柴田久美子「尊厳ある最期を看取る」
2022年07月11日 (月)
日本看取り士会 会長 柴田 久美子
多くの方々が旅立つ多死社会に突入した日本。
2021年の日本の死者数は約145万人、出生数81万人の約1.8倍となりました。
2025年には毎年の死者数が150万人を超え2042年には約170万人に達するとの予測がございます。
団塊世代がすべて後期高齢者入りする2025年になると、死に直面する人が急増します。
この2025年問題の大きさを東京大学の上野千鶴子先生から知らされた私は、終末期ケアで新たな価値を提供する「日本看取り士会」を2012年に設立。「看取り士」と名乗り、「看取り学」を創設しました。現在は1900人以上の看取り士が全国にいます。
「家で死にたい」
この願いを叶えるのが看取り士の仕事です。
余命告知を受けられてから納骨まで、人生の最後に寄り添い、見送りを支えるのが看取り士の仕事です。コロナ禍で面会制限の厳しい病院や施設。最期の時間を家族でともに過ごしたいと思うのは当たり前のことです。その願いに答えるために看取り士がいます。
かかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャーや訪問介護員、介護保険や医療保険上の制度をフルに使い、無償ボランティアエンゼルチームが寄り添います。
看取り士の仕事は
1、相談業務
「面会制限のある病院や施設ではなく、家族と一緒にいられる家に帰りたい」「20年会っていない長男に会いたい」「お墓を準備したい」など相談は多岐にわたります。
2、臨終時の立ち会い
臨終の前には家族が見ているのも辛いほどに呼吸が乱れてくる場合があります。
救急車を呼ぶ家族が多いのもこの時です。看取り士が呼吸を合わせることによって穏やかな呼吸に変わります。
3、膝枕による看取りの作法を家族にお伝えする
仮に臨終に間に合わなかったご家族がいたとしても、看取りの作法をお伝えして温かいところに触れていただき「間に合ってよかったですね」と伝えることによって、最期の瞬間に間に合わず悔やむこと、いわゆる臨終コンプレックスをなくします。
看取り士の資格者の内6割は看護師、2割は介護士です。国家資格を持たない方々には90時間の無償ボランティアエンゼルチームとしての活動の後、看取り士派遣の現場に携わっていただいています。
看取り士の使命は生前から納骨までを望ましい形で実現することです。
看取り士を活用するメリットは、
1、喪失といった家族の悲嘆を軽減する
2、前向きな死生観を持てること
この2点です。
私が看取りの活動を始めてから30年余り、「看取り士」と名乗るようになって10年が経ちました。
私は、せめて人生の最期にあって、尊厳ある最期が守られる社会こそが豊かな社会と信じています。
看取りをしたいと、まず、有料老人ホームに働いた私は、人の最期に関しては、今の医療の仕組み、社会の価値観も含めて、決してご本人の意向通りにはならないのだという現実を思い知らされました。
その後、在宅死亡率75%の、病院のない離島に移り住み、看取りまで行う看取りの家を開設しました。
私は尊敬するマザーテレサのように、孤独に逝く人達に人生の最期の瞬間を幸せに過ごしてもらいたいと考えました。
私自身はクリスチャンではありませんが、敬愛するマザーテレサはこうおっしゃいました。「人生のたとえ99%が不幸だとしても、最期の1%が幸せならば、その人の人生は幸せなものに変わる」と。
私は14年の歳月をこの島で過ごし、本人の尊厳のままに抱きしめて看取る実践を積み重ねました。
看取り士の死生観は次の通りです。
人は生まれた時、3つのものを頂いてきます。見える身体、良い心、そして魂の3つです。身体が死という変化を起こした時、魂に積み重ねられたエネルギーは、傍らにいる縁ある人に渡されます。
瀬戸内寂聴さんはこれを、「人は旅立つ時25メートルプール529杯分の水を瞬時に沸騰させるだけのエネルギーを傍らにいる人に渡す」と言っています。
私が4年前にガン告知を受け、このまま自分の命が果てるとしたら、私たちの活動が終わってしまうと考えました。そして、病をおして、私が関わった自宅死を映画として残すことを決意いたしました。
尊厳のある最期、自宅死の選べる社会を創るために制作した映画「みとりし」を一人でも多くの方々にご覧頂き、自宅死をイメージして頂きたく思います。
コロナ禍で面会制限の病院・施設から「家に帰りたい」と望まれる方々の願いをかなえることができることをお伝えしたいです。
懸命に生きた人生の最期。誰もがよい人生だったと旅立てる社会であってほしい。
日本看取り士会の理念、全ての人が最期、愛されていると感じて旅立てる社会を創るために貢献しますと唱えながら、これからも活動をしてまいります。