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子どもの便秘を正しく知る

小児外科医 中野 美和子 

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子どもの便秘をご存じでしょうか。
私は子ども専門の外科医で、排便についての専門外来を今も続けています。
今日私が言いたいことは、大きく二つです。

一つは、多くの子どもが便秘で苦しんでいて、そのことをまわりが意外と気付いていないこと。
もう一つは、子どものうちから自分の身体のことを、もう少し知ってほしい、ということ、心身の異常について身体が発するサインのひとつが排便の変化なのです。 

子どもが便秘で苦しんでいる時、養育者、親御さんがそれに気づいた時、どうするでしょうか。
たいていのかたは、便秘に気付いても、そのうち良くなるだろうと様子をみています。食事に気をつけるかたもいるでしょう。
私は便秘のこどもを2千例以上見てきました。専門外来ですから、普通の小児科では解決できずに受診されるかたが殆どです。

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どういうことに困って来院されるのかというと、赤ちゃんから4~5歳ぐらいの幼児までの場合は、便が何日も、へたをすると1週間も10日も出ない、というだけでなく、排便がとても苦しい、苦しすぎて排便できない、そして、排便するのを嫌がる、便意をガマンする、そのため排便までに時間がかかる、ひどいと数日かかる、という訴えが多いのです。
便が溜まり過ぎて、腹痛を起こす子もいます。救急外来を受診するお子さんで、急な腹痛の原因で最も多いのは便秘、という医療機関は多いのです。また、便が溜まり過ぎて、漏れてしまう、いわゆる便失禁、下着が便で汚れるというお子さん、遺糞症と診断されるもののほとんどは便秘が原因です。小学生以上になりますと、排便困難症状は表面に出なくなり、腹痛、便の漏れで来院される方が増えます。
便秘が続くと、子どもは不機嫌になり、集中力が低下し、遊べなくなることも多いのです。学齢期になると、学業に集中できなくなり、腹痛、失禁なども相まって通学できなくなることもあります。

こうなって困っている親に対し、まわりのかたは、便が出せないなら出すように頑張らせよ、というのです。食欲が低下しているのに、食事内容を指導されることも多いのです。残念ながら、そういうアドバイスは現実的ではありません。
子どもの便秘は、おとなと同じ対処では良くならないことが多いのです。
子どもでは、大人と異なり、肛門のすぐ上の直腸までは便が降りてくるのですが、そこに溜まりっぱなしになり、直腸の感受性が鈍くなるタイプがほとんどです。
ですから食事調整、すなわち便量を増加させる治療は必ずしも効果がない、むしろ悪化することさえあります。排便できなくて苦しんでいる場合は、まず溜まっている便の塊を出し、直腸を減圧し良い状態を作り、それを維持し続けると、直腸の感受性が徐々に戻り、成長と相まってよくなっていきます。
そのことを適切に判断し、投薬などを使いながら、楽な排便を維持し、そのうえで、食事を含めた生活習慣の指導をすることが必要です。しかし、いまだに便秘はそのうちよくなる、薬に頼るのはよくない、というアドバイスで済ませているかたが、小児科医にすら少なくありません。また、治療で少しよくなると、治療を止めてしまい、再発することも多いのです。
苦しんでいる子どもはもちろん、親もどうしてよいかわからずに混乱し、迷います。あまりにもたいへんで、来院されたときに地獄のような毎日でした、と言っていた母親もいました。

そんなに苦しむような便秘は、めったにはないだろうとお思いでしょうか。
厚生労働省の国民生活基礎調査では、9歳以下の便秘の有訴率は、男女とも1%以下です。
しかし、たとえ毎日出ていても、排便が苦しければそれも便秘です。

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日本トイレ研究所が慢性機能性便秘症の国際基準を用いて、全国の小学生およそ5千名にWeb調査を行いました。その結果、診断基準にあてはまる便秘状態はおよそ2割でした。この2割の子どもの親の32%は、便秘とは認識していなかったのです。
また、昨年11月、高校生1000人に対して行ったWeb上のアンケート調査では、前述の国際的診断基準にあてはまる便秘状態は20.2%でした。このアンケートにはコロナ禍というバイアスがかかっている可能性があります。
こうしてみると、診断基準にあてはまる便秘症は、厚労省調査での有訴率よりも、はるかに多く、2割ぐらいはいそうだという現実が浮かび上がってきます。更に問題なのは、この子どもたちが、自分でも便秘症を自覚しているとは限らない、親も同様ですから、自覚しても親に言えない、親に相談しても医療まで結びつかない、ということです。

どうすれば、こどもたちが便秘で、苦しんでいるのかどうか、わかるでしょうか。
まず、子どもに便秘が、それも治療した方がよいレベルのあるのだという事実を知ってください。
そして、自分の子どもが便秘かどうかを、たまに、チェックしてください。
オムツがはずれた後も、排便の状態を、それとなく見てください。
見張るのではありません。便意が出てすぐにトイレに行っているか、毎日でなくても週に3日ぐらいは出ていそうか、トイレに入っている時間が長過ぎないか、オナラが臭過ぎないか。トイレが詰まりそうなすごく立派な便ではないか。
忙しくてとてもチェックできないというのなら、年に1~2回、1週間ぐらい排便日誌を付けてみるのはどうでしょうか。便秘症でないお子さんでも、時には、そうやって、身体のことをチェックしてみる、そして親子でからだのことを話す、というのはいいことだと思うのです。
もし、排便日誌をつけてみて、お子さんと排便の話をしてみて、実はお子さんが排便で苦労していることがわかったなら、医療機関を受診するという選択があります。本人が苦しくない、あまり自覚がない、しかし、日誌では便秘症が疑われる、というのなら、まず、生活を見直してみましょう。

まず第1は、毎日排便を促す、ことです。朝食後か、夕食後がよいでしょう。
子どもの場合、先ほど申しましたように、肛門のすぐそばに便を溜めていることが多いので、排便するようトイレに行かせると、便意がなくても排便できることが意外にあるのです。トイレに座る時間は短くて良い、出なかったら、3分ぐらいで切り上げる。すぐに出ることもあれば、最初うまくいかなくて、毎日続けていると出るようになることもあります。

それから、生活習慣の見直しです。早寝早起きの習慣づけ、良い睡眠は排便にもとても重要です。学校に行っても行かなくても、食事を含めた規則正しい生活が大事です。単品ではない、よい朝食を取ること。適切な運動量も必要でしょう。
便秘になりやすいタイプの子がいます。なりやすさの程度もいろいろです。便秘になりやすいかたの殆どが、成長すると排便機能も成長し、よくなっていきます。どの時点でよくなるのかも、さまざまです。成長でよくなるのですが、大腸の状態が悪いままでは、成長で良くなるべき時に良くなることができません。便秘症がおとなまで持ち越す可能性が大きい。
腸、そして腸内フローラが健康にとって重要であるというデータが近年どんどん出てきています。どのこどもも、良い腸、よい身体で長い人生を、たくましく生きて行ってほしいと願っています。

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