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多田栄介「核融合とITER計画」

ITER 機構長 多田栄介

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本日は人類の夢のエネルギー核融合エネルギーとは何か、その実現へ向けた国際協力の最前線であるITER計画と最新状況、そしてその先の日本の未来についてお話します。

【核融合エネルギー紹介と意義】
 
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核融合エネルギーとは、宇宙の太陽など恒星で起きている「異なる原子核同士が融合する時に発生するエネルギー」です。太陽では、水素原子核同士が融合し、数十億年もの間、莫大なエネルギーを生み出しています。私達が地球で暮らす上で使うエネルギーもルーツは太陽の核融合反応にたどりつくと言えます。

石油等の化石燃料は太陽エネルギーにて生命活動を行ってきた古来の動植物の化石が元になっており、自然再生エネルギーも太陽の核融合エネルギーがルーツになります。
既存の原子力発電所は、核分裂反応エネルギーを用いたものですが、それと比べると核融合エネルギーは、燃料が偏在することなくほぼ無限に存在する、CO2等の温室ガスを排出しない、連鎖反応が起きないなどの高い固有の安全性を備えている、高レベル放射性廃棄物をださない、持続して安定したエネルギーを供給できる、という特徴を備えています。
長期的に見れば、人類が核融合エネルギーを手に入れるとは、すなわちほぼ無制限に利用できる究極のエネルギー源を手に入れることとなり、人類史上最大の転換点と言えます。
将来的に地球温暖化問題を解決し、化石燃料のような保有/埋蔵の地域差に基づく紛争等を無くし、電力コストを安定化し、またその二次効果として食料や水などの各種諸問題をも解決可能です。そうした夢のエネルギーである核融合を地球上で人類の力で実現しようと、世界各国の科学者やエンジニア達がこれまで長年に渡って研究開発を行ってきました。

【ITER計画の生い立ちとミッション】 
これまでアメリカ、ソ連、欧州そして日本といった核融合先進国をはじめ各国は核融合研究開発を競って進めてきました。
冷戦の終わりにあたり、1985年アメリカのレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長がジュネーブで会談し「これからは人類の平和と発展のため、共通で一つの核融合をめざそう」という合意がなされました。
これがITER(国際熱核融合実験炉)のはじまりです。

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以後、世界各国の科学者・技術者からなる国際チームが概念設計、工学設計を実施し、2005年南フランスに建設が決定、2006年にITER協定に調印、2007年にITER機構が発足し、中国、インド、韓国を招き入れ、世界7極35カ国による建設活動を開始しました。
核融合の実現には様々な方式が物理科学的には存在します。

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私達ITER機構は長年の世界各国の研究者の成果と合意の元でトカマク型と呼ばれる最も核融合エネルギーの実現の可能性の高い磁場閉じ込め方式を通じて、実規模大のプラントにおいて核融合反応によるエネルギー増倍率10以上の実証を目標としています。
実は我々は「核融合エネルギー」そのものはすでに実現しています。しかし、エネルギー増倍率と言われる、入力エネルギーと出力エネルギーの比率は1をわずかに超えたに止まっており、ITERにおいてはじめて将来の発電プラントを睨んで増倍率10以上の達成を目指しています。ITERは高温のプラズマを超伝導コイル、ようするに電磁石の磁場で封じ込めて核融合反応を起こさせる装置で、大きさは縦横高さおよそ30m、総重量およそ23000トンというこれまでの人類の科学技術工業力を駆使した最大のマシンになります。

【ITER計画の最新進捗】 
ITER建設サイトは長さ1キロ、幅400メートルほどの広さです。

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写真中央に「トカマク複合建屋」と呼ばれる建物があります。ここにITERが組立設置され、「地上の太陽」が昇ることになります。ITERは、参加各極がそれぞれの自国の研究開発の成果を産業界の協力を得て、与えられた担当部分を製作し持ち込むという分担貢献を基本としています。日本はその中でも、コアとなる超伝導コイルなどの最重要部品を複数担当しており、我が国の産業界と研究所が合同でこのチャレンジングな設計と製造を行っております。本体だけに限らず、それを運転するために必要な電源設備、冷凍系施設及び熱除去施設は写真に示しますように既に据付を終了し、順次試運転を進めています。
私たちはコロナ禍という想定外の事態による世界的な物流の停止、各地での工場閉鎖、建設作業効率の低下などの事態に対応しながら、初期稼働に必要なおよそ77%まで建設が進んでいます。 

2020年夏の組立開始式典では世界7極の首脳陣がリモートで祝辞を寄せ、ITERの組立開始を祝いました。国際的には、様々な政治体制、考えの違い、経済・エネルギー問題等で必ずしも意見の一致しないこともある各国ですが、このITER計画に関しては、そのプロジェクトの開始以来「人類共通の夢、核融合エネルギーを実証する」という旗の元、ロシアも、欧州も、アメリカも中国も 一貫して協力して進めてきています。

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今年に入り、ITER組立においてとても重要な作業を達成しました。ひとつ40度分の角度の真空容器と、ふたつの超電導コイルを組み合わせた合計1400トンにもなる巨大なセクターモジュールの最初のひとつが完成し、その据え付けに成功しました。私たちは、この高さおよそ20メートル、重さでジャンボジェット機3機分相当にもなる巨大なセクターモジュールを、ミリメートル単位の精度で予定通り据え付けることに成功し、大きな技術的課題を乗り越えました。この先、残りの8個のセクターモジュールを組立て、順次設置することで、ドーナツ型のプラズマを発生させるITERのコアを完成する予定です。
そして、初期稼働を経た後に段階的に性能を拡張し、2035年の終わりに、本格的な核融合運転を行う予定です。

【将来へ向けて(日本の原型炉へ)】 
地球上最大の超大型国際プロジェクトITER。
私達ITER機構は、この人類の夢、地上の太陽の実現を目指し、日夜世界各国のチームメンバと共に建設を進めています。ITERは「実験炉」という位置付けであり、その先に参加各極で計画している「原型炉」と呼ばれる発電を実証する核融合プラントの建設に繋げる役割を担っています。
我が国は、世界でも有数の核融合先進国であり技術的には最も原型炉に近い国と言えます。核融合を自国で実現することにより、資源小国であるが為の国家安全保障上の問題を解決できるでしょう。またアジア太平洋地域に対して「核融合エネルギーの提供能力」を有することにより、結果として地域の安定と平和に強く貢献することが可能となります
さらに経済安全保障の観点でも、我が国固有の核融合の基幹産業、企業、先進技術等を堅持することにより、他国への経済依存が減少し、経済的自律性を確保することが出来ます。
加えて核融合技術群の進歩によるイノベーションの促進、結果としての新産業の育成、関連産業の高度化により、これまで日本経済を支えてきた電気・自動車につぐ新たな競争力のある国家産業が創出され、これにより雇用も拡大し、結果として豊かな国民生活をもたらすと期待されます。
我が国においては、このような大局的な視点から、将来に渡る安定したエネルギー源としての核融合を如何に実現するか、ビジョンと戦略の議論を進め、早期実現のために国家レベルで取り組むことが求められています。

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