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「安倍新内閣スタート・国民の評価は?」(くらし☆解説)

太田 真嗣  解説委員

安倍総理大臣は、先週、内閣改造と自民党の役員人事を行い、第4次安倍改造内閣がスタートしました。有権者は、新内閣をどう評価し、どんな政策を期待しているのか。10月のNHK世論調査をもとに見ていきましょう。
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【有権者の評価は?】
9日に発表されたNHK世論調査で、今回の内閣改造と自民党役員人事を、全体として、どう評価するか聞いたところ、▽「大いに評価する」は4%、▽「ある程度評価する」は29%で、逆に、▽「あまり評価しない」は36%、▽「まったく評価しない」は20%でした。全体として見ると、「評価する」という人が30%あまりに止まったのに対し、「評価しない」は50%を超える、なかなか厳しい評価です。また、安倍総理は、引き続きデフレからの脱却に取り組むため、麻生副総理兼財務大臣を留任させましたが、その是非を聞いたところ、▽「良かった」は17%、▽「良くなかった」は42%で、▽「どちらともいえない」は、34%でした。
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【内閣支持率への影響と、その背景】
10月の安倍内閣の支持率は、▽「支持する」が42%と、前月と同じ、▽「支持しない」も、1ポイント上がったものの40%と、大きな変化は見られませんでした。安倍総理は、第1次政権も含め、これまでに6回、内閣改造を行っていますが、そのうち5回は、その後の調査で支持率があがっています。しかし、今回は、支持率アップにつながりませんでした。そこには、『直近の政治の動きをどう受け止めるか』ということについて、認識の差があったように思います。
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先の自民党総裁選で、安倍さんは、国会議員票では石破さんを圧倒しましたが、党員投票では思うように票を伸ばすことができず、その後の沖縄県知事選挙でも与党の推す候補者が敗れています。それが、人事にどう影響するか注目されましたが、安倍総理は、今回の改造でも政策の継続性を重視し、主要メンバーは留任させました。また、初入閣は、12人と多かったのですが、このうち10人は、安倍さんを総裁選で支援した各派閥が推す、いわゆる「閣僚待機組」からの起用で、大きなサプライズもありませんでした。
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内閣改造の評価について、もう少し詳しく見てみますと、与党の支持層でも「評価する」は、半数よりちょっと多い56%。偶然ですが、先の総裁選で安倍さんが獲得した党員投票の割合とほぼ同じです。ですから、直近の動きを踏まえ、「今回は、変わるかな」と期待していた、野党支持層や無党派層、そして、与党支持層の一部からは厳しい評価になった。一方、安倍総理としては、今回は、足元を固め、着実に成果が上げられるような人事ということですから、有権者としても、「では、本当に結果が出せるのか、もう少し様子を見よう…」ということだと思います。
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【安倍新内閣は、何に取り組もうとしているのか】
安倍総理は、政権の課題として、▽国難ともいえる少子高齢化、また、▽激動する国際情勢への対応、それに、▽憲法改正の実現を上げています。
今回の調査で、有権者に、安倍内閣が、今後、最も力を入れて取り組むべき課題を聞いたところ、▽社会保障が28%と最も多く、次いで、▽経済政策が20%などとなっています。安倍総理は、全ての世代が安心できる社会保障改革に向け、まずは、雇用制度の改革から検討を始めるとしており、年末までに中間的な報告をとりまとめたいとしています。
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【外交・日米貿易交渉】
外交での当面の課題は、アメリカ・トランプ政権とどう向き合うかです。先の日米首脳会談で、安倍総理とトランプ大統領は、農産品などの関税を含む2国間交渉を始める一方、交渉が続いている間は、自動車などの関税を引き上げないことで合意しました。
それについて、評価するかどうかを聞いたところ、▽「評価する」は57%、▽「評価しない」は32%でした。
日本としては、当初、アメリカとの2国間交渉は避けたいところでしたが、トランプ政権は、自動車などへの関税引き上げを検討する姿勢を示しており、仮に発動されれば、日本経済への影響は避けられません。そこで、とりあえず、モノの関税について交渉を始めることで合意しましたが、今後、農業分野をめぐっては厳しいやり取りが予想されますし、交渉の行方によっては、再び強硬手段を振りかざしてこないとも限りません。日本としては、なだめたり、すかしたりしながら、場合によっては、『名を捨てて実を取る』、あるいは、相手が“短期的な利益”を求めるなら、こちらは“中・長期的な利益”を追求するといった、したたかな交渉力が問われることになります。
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【北朝鮮問題】
安倍総理は、拉致問題の解決に向けて、北朝鮮のキム・ジョンウン労働党委員長との首脳会談に意欲を示しています。日朝首脳会談を、いつ行うべきと考えるかを聞いたところ、▽「できるだけ早く」が55%、▽「急いで行う必要はない」は19%、▽「どちらともいえない」は、18%でした。
あせりは禁物ですが、日本としてもチャンスを逃さず、早期の解決への歩みを確実に進めてほしいということだろうと思います。
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【憲法改正】
安倍総理は、憲法改正の実現にも強い意欲を示しています。そこで、安倍総理が主張している9条を維持したまま、自衛隊の存在を明記する案への賛否を聞いたところ、▽「賛成」は30%、▽「反対」は19%で、▽「どちらともいえない」は40%でした。この問題は、先の総裁選でも争点となりましたが、総裁選前のことし5月の調査と比べても、大きな変化は見られませんでした。
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さらに、次の臨時国会に自民党の憲法改正案を提出すべきかどうか、有権者に聞いたところ、
▽「提出すべき」は17%、▽「提出する必要はない」は36%、▽「どちらともいえない」は38%でした。支持政党別にみますと、野党支持層や無党派層では、否定的な意見が多く、与党支持層でも、賛成・反対で意見が割れていて、「どちらともいえない」が最も多くなっています。安倍総理は、まず、自民党が具体的な案を出すことで議論をリードしたい考えですが、与党内にも、来年の参院選挙などを前に、強引にすすめるのは得策でないという意見があり、先行きは不透明です。
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【各党の支持率、臨時国会の展望】
各政党の支持率は、国会閉会中ということもあり、大きな変化は見られませんでした。
野党側は、新閣僚の資質をただす必要があるとして、早期に臨時国会を開くよう求めていますが、政府・与党は、安倍総理の外交日程も見極めながら、10月下旬に召集する方針で、調整を進めています。臨時国会では、相次ぐ災害からの復旧・復興のための今年度の補正予算案や、外国人材の受け入れ拡大に向けた法整備、そして、憲法改正をめぐる議論などが焦点となる見込みで、これから年末にかけて、再び、国会の動きが注目されることになりそうです。
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(太田 真嗣 解説委員)


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