くの大企業も、主に大学3年生の夏以降、仕事の体験をしてもらうインターンシップで、学生との接点を増やしています。今後は、そこで優秀と判断した学生。特に、IT系や外資系と採りあいになるような学生については、同じような早い時期から内定をだすようになるのではないか、というのです。その上で、他の多くの学生は、6月をメドにしながら内定を出していく。また、秋採用をしたり、いい人材がいれば、新卒、中途、外国人にかかわらず、即、採用したりする。このように、採用が通年化する動きにつながっていくのではないかというのです。
さらに言うと、外資などと採りあいになる学生については、同じ新卒でも、はじめから高い給料を提示するようになるのではないか、という見方も専門家の間ではでています。
【そこまでいくと、大きな変化になりますね。なぜですか?】
背景として、大企業が求める人材像が変わってきているという点があげられます。今、AI=人工知能や、ロボットなど、技術の急速な進歩で、新しいビジネスが次々登場し、企業は、その中身を大きく変えようとしています。
▼ トヨタは、「100年に一度の大変革の時代に突入した」として、自動車をつくる会社から、移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社へと、形を変えると宣言。
▼ 日立製作所も、電機メーカーから、社会の様々な課題を解決するサービスを提供する会社へと、舵を切っています。
▼ また、三井住友銀行が、新卒採用のホームページに「かつては、銀行と呼ばれていた。そんな未来が、もうそこまでやってきているかもしれない」というメッセージを載せるなど、銀行も今の姿では生き残れないという危機感をあらわにしています。
こうした中、求める人材が、外資系やIT系と重なってきて、なんとかこちらに振り向いてほしい。と、大企業は、かなり追い込まれたところにきているというのです。
【大企業が採りたいと求める優秀な人材。どのような人材なのですか?】
これまで、日本の企業は、潜在能力の高そうな新卒の大学生を、まっさらな状態で採用して育ててきました。そうした中では、「コミュニケーション能力」とか「協調性」とかが重視されてきました。でも、今、銀行では、支店の窓口などの業務を大幅に減らす方向ですし、また、電機大手の富士通は、先日、総務や経理など間接部門の社員、およそ5000人を、営業やシステムエンジニアなどに配置転換し、それが難しい社員は、転職を支援すると発表しました。
【すでにいる社員もこれまでの業務を変えることが求められているのですね】
そう。経団連の中西会長は、今後は、新卒についても、コミュニケーション能力などに加えて「AIやITといった専門性」「語学力」そして、「幅広い教養」が重視されていくと話しています。あと、「ものごとを変革する力」をあげる企業も多いですね。
【学生は、どう受け止めたらいいのでしょうか】
もちろん、大学は、職業につくための予備校ではありません。学問を探究することは、当然、大事ですし、運動や社会貢献など、様々な経験をして人間としての幅を広げることも大切です。ただ、グローバルな競争をしている大企業に就職したいと、考えている学生は、これまで以上にこうした勉強に力を入れることが求められている。ということは、頭の中に入れておいた方がいいかもしれません。その上で、少し視野を広げて考えることも大事ではないかと思います。
【視野ですか?】
中小企業やベンチャーです。今、学生1人に対して、企業側の求人がどれだけあるかを示す、求人倍率。全体では、1.88倍。特に、300人未満の中小企業は、9.91倍と、1人の学生をおよそ10社が採りあう形です。一方、5000人以上の大企業に限ってみると、0.37倍。希望する学生3人に1人しか入れないという狭き門になります。3年前の0.70倍から、年々狭くなっています。売り手市場ということで、大企業への就職を希望する学生が急激に増えているからとみられています。でも、日本の中小、ベンチャーの中には、技術力があって、将来性が豊か。また、働き方に配慮している企業もたくさんあります。もちろん、ここでも専門性や語学力が必要にはなってきていますが、視野を広げることで自分を活かせる職場の選択肢が広がると思います。
【でも、中小企業に、どういう会社があるかわからない人も多いですよね】
それだけに、中小企業こそ、地域の大学との連携=インターンシップを強化して、仕事や職場への理解を深めてもらう取り組みが大事ではないかと思います。1、2年から体験をすることで、働くことへの理解が広がり、そのために今、自分は何をすべきか。勉強への意欲も高まる効果があると指摘されています。
その上で、学生にとって、一番大事なのは、自分は何をしたいのか。そのために、どう自分を磨けばいいのかを、自ら考えることではないでしょうか。
最後は、その点を忘れずに、学生生活、そして、就職活動にのぞんでほしいと思います。
(今井 純子 解説委員)
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