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「避難所運営と健康管理は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

●北海道で震度7の揺れを観測した地震から1週間になりますが、1500人以上が避難生活を送っています。
●今年は相次ぐ災害のため全国で避難が相次ぎました。避難所の運営や健康管理の注意点をお伝えします。

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【相次ぐ災害で避難も相次ぐ】
Q:北海道地震から1週間ということですが、今年は本当に災害が多いという印象を受けます。

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A:6月に大阪府北部で震度6弱を観測する地震がありました。この時は避難所に避難した人は2600人に上りました。
それから西日本豪雨では、全国で42000人が避難所に避難しました。さらに、9月には台風21号が非常に強い勢力のまま日本に上陸しました。この時はおよそ16000人。そして今回の北海道で震度7の揺れを観測した地震です。避難所に避難した人は一時11900人に上りました。
北海道の地震では今も避難している人が、12日の時点でも1590人います。また、西日本豪雨でも9月10日現在、1070人が避難を続けています。今も不自由な生活を送っている方が少なくありません。

【避難所での健康管理は】
Q:避難している人たちの健康を守るため、注意することは何でしょうか。

A:厚生労働省が避難生活の際の健康管理のガイドラインをまとめています。
この中では避難所の環境をできるだけ清潔に保つよう呼び掛けています。例えば、気温が上がる昼間、特に暑い場合は昼間、できるだけ避難所の換気を行って外の空気を入れること。
そして避難所生活が長引くと、布団などを敷きっぱなしになってしまいますが、湿気を含んでダニなどが発生しやすくなりますから、晴れた日には布団を干すとともに、避難所をこまめに掃除をすることも大切です。
お年寄りの方がいれば、布団を干すのを手伝ったりするなど、協力して取り組んでもらいたいと思います。

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Q:ほかにはどういう注意点がありますか。

A:断水している場合、給水車に頼ることも多いと思います。ただ、飲料水はできるだけミネラルウオーターを使い、給水車から汲み置いた水を飲む場合は、当日の水を使ってほしいとしています。また、井戸水や湧水を飲む場合はできるだけ煮沸して殺菌してほしいとしています。
食べ物も不自由な中で、もったいないと思うかもしれませんが、賞味期限を確認して必要以上に保管せず、残った食べ物はできるだけすぐに回収して廃棄するようによびかけています。
集団生活では下痢などの消化器系の感染症が流行しやすくなります。こまめに手洗いやうがいをして、病気の予防を心がけてください。

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【避難所運営は住民の手で】
避難については西日本豪雨でこういうデータもあります。

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実際に避難指示や避難勧告が出された世帯数が、一時は23の府県で実に360万世帯に上ったということです。ただ、実際に避難をした人はごく一部にとどまっています。
やはり避難指示や避難勧告が出た場合は、速やかに避難をしてほしいと思います。特に台風など夜に危険な状態になる恐れがあることがあらかじめ分かっている場合、お年寄りなどはできるだけ早めに行動を始めてください。

Q:でも、今回の地震のように夜間、突然災害が起きることもあります。その場合、避難所はだれが設置してくれるのでしょうか。

A:それは多くの場合、住民自身です。

Q:自治体の人は準備をしてくれないのでしょうか。

A:平日の日中であれば、職員を派遣することもできます。しかし夜間、それに土日の突然の災害の場合、職員はいません。近くに住む職員が駆けつける取り決めをしている自治体もあるのですが、多くは自治会の代表や、避難所近くの住民がカギを預かって、万が一の時には避難所を開設することになっています。
内閣府は避難所運営のガイドラインでも「原則」として「被災者自らが行動し、助け合いながら避難所を運営する」ことが求められるなどと書かれているんです。

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Q:でも、どういう風にしたらいいのか、まったくわかりません。

A:9月9日の日曜日に、東京・新宿区で住民が避難所の設置や運営などを学ぶ訓練が行われました。取材してきました。

【避難所はやることがたくさん】
訓練は新宿区の中学校で、日曜日の朝、強い地震が起きたという想定で行われました。参加したのは地元の住民107人と中学生などです。
狙いの1つは住民自身で避難所を設置できるようにすることです。
この学校は、災害の際に機材や食料などを保管している倉庫が、校舎の教室の中にあります。住民に備蓄場所を知ってもらい、何がどの程度あるのか覚えてもらいます。備蓄している機材などの運び出しも手伝います。
体育館は災者の居住スペースです。倉庫の段ボールで間仕切りを設けています。この日は時間の都合で区の職員が設置しましたが、これも住民が組み立てられるよう、マニュアルが準備されています。
学校の受水槽が給水所になります。蛇口や受水槽につなぐパイプも倉庫に保管されていて、住民たちが組み立てられるようになっています。この日は使い方の説明が行われました。
また、この避難所は、医療救護所も設けられ、地震の時には近くの医師が駆けつけることになっています。けがをした人の手助けも行います。このように避難所では住民自身の力が欠かせないのです。

Q:こうやってみると、やらなければならないことはたくさんあるのですね。

A:参加した人も、忙しいことに驚いていました。ほかにも避難所で行わなければならないことがあります。
被災者を受付け、何人収容しているのかを把握します。それから食事や水の配布。高齢者への手助けなども必要になります。屋外に災害用トイレの設置も行います。

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【助け合いで避難生活を乗り切って】
もちろん、自治体の職員も駆けつけることになっていますが、大規模な災害になればなるほど、しばらく行政の手が届かず、ボランティアも間に合わず、特に最初の数日は住民が中心に運営する避難所は珍しくありません。私たちも避難をした時には、積極的に手助けして参加してもらいたいと思います。
新宿区は、毎年各地の避難所で、こうした訓練を実施しています。各地の自治体も、住民に避難所の設置方法やその役割を知ってもらう取り組みを積極的に行ってほしいと思います。

Q:今も避難している人がたくさんいます。先ほどの健康管理もそうですが、避難している住民同士でできるだけ声を掛け合ってほしいですね。

A:避難所での生活は不自由ですし、不安なことも多いと思います。ただ、こういう時こそ、避難所ではお互い積極的に協力し、助け合って避難所を運営し、乗り切ってほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)


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