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棚村政行「共同親権を考える」

早稲田大学 教授 棚村 政行

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日本では、毎年18万から20万件の離婚があり、そのうちの約6割くらいのカップルに未成年の子がいます。少子高齢化や共働き夫婦の増加、父親による子育て参加などで、婚姻中の子育てだけでなく、離婚した後の親子関係の在り方が真剣に議論されるようになってきました。とくに、家庭裁判所でも、親権者・監護者、面会交流、養育費などの子どもめぐる事件がここ20~30年で急激に増えてきています。
今日は、離婚後の子の養育の在り方をめぐる議論の中でも、特に共同親権について考えてみたいと思います。

まず、現在の民法の離婚後の単独親権の規定の由来について、見てみましょう。
日本では、戦前の明治民法の「家」制度の下で、子は家に在る父親の単独親権に服しました。母親が親権者となるのは、父親が行方不明や、死亡したり、家を去るなどしたときに、例外的に認められたにすぎません。離婚の際に、親権者は父親となりましたが、実際上は子の世話や面倒を見るのは母親が多かったことから、監護者として母親を定めることはできました。
しかしながら、戦後の民法の改正で、家制度の下での父親の絶対的な単独親権制度は、日本国憲法の個人の尊厳と男女平等の理念(憲法24条)に反するとして、これが改められ、婚姻中は父母の共同親権制度になりました。もっとも、離婚後は父母は別々に暮らすことになるので、実際上父母が共同で子に対する親権行使をすることは困難だとの理由で、一方の単独親権となりました(民法819条1項)。当時の欧米諸国も母親が単独で親権者となることが主流でしたので、あまり問題にはなりませんでした。
 ところが、欧米先進諸国では、1970年代後半から、離婚後の母親を優先させる単独親権の原則に対する批判がはじまり、父親の権利運動も1980年代に強まってきました。そして、1990年代からは子どもの権利に着目して、離婚後の父母の共同親権・共同監護・共同養育の原則化へと向かいました。
日本でも、先ほどものべましたように、少子化、共働き、父親の育児参加などで、1980年代、1990年代から親権・監護争いが一層激しくなり、2000年代からは、離婚後の共同親権や父親の権利・面会交流を求める声も強く出てきました。近年は、子どもと会えないという別居親を中心として「親子断絶防止法案」「共同養育支援法案」という動きが強まりました。他方で、DVや暴力で困っている同居親やひとり親を支援する団体や弁護士さんを中心に、離婚後の共同親権や面会交流原則実施に強い反対も表明されるようになりました。

 共同親権推進派は、子どもは父母双方の愛情を受けて育てられるべきであり、共同親権が採用されれば、子どもも幸せになると主張しています。また、単独親権制度は子どもを片親から引き離し、いずれかを選ばせることで、かえって父母の争いを助長するのではないか。片親と子どもを会わせないとか関わらせないことは一種の虐待に近い。子どもから親を奪い喪失させることは、子どもの心を深く傷つけることなどとして、日本も、欧米諸国と同様に共同親権制を採るべきだと強く主張しています。
他方、共同親権反対派は、DV・暴力・虐待に悩む親は、共同親権や面会交流を通じて無理やり関係を続けさせられ、さらなる深刻なダメージや危険を与えることを危惧しています。共同親権になると子どもにとって重要な問題について相手方と話し合いができず、結局、子どもの問題が迅速に決められなくなってしまう。単独親権のほうが子どものための決定をしやすく、子どもも忠誠葛藤に悩まずにすむ。共同親権ができる父母は制度として定めなくても事実上すればよいなどと反論しています。

2021年3月には、法制審議会に家族法制部会が立ち上がり、離婚後の子の養育の在り方をめぐり、法改正に向けた審議がはじまりました。2022年11月には、これまでの議論を整理した中間試案がとりまとめられました。中間試案では、基本原則として、子どもの最善の利益の確保、DV・暴力への配慮、未成年の子の親の養育責任の明記、子の意思の尊重という総論的な規律が提示されました。
各論でも、養育費については大きな異論は出ませんでしたが、離婚後の共同親権の可否、子の監護(養育費、面会交流等)の合意の義務化、離婚時親ガイダンスでは、かなりの対立があり異論も多くありました。そこで、家族法制部会では、8000を超えるパブリックコメントを受けて、離婚後の共同親権・共同監護を認めるかどうか、今後の調査審議が進められているところです。日本では、どのような組合せや見直しが必要かどうか、現行法の運用でどこまでできるか、改正した場合のプラスとマイナスなどを丁寧に議論して、一定の方向が見いだせるかが焦点でした。

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 2023年4月18日に、家族法制部会は、ようやく離婚後の単独親権制度を見直し、父母が合意をできる場合には選択肢としての共同親権がとれることの大枠で合意をしました。今後の議論のポイントは、共同親権にした場合の、重要事項の範囲や決定方法、監護者の指定や責任の範囲、親権者・監護者の権限や責任などについてどのような具体的な規律を設けるべきかに移ることになります。とくに次の点に留意が必要です。

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 まず第1に、子どもにとって何が重要か、どの段階でどんなことが問題になるのか、紛争が起きた時にどう解決すべきか、父母双方を関与させる必要性と関与することでの決定の遅延など、事項ごとにメリット、デメリットを細かく分けて議論しなければなりません。とくに、重要事項、日常的事項、緊急的事項などで、単独でできる場合と共同にする場合の基準やルールが問われています。
第2に、DV・暴力・ハラスメントの問題についても、安心・安全の確保という緊急的重要度の高い問題であり最優先に扱うべきですが、そもそも、どのようなレベルでのどのような暴力・虐待に対して、誰に対する安全対策をすべきなのかが問題になってきます。
第3に、カナダ、オーストラリア、イギリスなど、海外での最近の重要な改正動向からは、離婚後の共同養育を成功させるためには、子の最善の利益の確保、基準の明確化・シンプル化、安心・安全の確保、他機関連携の強化、司法アクセス・相談支援体制の充実・強化が再確認されています。
第4に、家族法制部会での議論も、親権をめぐる法制度や法理論の検討が中心とされることはやむを得ませんが、法理論や法制度がうまく機能するために、社会的支援の充実・強化も重要です。
第5に、親権法の課題としては、親権・監護という言葉自体の見直し、適正な合意形成の確保、合意ができない場合の手当て、紛争解決のための手続の見直し、親ガイダンスや相談支援体制、考慮要素の明示など、今後は、社会の変化や家族関係の多様化などを踏まえた具体的な制度設計についてさらに議論されるものと思われます。
いずれにしても、子どもを真ん中において、あくまでも子どもの最善の利益や子どもの幸せにフォーカスした法整備と支援の強化になることを強く願ってやみません。

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