きょうのテーマはこちら。今井解説委員。
Q)まず、情報“銀行”。どのようなものですか?
A)例えば、通販サイトの購買履歴、位置情報からわかる行動履歴、こうした個人情報。今は、サービスを提供している企業がばらばらに持っています。一方、こうした情報を使って、新しいサービスや製品の開発に使いたいという企業がいます。情報銀行は、その間にたって、消費者の情報を集めてほしいという要請に応じて、情報をまとめて預かります。
そして、情報をほしいという企業に、消費者の同意を得た上で売って、個人にも対価を支払う。銀行と言っていますが、いわば情報を仲介する事業者です。
Q)だから、ちょんちょんがついているのですね。
A)そうです。今、銀行も含めて様々な企業が、事業化に向けて、実証実験を始めています。
Q)どのような実験ですか?
A)2つ紹介したいと思います。まず、三菱UFJ信託銀行が8月から始めている実験です。
▼ 社外も含めたおよそ1000人が対象で、参加者は、まず、専用のアプリを使って、例えば、センサーを内蔵した専用の靴で歩いた行動の履歴。そして、どう足をついて、どう跳ね上げたかといった歩き方の特徴。それに、資産などから、情報銀行に預けてもいいと思うデータを選びます。すると、銀行が、それぞれの企業からデータを集めてきて、まとめて管理します。
▼ 次は、データを使わせてほしいという企業や研究機関から、申し出があります。例えば、こちらは、フィットネスクラブからの申し出です。
Q)あなたのためのフィットネスメニューをつくりますとありますね。
A)詳しく見てみると、あなたの体のバランスにあわせたメニューをつくり、あなたの行動の範囲で利用しやすい店舗を案内します。そのために、毎月、一週間分の歩行データや行動履歴データを使わせてほしいとあります。提供してもいいと思ったら、同意をします。すると、その分の情報が、銀行から企業に渡ることになります。フィットネスクラブからみると、いいメニューをつくれば会員になってくれるかもしれないわけですね。
Q)情報を提供した人には、どのようなメリットがあるのですか?
A)自分にあった運動のプランが提案されますが、別に、会員にならなくてもいいわけです。加えて、例えば、リラックスヨガに招待します。といった、サービス。あるいは、一週間分のデータで500円。こうした対価を受け取ることができます。
Q)おカネになるのですね!
A)これはあくまでも実験のイメージで、実際いくらもらえるのか、どのようなサービスが得られるのかは、今後、それぞれの企業が考えることになります。いずれにしても、事前に提示されることになります。
Q)もうひとつの実験は?
A)日立製作所です。こちらは、社員200人を対象に、9月から実験を始めています。
▼ 参加者は、自宅のブレーカーに取り付けた専用のセンサーからの電力データ(家電ごとの使用状況がわかるセンサーで、いつどのような家電が使われているか、といた情報がわかります)。そして、リストバンドの形をしたセンサーからの運動量や睡眠時間、心拍数など、健康や生活に関するデータ。それに、会社の人事部門からのデータ。こうした中から、自分で選んで情報銀行にデータを預けます。すると、実験に参加している企業、例えば、日本郵政から、個人の在宅率を把握して、再配達を減らすための宅配ルートを設計するためにデータをください。こうした申し出があります。参加者は、預けているデータの中から、提供していい情報を選んで提供する仕組みです。これで日本郵政は、効率的な宅配ルートを考え、コストの削減につなげたいということです。
Q)情報を提供した人は、どんな対価をもらえるのですか?
A)この実験では、対価はないそうで、日立は、実験を通じて、どのような情報だったら、企業がどのくらいで買い取ってくれるか。それによって、個人にどのような対価を出せるのかも、考えていきたいとしています。
Q)それにしても、なぜ、このような情報銀行が検討されているのか?
A)こうした個人情報。先ほども言ったように、アプリを提供している企業。例えば、アマゾン、フェイスブックといった企業がばらばらに持っています。ただ、情報を提供している個人からみると、自分の情報が、どこに売られ、どういう形で使われているのか、わからないという不安がありますよね。
Q)同意は必要ないのですか?
A)日本の法律では、個人を特定できない情報は勝手に売買してもいいことになっています。一方、個人を特定できるような情報は、本人の同意がなければ、第三者に提供できませんが、その同意。例えば、アプリの利用規約に「サービス改善のために使います」「研究開発のために使います」と書いてあったりします。これだと、どう使われるのかわかりません。そもそも、利用規約をよく読まずに同意することもありますよね。
逆に、国内の多くの企業にとって、こうした膨大なデータは、新しいサービスや製品の開発などに活かせる貴重な宝の山です。ですが、あいまいな形で集められた情報を使うと、法律的には問題がなくても、批判されかねないということで、活用しにくいという声があがっていました。
そこで、情報銀行が間に入って、個人からの明確な同意のもと、情報を利用できる形にすれば、個人にとっては、自分の情報をコントロールできる上に、何がしかの対価も得られる。企業も、安心して活用できる。双方にメリットがあるということで、検討が進められているのです。
Q)でも、情報銀行に預けても、もともとの企業に情報は残るのですよね。
A)今はそうです。でも、将来的に法律が改正されて、個人が自分の情報を消してくれるよう企業に求めることができるようになれば、個人が、情報銀行を通じて、自分の情報を一元的にコントロールすることも可能になるかもしれません。そういう可能性を秘めた構想と言っていいと思います。
Q)それでも、利用を考える側からみると、個人情報が漏れないか心配です。
A)そうですよね。そこで、政府が業界団体と協力して、情報銀行の「認定制度」をつくりました。具体的には、情報銀行が守るべき指針として、例えば、
▼ セキュリティー対策をとれる人の体制や資金が確保できていること。
▼ 情報の提供先や利用のされ方について、適切かどうかをチェックする倫理委員会を整えること。
▼ 万一、個人情報が漏れた場合、情報銀行が損害賠償の責任を負うこと
こうしたことを定めています。業界団体が、年内に申請を受け付けて、3月ごろには認定をしたいとしていますので、来年には、情報銀行が実際にスタートするかもしれません。
Q)認定を受けた情報銀行だと、安心ということですか?
A)一定のお墨付きにはなりますので、利用する場合、まず、そこを確かめたほうがいいと思います。ただ、それで100%安心とはいえません。信頼できる情報銀行か、総合的に判断する。その上で、
▼ 情報がほしいという企業は、魅力的な対価を提示してくるかもしれませんそれにつられて、むやみに情報を提供しないこと。
▼ 利用の目的やデータの範囲などをきちんと確認して、
▼ 渡したくない情報は渡さないこと。
あくまで、自分で自分の情報をコントロールするという意識を忘れないようにすることが大事です。
(今井 純子 解説委員)
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