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平田英明「ふるさと納税の問題点とは」

法政大学 教授 平田 英明

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皆さん、ふるさと納税をされたことはありますか。おいしそうな返礼品が貰える節税の手段として活用されているご家庭も多いかと思います。ふるさと納税は、「納税」と名前がついていますが、地方を思う気持ちや地域貢献の気持ちを「寄付」という形で表すのが本来の趣旨です。そして、都市部から地方へと資金を還流させ、地方創生につなげることが期待されています。

制度開始から15年が経ち、10月からの制度厳格化も話題となりました。

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開始から数年間は、寄付額があまり伸びませんでしたが、2015年の制度変更が大きな起爆剤となりました。制度変更の1つ目は、「所得控除上限の倍増」です。例えば、総務省が示すモデルケースの場合、扶養家族が配偶者のみの年収500万円の給与所得者では、控除上限が3万から5万9千円に拡大しました。2つ目はワンストップ特例と呼ばれる手続きの簡略化です。いずれも、手続きの手間を考えても、返礼品を貰えるならば、寄付をしようという気持ちにさせ、利用者の裾野を広げる効果があったと考えられます。この結果、制度変更の前年度には389億円だった寄付額が、翌年には1652億円となり、直近では1兆円に迫っています。

このように、ふるさと納税は国民からの強い人気を集めています。しかし、大事なのは、本来の趣旨である都市部から地方への資金の環流や地方創生に資するか否かです。

私は、ふるさと納税には、3つの問題があり、それらが制度の趣旨実現を阻害していると考えています。

1つ目は、この制度が非効率な再分配を実現してしまうことです。

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ふるさと納税は、本来は地元に納めるはずの住民税の一部を別の自治体に振り向ければ、一定の要件を満たす場合、その分を地元に収める必要がなくなり、さらに返礼品ももらえるという制度です。つまり、財源を各自治体で取り合っている側面が強く、ふるさと納税が増えても、日本全体での財源が増えるわけでは基本的にありません。とどのつまり、自治体同士が多大な労力をかけてパイの奪い合いをしているだけです。都市部から地方へと住民税を分配したいならば、税の仕組みで十分に実現可能です。

さらに、典型的なふるさと納税の場合、自治体には寄付額の半分程しかお金が回らない点も、非効率的です。では、残りはどこに消えるのでしょうか。大半のふるさと納税には返礼品があり、その経費は寄付額の3割程です。更に、送料などの諸経費が2割程かかります。

第2の問題点は、2つの格差の問題です。1つ目の格差は、地方の自治体間の格差です。各種調査によると、ふるさと納税をする理由の圧倒的1位は返礼品です。返礼品は「地場産品」に限定され、特に肉類・魚介類・米といった保存のきく一次産品に人気が集中します。また、利用者は人気の返礼品や過去に頼んだ返礼品を選ぶ傾向があります。これは、官製通販サイトと揶揄されることもあるウェブサイトを通じて、寄付の手続きが行われるためです。そしてこの結果、一部自治体に寄付が集中する傾向が強まり、ふるさと納税の流入額が多い、いわば「勝ち組」の自治体の顔ぶれが固定化していくのです。逆に、人気を集める返礼品が用意できなければ、地方であってもふるさと納税の恩恵に浴することは難しくなります。

第2の格差は、「勝ち組」の地方の自治体と、「負け組」の都市部の自治体との間の格差です。ふるさと納税の流入を謳歌する「勝ち組」自治体に対し、高所得層が多い都市部自治体は、著しい住民税の流出に見舞われています。高所得者ほどふるさと納税の所得控除上限が高くなるためです。ふるさと納税は住民の自由意志で行われ、自治体には止める術はありません。ですから、都市部の自治体では、年々拡大する税収減による将来的な行政サービスの劣化が懸念されています。その結果、都市部自治体も返礼品を拡充し、ふるさと納税を取り込む方向に舵を切らざるを得ない状況になってきました。

ところで、今説明した地方と都市部における格差は、ふるさと納税の趣旨に合致しているようにも思えます。ですが、実はそうとは言いがたいのです。全国に市区町村は1700超あり、流入額は各自治体平均で5.5億円程です。

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では、こちらの図をご覧下さい。これは、ふるさと納税の流入額別にどのくらいの数の自治体が分布しているのかを示しています。もっとも右の2つの自治体は、190億円以上の流入を記録した宮崎県都城市と北海道紋別市、次いで176億円の北海道根室市と続きます。一部自治体に、ふるさと納税が局所的に流入していることが一目瞭然です。

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次に、流出額についても、各自治体平均で約5.5億円ですが、限られた数の自治体から住民税がふるさと納税として大量に流出していることが明白です。最大の流出を記録している横浜市の272億円を筆頭に、159億円の名古屋市、149億円の大阪市と都市部が並びます。以上のような極端な資金の出入りを目指して、政府はふるさと納税を導入したのでしょうか。違うと思います。

第3の問題点は、返礼品に関する経費の不透明性の問題です。寄付者の返礼品選びや支払いの簡略化の上で大きな役割を果たしてきたのが、仲介サイトを運営する民間業者です。自治体は、限られた人員の中でふるさと納税の業務を遂行していますので、仲介サイトに各種業務を委託することも少なくありません。このサイトの存在なくして、ふるさと納税の規模は、ここまでは拡大しなかったでしょう。

問題は、自治体が仲介サイトに支払う手数料です。手数料は、寄付額の10%前後とみられますが、内訳は全く開示されていません。何にどの程度の経費を要しているのか、経費が適正か、といった点が不明なのです。仲介サイトのビジネスの原資は住民税です。それ故に、高い公共性・公益性が求められ、資金の使い道がわかるようにすべきです。しかし、自治体が説明を求めても、内訳の説明は拒否されるといいます。一般に、行政が民間業者に業務委託をして、多くの無駄な経費が生じていたという事例は枚挙にいとまがありません。ふるさと納税でも同様の問題が生じていないか、継続的にチェックする仕組みが必要でしょう。そして、境遇が似た自治体同士で連携して、仲介サイトとの適正な付き合い方を模索することも有益でしょう。

最後に、政府への提言をしたいと思います。政府は、データなどの「証拠」に基づく政策立案の必要性を強調しています。ふるさと納税については、過去15年分の「証拠」が蓄積されてきました。

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検証を通じて、本来の趣旨を実現できているのかどうか、更には改善点は何かということを考えるべき時に来ています。

ちなみに、公表データを使って分析している限りにおいて、現在の仕組みのままでは、ふるさと納税の本来の趣旨の実現は困難だといわざるを得ません。制度を維持するとしても、所得控除上限の引き下げ、返礼率の引き下げ等による規模縮小が望ましいでしょう。
ふるさと納税は、その人気故に、与野党問わず、国会の議題にしにくい面があるようです。しかし、問題が山積している以上、ぜひ、国会でも議論を深めて欲しいと思います。

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