主に秋の時期に刑務所などの「矯正展」という催しが全国で開かれます。刑務所のイベントですが、ずいぶん様変わりしているようです。その背景などを解説します。
【矯正展が様変わり】
東京・小菅の東京拘置所で開かれた矯正展。人気グループの「DA PUMP」が大勢の人たちを前に、ヒット曲「U・S・A」を披露しました。
矯正展というのは、もともとは、受刑者が作った作業製品を刑務所などで展示即売するイベントです。ただ、この日は実に2万5000人が東京拘置所に訪れたそうです。初めて入場制限が行われるほど人気だったということです。
Q:刑務所の作業品というと、家具とか、木工製品とか。どちらかというと地味なイメージです。
A:昔は確かにそうでした。大きな家具や木工製品、印刷物などが主でした。製品が並べているだけで、一般の人にとって魅力的とは言えませんでした。
かつては受刑者の職業訓練に重点が置かれていました。しかし、現在は、地元の人にお店を出してもらったり、刑務作業でも地元の特産品を作ったりするなど、地域との連携を強めるようになっているんです。その結果、催しの内容も売っている品物も様変わりしています。
また、公共施設やショッピングセンターでも展示即売会が開かれていて、矯正展と合わせると、昨年度は全国で500回に上るということです。見かけた方も多いと思います。
【各地の矯正展は】
各地の矯正展を訪問しました。10月に長野刑務所で開かれた矯正展には、朝から入場を待つ人の列ができていました。地元の店が野菜や果物を販売し、家族連れなどで午前中からいっぱいになりました。
ご当地アイドルグループのステージも開かれて、熱心なファンが声援を送っていました。施設の見学会も開かれ、作業場や受刑者の生活する部屋も公開されていました。法務省によると、10年あまり前から、全国でこうした施設見学を積極的に行うようになったそうです。
長野刑務所の人気商品は、そばがらの枕です。そばの生産が盛んな長野の特産を受刑者の作業品にしています。実際に寝心地を確認して、職員が、そばがらの量を調節してくれるサービスもあって、多くの人が買い求めていました。
食事ができる場所も設けられています。人気は刑務所の食事と同じレシピで作ったプリズン弁当。刑務所カレーもあります。
栃木県の黒羽刑務所でも2017年の矯正展を取材しました。地元の生産者などが販売する農作物などが人気でした。また、ボランティア団体なども出店していて、たくさんの人でにぎわっていました。
ここで子どもたちに人気だったのが、ご当地ヒーローショーです。ステージで悪者と戦い、子供たちが声援を送っていました。
【変化の背景には高齢化】
Q:ずいぶんと様変わりした印象ですが、これはどうしてなのでしょうか。
A:理由はいくつかあるのですが、背景の1つは受刑者の高齢化です。30年前は65歳以上が1%あまりとわずかでした。それが今では、65歳以上の受刑者の割合は急増して11%を超えています。
Q:そのことと矯正展の様変わりにはどんな関係があるのですか。
A:高齢の受刑者は出所した後も、働くことができなかったり、認知症や病気で継続した治療が必要だったりするケースが少なくありません。
いま刑務所には福祉専門官などの担当者がいて、自治体やボランティアなどと連携して、公営住宅などに住まいを見つけ、あるいは老人ホームや病院で受け入れてもらっています。そのためには地元の協力が必要です。つまり地域の理解を得ることが不可欠な理由になっているんです。
芸能人を呼んだり、ヒーローショーを開いたりすることは、直接矯正展とは関係ありません。そんな必要があるのかという意見もあるでしょう。しかし、まずは多くの人に来てもらいたいという、切実な事情も背景にあるようです。
【人気商品は】
Q:販売している商品も随分変化していますね。
A:ここに最近の人気商品を借りてきました。横須賀刑務支所が作っている部分汚れ専用の石鹸は全国でも一番の人気商品だそうです。うどん。お茶なども作られています。広島刑務所はカープグッズも作っています。折り鶴の紙を再利用した缶バッジは、広島市の平和記念資料館で販売しているそうです。
Q:こちらはきれいな工芸品ですね。
A:津軽塗のはし、佐賀錦のペンダント、熊本の肥後象眼の文鎮です。こうした伝統工芸品は昔からあるのですが、今は、各地の刑務所で積極的に作られるようになりました。
法務省によると、後継者不足に悩んでいる地元からの要望が増えて、刑務所の作業に取り入れるところもあるのだそうです。
また、働き手が足りない田んぼで農作業を手伝って地域の労働力になる取り組みも行われています。過疎化や人手不足も、地域との連携を深める理由になっているんです。
【これからの課題は】
Q:矯正展から地域との関わりの変化も見えてくるのですね。
A:課題もあります。地元特産品を使った作業品の中には、受刑者の職業訓練や資格取得などとすぐに結びつかないケースもあります。当局は地域との連携に大きく舵をきったわけですが、一方で受刑者の職業訓練とどう両立させていくかがこれからは問われることになります。
また、地元の人でも刑務所にどのような受刑者がどのくらいいるのかなど、不安に感じる方も多いと思います。普段から、積極的に情報を公開することも必要です。
そして、4月に愛媛県で受刑者が脱走する事件がありました。こうした事件が起きると、地域の理解が得られなくなります。再発防止策の徹底が必要です。
Q:地域に与える影響も大きいですから、二度と繰り返さないようにしてほしいですね。
A:この週末も、全国各地で矯正展が予定されています。まずは、近くで開かれている催しを多くの人に見てもらい、理解や協力につなげてほしいと思います。
(清永 聡 解説委員)
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