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「日本と中国 お互いどう見ている?」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

日中関係の改善にともなって中国人の日本に対する意識が変わってきていることが日中の共同調査でわかりました。神子田解説委員です。

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Q 神子田さん、この調査、どういうものなんでしょうか?

A これは日本の民間団体「言論NPO」と、中国の外国向けの出版発行機関である「中国国際出版集団」が、毎年行っているものです。
今回は日本全国の1000人 中国の10の主要都市の1548人に聞いているんですが、日本ではアンケート用紙を渡してあとで回収する方法で、中国では面談方式で行われました。
 その結果なんですが、まず中国人に、日本への印象を聞いたところ、「良い、またはどちらからといえば良い印象をもっている」人の割合は、去年の31.5%から42.2%に増えました。一方日本に対し「良くない、またはどちらかといえば良くない印象をもっている」人の割合は、去年の66.8%から56.1%に大幅に下がりました。

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Q どちらも10ポイント以上と大きな改善ですね。

A 背景には、中国から日本へ観光などで訪れる人が年々増えていて、日本人とふれあうことで対日感情が良くなるということもあるんですが、今年ここまで急激に改善した背景には、日中の政治関係が、両首脳が往来するまでに改善したことがあります。 今年5月には李克強首相が、中国の首脳としては7年ぶりに来日しましたし、さらに今月下旬にも、今度は安倍総理大臣が中国を訪れ習近平国家主席と会談する予定です。

わたしも先月、日本経団連会長など日本の経済界のトップが北京を訪問して李首相と会談した際に、同行取材したのですが、その際に日中間の距離が縮まったと感じる場面がありました。
この訪中団は、日本と中国の経済交流を促進する日中経済協会という団体が毎年行っていて、日本側は毎年この会談で、日本企業が中国でのビジネスをしやすいように、規制緩和などの要望をまとめた冊子を手渡しています。
現地に進出している企業は、実は、より詳細な要望を分厚い冊子にまとめていますが、で、三村日本商工会議所会頭がそのことに触れたうえで「これは厚すぎますのでお渡ししませんが」と言ったところ、李首相は、「おっしゃった白書をいただけませんか」と言ってきたということです。
 そして、「日本側の問題提起は合理的だ。担当部門は努力をしていると思う」と述べました。去年まではそこで終わっていたのですが、今年は「私はなおも安心できない」と述べて、その場にいた政府高官に「各部署に問題を解決するよう伝えよ」と命じてみせたというのです。

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この場面を目の当たりにした経済界のトップは、日本との関係強化をはかりたいという強いメッセージが読み取れたと話していました。
中国社会は、上の人がどう考えているかを気にしながら行動するところが日本以上にありますので、党中央の指導部が日本と仲よくしているところを見せれば、地方政府の幹部も日本企業との交流により積極的にとりくみ、民間の企業も、安心して日本とのビジネスができるというところがあります。このように日中の政治関係が改善する中で、日本人に対する意識も変わっているのかと思います。
 そしてもうひとつ中国の人々の日本に対する意識が変わった背景には、国際情勢の変化があるんです。

Q なんでしょうか?

A アメリカとの貿易摩擦です。
トランプ政権は、中国がアメリカの知的財産権を侵害しているなどとして、中国からの輸入品に高額の関税をかける大規模な制裁を発動。中国側も対抗措置をとるという貿易戦争が始まっています。さらに、最近では、ペンス副大統領が「中国はアメリカを食い物にしている」と中国を厳しく批判。これに対し、中国の王毅外相が「誤った言動はやめよ」と応じるなど、米中関係は、かつての米ソ対立になぞらえて「新冷戦」の始まりか、と指摘されるまでに悪化しています。

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そうしたなか、今回のアンケート調査で、中国との関係が最も重要な国はどこかを聞いたところ、アメリカとこたえた人の割合が、28.4%から23.3%に低下したのに対し、日本と答えた人の割合が12%から18.2%と増えているんです。

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Q ずいぶん日本との関係が近づいているようですが、逆に日本人の中国に対する意識はどう変化しているのでしょうか?

A 中国に対し「良いまたはどちらかといえば良い印象をもっている」は11.5%から13.1%と増えてはいるんですが、あまり増えていません。「悪いまたはどちらかといえば悪い印象をもっている」も88.3%から86.3%に減ってはいるけれども、こちらもあまり減っておらず、依然9割近くに上っているといいます。

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Q なぜなんでしょうか?

A この調査では、良くない印象の理由についても毎年複数回答で聴いているのですが、「沖縄県の尖閣諸島周辺の日本領海や領空をたびたび侵犯しているから」が去年に続いて最も多く、次いで「中国は国際的なルールと異なる行動をするから」そして「歴史問題などで日本を批判するから」という理由が上がりました。このうち「中国は国際的なルールと異なる行動をするから」という答えが去年から今年にかけて8ポイントもあがっていました。

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中国はこれまでも、南シナ海の領有権をめぐって、中国の主張を認めなかった仲裁裁判所の裁定を「紙くず同然だ」として認めない姿勢を示したことがありましたが、今年はアメリカとの貿易摩擦が激しくなる中で、「知的財産権を保護していない」など、自由貿易の精神に反する様々な行為が改めてクローズアップされたことも、この背景にあるものとみられます。
このように現状は、中国側の日本に対する感情が改善するなかで、日本側の中国に対する感情が改善していないということなんですが、このアンバランスについて専門家の間では、将来の関係を再び悪化させる要因となりかねないと懸念する声も出ています。

Q 日本人の対中感情の改善も含めて、今後両国の関係をさらに改善していくにはどういう課題があるんでしょうか?

A 今回の調査で、日中関係向上の為に必要なことは何かを聞いたところ、こういう答えが多くなりました。
日本は①政府間の信頼向上、②尖閣諸島に関する“領土問題”の解決への努力、③歴史認識問題での和解、④首脳間交流の活発化があがっています。中国側も順位は違いますが、同じ4つの項目が上位に来ました。

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このうち、領土をめぐる対立の解消や、歴史問題での和解というのは、なかなか簡単にはいかないと思いますが、お互いにできることからまず始める、となると、首脳間の交流の活発化、そして両政府の信頼向上にまずとりくんでいくことが大事かと思います。そうすることでコミュニケーションのパイプを常にたもって、お互いの立場を主張しあい、議論を深めながら、信頼感を高めていくことが求められているのではないでしょうか。日中関係は長い歴史の中で、良くなったり、悪くなったりの繰り返しでしたが、今度こそ、息の長い取り組みを通じて、後戻りしない友好関係を築いていってほしいと思います。

(神子田 章博 解説委員)


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