NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「消費増税まで1年 くらしへの影響は?」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

きょうのタイトルはこちら。来年10月1日から予定されている消費税率の引き上げについて、今井解説委員に聞きます。

k181003_1.jpg

【税率は、8%から10%になるのですね】
そうです。消費税率は、財政の健全化。そして、社会保障の充実のために、引き上げられることになっています。本体価格が100円のものは、税込みの価格が108円から110円になります。

【車のように高いものだと、負担も重くなりますね。でも、10%への引き上げは、これまで2度延期されてきました。今回はどうなのでしょうか?】
安倍総理大臣は、今のところ、予定通り引き上げるという姿勢を崩していません。それに、また先送りをしたら、「まだ、増税に耐えられる経済をつくれていないのか。アベノミクスは失敗ではないか」と批判を受けかねません。まだわからないという見方もありますが、専門家や経済界の間では、安倍さんは今度こそ、増税に踏み切るのではないかという見方が強くなっているのです。
そこで、きょうは、増税にあわせて新しく導入される「軽減税率の影響」と、「家計への影響」について、見ていきたいと思います。まず、軽減税率ですが・・

k181003_4.jpg

【消費税率が10%に上がった時に、一部が8%に据え置かれるのでしたね】
そうです。多くの人の増税の痛みを和らげようということで、生活に欠かせない食料品(生鮮食品だけでなく、弁当などの加工食品も含みます)。それから、酒を除いた飲み物。定期購読の新聞。こうしたものは、8%の税率に据え置かれることになっています。

【毎日のように買うものですので、助かります】
ただ、消費者から見て、わかりにくい部分もあります。同じものなのに、違う税率がかかるケースがあるからです。

【どのようなケースですか?】
例えば、新聞。定期購読は8%と言いましたが、コンビニや駅で買うと10%になります。あと、今回、同じ食べ物でも外食は軽減税率の対象からはずれました。

【レストランで食べる場合は、10%の税率になるのですね】
そうです。でも、宅配や持ち帰りは8%です。

k181003_6.jpg

ですので、ファストフード店やコーヒーショップでは、同じものを買っても、持ち帰りの場合は食料品として8%。店内で食べると、外食として10%の税率がかかるようになります。

k181003_01_.jpg

【レジで聞かれることになるのですね】
そういうケースもあります。
あるいは、スーパーやコンビニなどで、店内で食べるイートインのコーナーがある店。
商品の価格は、持ち帰りの場合の価格だけ表示して、「店内で飲食される場合は、お申し出ください。価格が変わります」という張り紙をしておくという対応もありえます。申し出ると、10%がかかります。

k181003_02_.jpg

この両方の場合は、持ち帰りと店で食べる場合と、消費者が払う税込みの価格は変わってきます。

一方、こういうケースも考えられます。店内用と持ち帰り用とで、税込みの価格を同じにする。この場合、本体の価格が違うことになります。政府は、この3つの表示、どれでも構わないとしています。

k181003_03_.jpg

【持ち帰るつもりで買ったけれど、こどもがぐずって、店内で食べてしまうこともあります。レジに戻って、2%分の税金を払わなければいけないのでしょうか?】
制度とすると、レジで販売した時点で、適用する税率が決まることになります。ですので、後からわざわざ戻る必要はないということです。ただ、逆に、店内で食べるつもりで10%払ったけれど、事情が変わって持ち帰りをすることになった場合。まったく手をつけていなければ、レジを打ち直して、2%分返金することを考えている小売店もあるようです。

【持ち帰ると言って8%で買って、店内で食べるという人もでてくるかもしれませんね】
消費者の良心次第になりそうです。どういう表示の方法にするか、今後、それぞれの店が、検討していくことになります。混乱やトラブルが起きないような対策も考えてほしいと思います。

k181003_7.jpg

次に、家計への影響をみてみたいと思います。

【どのくらい負担が増えるのでしょうか?】
第一生命経済研空所の試算では、軽減税率で負担が軽くなる分を含めても
2人以上の世帯の平均で、年間4万4000円の負担増。
▼ 年収別でみると、例えば、年収200万円未満は年1万9000円。
▼ 年収400万円から450万円は3万8000円
▼ 年収600万円から650万円は4万5000円。負担が増えることになります。

家計全体への影響では、
もともと、10%への増税で、年間、5兆6000億円の負担が増えるはずのところ、軽減税率に加えて、税率が10%になったときに増える税収の使い道を一部変えて、幼児教育や保育の無償化などにあてることが決まりましたので、負担は、およそ2兆2000億円に軽減されることになります。5%から8%になった2014年度には、およそ8兆円負担が増えましたので、今回、影響は4分の1程度にとどまる計算です。ただ、幼児教育の無償化などは、恩恵を受ける世帯が限られますので、恩恵を受けられない世帯にとっては、やはり重い負担になります。

k181003_10.jpg

【やはり、増税の前にいろいろ買っておいた方がいいかと、考えたくなりますね】
実際、自動車販売店などで「消費税が上がる前に、買った方がお得です」というセールスが始まっているようです。ただ、今回、政府は、増税前の駆け込み需要が増えると、それだけ、増税後に、反動で買い控えが起きて、経済が落ち込む恐れがあるとして、駆け込みや買い控えを防ぐための思い切った対策を検討するとしています。

【どのような対策ですか?】
▼    まず、もともとの価格が高いので、増税の負担も重くなる車と住宅です。車については、買う時にかかる税金などを減免する。そして、住宅についても、住宅ローン減税や補助金を拡充する。こうしたことで、増税後も負担が急には重くならないよう検討するとしています。
▼    また、軽減税率が適用されない、家電製品とか、洋服、日用品についても、例えば、増税後に、増税分にあたる「2%還元セール」を行うことや、増税前に本体価格をいったん上げ、増税後に下げることで、増税のタイミングでは税込の価格が変わらないようにする。政府は、こうした対応を事実上推奨することも検討しています。

k181003_12.jpg

【つまり、来年10月より前に値上がりするものもあるかもしれないし、10月以降もしばらく変わらないものもあるかもしれないということですね】
そうです。政府が、どういう対策を出してくるか。また、店や企業によって、どういう価格戦略をとってくるのか。見極めて、対応するのがいいかもしれません。

【あと1年。私たちも、消費税率が上がるという前提で考えていかないといけないかもしれませんね】
そうですね。その上で、ぜひ企業に考えてもらいたいこと。それは、増税後の一時的な消費の落ち込みを防ぐ対策だけではなく、増税の負担に耐えられるよう家計を支援することです。今、企業の業績は好調で、抱える現金・預金も一段とつみあがっています。ですので、増税の負担を上回る賃金引上げを実施する。そして、65歳を超えても、希望する人が無理なく働き続けられる環境を整える。

k181003_14.jpg

増税で、節約ムードが広がって、経済が悪化しないよう、企業は、こうした家計の実力を底上げする対策にこそ、ぜひ、力を入れてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

今井 純子  解説委員

キーワード

こちらもオススメ!