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「ことしも成果に期待!リュウグウの玉手箱」(くらし☆解説)【取材後記あり】

水野 倫之  解説委員

去年、地球への帰還で注目を集めた探査機はやぶさ2。そのカプセルからは小惑星リュウグウの石や砂粒が確認され、今年はその分析に期待が高まります。
水野倫之解説委員の解説。

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カプセルはまさにリュウグウからの玉手箱だった。
大量の岩石が確認され、チームの代表は「我々はサンプルリターンミッションを完全、完遂できた」とミッションを締めくくった。

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帰還も順調で安心してみていられたがチームメンバーはそうでもなかった。
帰還を前に、メンバーが集まったのは、とある神社。
実は、最後の神頼みにやってきた。
チームとしては機体の調整や事前の訓練などやれることは全てやるが成功確率100%にはできないわけで、残りの零点何%分、頼れるものは何でも頼ろうというわけ。
お参りの後、チームは社務所にも立ち寄り「旅人が無事に帰る」というはやぶさ2にぴったりのお守りも見つけ、購入。

そのお守りを手元に置いて、チームが地球帰還に挑んだのは先月5日。
はやぶさ2からカプセルが分離され、翌、未明に大気圏に突入。
着地予定のオーストラリアでは火球のような光跡が観測され、日本の管制室にも映し出された。
レーダーやヘリなどを駆使した観測が功を奏し、夜が明けるとすぐにカプセルは見つかり、日本へ輸送。
分析が行われる神奈川県相模原市のJAXAの施設前には市民らもかけつけました。
チームで帰還を祝った。

そして1週間後、玉手箱が開封された。
これは顕微鏡で見た1回目の着陸時の岩石を入れる容器の様子。
岩石の大きさは最大で5ミリほど。全体では小さじ1杯分くらいは入っていて、最初に見た研究者は「数ミリサイズのサンプルがごろごろ入っていて言葉を失った。
予想をはるかに上回っていて大喜びした」と声を弾ませた。

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その1週間後、今度は2回目の着陸時の容器も開封。
1回目と比べて粒が大きく最大1㎝の石が入っていた。
2回目は、人工的にクレーターを作って地下の物質を露出させたところに着陸。
チームではその地点の岩盤が1回目よりも硬かったため細かくならずに大きな破片となった可能性があるとみている。

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全体が均質にも見えるリュウグウだが、場所によって硬さが異なるなど変化に富んだ天体の可能性もありそう。
実際に地下の物質が採取できたかどうかは、今後詳しく分析。

カプセル内のほかの容器にも砂粒のようなモノも確認されており、あわせて5.4g、当初の目標は0.1gでしたので50倍以上とれていたことになる。

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さらに今回カプセルからはリュウグウ由来の気体・ガスも検出された。

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玉手箱から煙が出てきたみたいな感じだが、研究者がおじいさんになったりはしてないという。

リュウグウは小さい天体で重力が弱く地球のような大気はないので、どうやら岩石どうしの隙間に閉じ込められていたガスが放出されたのではないかとみられている。
地球圏外から気体状態の物質が回収できたのは世界初ということで、今後成分分析が進められる。
こうした分析にあたって最も注意しなければならないのは、岩石やガスが地球の大気などと混じって汚染させないようにすること。
そこでチームは専用の分析装置を用意。
全体が5つの区画に分かれ、カプセルは先月真空状態の区画で開封された。
ただ真空だと作業がやりにくいため、今後岩石は不活性な窒素で満たされた区画に移されて、
地球の大気や水分に触れることなく分析が行われる。
まずは粒子一つ一つを顕微鏡で観察して正確な大きさや重さを調べた後、成分分析が行われ、カタログを作る。
こうした初期分析を半年ほどかけて行ったあと、岩石は各大学や研究機関、さらにNASAなど海外の機関に分配され、詳細な分析が行われる計画。
今チームが注目しているのは岩石の色。
初号機の時の微粒子と比べても黒々としていると言うことで、炭素が含まれているのは確実で、当面の最大の焦点はこの炭素がつながった有機物が見つかるかどうか。

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それは私たちのような地球生命のルーツを解き明かすカギになる可能性があるから。
今地球上には3000万種を超える生命、すべては炭素のつながり・有機物でできている。
この炭素のつながりが地球でどうやってできて生命が誕生したのかは謎。
太古の地球はマグマで覆われ、とても生命の材料が存在する環境ではなかったから。
これまでは地球内部から材料が湧き出し、化学反応を起こして炭素のつながりができ、生命が誕生したと考えられてきた。ところが研究が進むにつれてそうした材料は少なく、生命のルーツには遠いことがわかってきた。

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そこで炭素のつながりは小惑星から供給されたという説が注目。
小惑星の中には炭素や氷が豊富に存在するとみられるものがあり、内部に残っていた熱によって氷が解けて温泉のような環境ができ、そこで炭素の長いつながりが生まれたんではないかと。
こうした小惑星が地球に相次いで飛来、やがて生命が誕生していったという説。

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今回リュウグウの岩石から、炭素のつながりがみつかりその分析を進めれば生命のルーツの解明につながるかもしれない。
ただ、これは基礎研究なので、成果がすぐに私たちの暮らしに役に立つものではないが、知的好奇心をくすぐることは確か。
実際、今回JAXAで分析にあたる責任者の一人は、初号機の奇跡的な帰還や分析結果を見て、自分もぜひかかわりたいとJAXAの門戸をたたいたという。
このように今後の分析作業は若い人たちに夢を与え人材育成にもつながるものでもあるので
今年も引き続きチームの分析に注目し、あっと驚く発見を期待したい。

 (水野 倫之 解説委員)


■取材後記

はやぶさ2のミッションは極めて順調でしたが、チームメンバーは解説でも紹介した地球帰還前だけでなく、打ち上げや着陸などミッションの節目でたびたび神社を訪れミッションの成功を祈願していました。津田プロジェクトマネージャは神社で購入した「旅人が無事にカエルお守り」をかばんに携え帰還ミッションを指揮していました。津田マネージャは今、今回に続くはやぶさ3ミッションについての検討も始めているといいます。具体化すればまた解説したいと思います。

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