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長沼豊「中学校の部活動の新しい形」

学習院大学 教授 長沼 豊 

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今日は中学校の部活動の新しい形についてお話しします。
6月にスポーツ庁から運動部活動の地域移行に関する提言が出されました。同様に、8月には文化庁から文化部部活動の地域移行に関する提言が出されました。これによると令和5年度から、つまり来年度から3年間かけて中学校の部活動を、まず休日の部分について地域移行してほしいと言う内容です。今日は、この提言についてどのような意味を持つのか、またその課題は何かについてお話をしていきます。

まず、この部活動の地域移行についての提言の内容です。
学校の部活動を、来年度からの3年間を期間として、まずは休日の部活動を地域に移行する、そしていずれは平日の部活動も移行していく、このようなプランです。
その際、地域のクラブの運営を考えなければなりません。指導者の確保をどうするのか、活動の場所はどうするのか、地域のクラブに参加する場合に参加費はどうなるのか、などの課題があります。

では、なぜ学校の部活動を地域で行うことを考えているのでしょうか。
こには大きく2つの理由があります。

第1に少子化の影響を避けるためです。

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ご覧のグラフは、スポーツ庁の提言の資料にあるものです。今からどんどん少子化が進んでいきます。こうなりますと今のままの部の数では立ち行かなくなります。
例えば静岡県の掛川市で小学校の高学年の児童に調査したところ、進学予定の中学校には自分がしたい部活が無いと答えた子どもが26%いました。廃部によって部の数が減ってしまっているのです。小規模の学校では47%になります。
持続可能な形を考えると、学校で行うことを当たり前とせず、地域で行っていくことも視野に入れて考えていくことが必要なのです。

第2に教員の働き方改革があります。
皆さんご存知の通り、日本の教員は世界一長時間労働していると言われています。このうち、時間外労働の大きな要因となっているのは部活動ですから、待ったなしの状況です。
例えば教員の勤務時間が夕方の4時45分までと決められているのに、部活動の終了時刻が5時30分となっている学校があります。そもそも学校の部活動は教員の勤務時間に収まらない設計になっているのです。もし、教員の時間外労働を文科省が目指す、毎月45時間以下に抑えるためには、勤務時間外にはみ出ている部活動を変えるしかありません。地域で行うことは、やむを得ないわけです。

次に、部活動を地域移行するメリットは何でしょうか。

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第1に地域では生徒は継続的に活動することができます。中学校を卒業しても、高校生も活動することができる地域クラブがあれば、切れ目なく自分が好きな活動に参加することができます。また同じ指導者のもとで効果的に指導を受けることができます。
第2に教員の側から見ても、部活動で頑張りたいという先生が地域クラブで教えれば、異動に左右されない仕組みになります。今までは異動するたびに新しい学校で新しい部活動を担当することになっていました。生徒にとっても、先生が変わってしまって困ったという話をよく聞きます。地域クラブではそのような事はありません。
第3に中学校の生徒だけではなく小学生や高校生以上、つまり小さい子どもから大人、そして高齢者まで地域クラブではみんなで活動することが可能になります。そうすれば異世代交流の場として、さらには生涯スポーツや生涯学習の場にもなる仕組みになるのです。

なお、中学校の部活動をそのまま移行すると考えると、それはなかなか大変なことです。しかし新しい形として、幅広くさまざまな年代の方が一緒に活動する地域クラブを作っていくと考えると、今すでにあるクラブを少し変えるだけでできる場合もあるでしょう。
ですから私は地域移行と呼ばずに地域展開と呼んだほうがいいですよと提案しています。

ではその部活動の地域展開の課題は何でしょうか。
ここでは4つあげます。

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第1にクラブの運営についてです。その主体は学校ではなく地域の皆さんになるわけですが、NPOとして立ち上げることが良いのではないかと思います。そしてそのクラブを行政や企業等がサポートして一緒に作っていく仕組みができれば良いのではないでしょうか。
第2に受益者負担による会費はどうなるのかについてです。保護者の負担は避けて通れませんが、今までが教員のサービス残業、つまりタダ働きによって行われてきたものなので、これまでが異常だったのです。これを正常にすると考えれば仕方ありません。ただし経済的に支援が必要な家庭には自治体が支援をする仕組みが必要です。
第3に指導者の確保についてです。地域クラブには質の高い指導者を確保する必要があります。学校よりももっと活動が過酷になったというのでは困ります。そこで、引き続き部活動の指導を頑張りたいという先生方には兼業兼職で地域クラブの指導者になってもらう道を確保すべきです。提言にもそのように書かれています。
第4に大会・コンクールのあり方についてです。今までは学校の部活動だけに参加する資格があった大会やコンクールを、地域クラブにも門戸を開いていく必要があります。また内容も、スポーツではトーナメント方式だけではなくて、リーグ形式や交流が主目的のものなど、様々なニーズの生徒が大会やコンクールで活躍をする場を用意する必要があります。
地域クラブも、大会・コンクールで上位を狙うものから、楽しむものなど、目的別に作るとよいわけです。

地域展開がすぐには難しいという地域もあると思います。そのような地域ではまずは次のような方法を考えたらどうでしょうか。

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1つは合同部活動です。これは今でも人口が少ない地域では行われ始めているもので、隣同士の学校が一緒に行うものです。
もう一つは拠点校方式と呼ばれるものです。自治体全体で考えて、例えばバスケットボールをしたい生徒はA中学で、バレーボールをしたい生徒はB中学で、サッカーをしたい生徒はC中学でと活動する拠点を決めて、行うわけです。そうすれば担当する教員の数も減らすことができますし、生徒数の減少によって廃部にならなくて済みます。
このように工夫をしている数年のあいだに、地域では地域クラブを立ち上げて、受け入れの仕組みを作っておくのです。

さて、私が考える、新しい部活動の形は、やりたい生徒とやりたい先生はできる、しかしやりたくない生徒と先生はやらなくてもよい、という仕組みです。
それを学校外で行っていきます。
さらに言えば、休日だけ地域で活動するのはいかにも中途半端です。例えば平日の部活動の指導をする教員と、休日の地域クラブの指導者の指導内容や方法が極端に違っていたら生徒は困ってしまうのではないでしょうか。
ですから休日を移行したら、その後できるだけ早く平日も移行していく必要があります。

以上のような部活動の地域展開を進めていくためには、学校や教育委員会だけでは難しい面があります。そこで自治体全体として、まちづくりとして、子どもたちのスポーツや文化活動を活性化し盛り上げていく、そのような観点に立って自治体ぐるみで、部活動の地域展開を進めていく必要があるのです。

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