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「コロナ禍でのドライアイに注意」(視点・論点)

東邦大学 教授 堀 裕一

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世界的なCOVID-19のパンデミックで我々の生活様式が大きく変わったことは皆様ご承知の通りですが、このコロナによる生活様式の変化は、眼に対しても大きな影響を与えました。本日は、その一つであるドライアイのお話をしたいと思います。

人間の五感で得られる情報の8割は眼から入ると言われていますが、この情報の入り口は、「角膜」と呼ばれる組織になります。角膜は、光を屈折させてレンズの役割をしています。いわゆる「くろめ」と呼ばれている部分です。

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この角膜ですが、表面は多数の生きた細胞で覆われており、角膜上皮細胞と呼ばれています。この角膜上皮細胞は常に涙の層で覆われて保護されています。涙の層は3層に分かれていて、油層、水層、ムチン層となっています。

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しかしながら、何らかの原因で、この角膜を覆っている涙の量や質が低下すると、角膜が乾いてこのように細胞が傷ついてしまう状態になります。これがドライアイです。
ドライアイの方というのは、わが国には1500万人程度おられます。

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ドライアイでは、目が乾くといった症状の他に、目がごろごろする、目が疲れる、ぼやけるといった様々な症状を自覚します。とくに午後や夕方から症状が顕著になるといわれています。ドライアイは、女性に多く、アジア人はドライアイの発症率が高い人種とされています。また、コンタクトレンズを着けることは目が乾きやすくなりますし、コンピューターやタブレット、スマートフォンなどのディスプレイを長時間見続けることも、ドライアイのリスクを上げます。もともとドライアイというのは、加齢によって涙腺からのなみだの分泌の力が落ちたご高齢の方におこる眼の病気だったのですが、現代社会では、コンタクトレンズユーザーの増加や、ディスプレイを見る時間が増えて、特に若い方のドライアイが増えています。
実はCOVID-19のパンデミックで、世界中でドライアイの症状を訴える患者さんが増えていることがわかりました。

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その理由として、1)リモートワークなどのためにパソコンやタブレットなどのモニターを見ている時間が増えたこと、2)マスクを着用する時間が非常に長くなったこと、3)精神的なストレスが増えたこと、の3つが挙げられています。
コロナ時代になって、リモートワークやオンラインでの会議、インターネットでの動画の視聴、スマートフォンの使用時間が増加しました。モニターやディスプレイを集中してみていると、まばたきの回数が極端に減少します。人間は、通常、1分間に15~20回程度まばたきをしています。我々は、まぶたを一回閉じて開く時に角膜の表面になみだを塗りつけて角膜を潤わせます。まばたきをすることはドライアイにならずに角膜を守るためにとても重要です。しかしながら、ディスプレイを集中してみていると、まばたきの回数が3分の1から4分の1に減少し、知らないうちに眼が乾いてドライアイの状態になります。それがさらに続くと角膜にキズを作ってしまいます。コロナ前からコンピューター作業の多いオフィスワーカーのドライアイが問題になっていましたが、コロナでさらに加速してしまいました。これがコロナ禍でドライアイが増えた一つ目の理由です。

2番目の理由として、マスクを着用することによる目の乾きが挙げられます。
これは「マスクドライアイ」とも呼ばれ、世界中で問題になっています。マスクの上の方の鼻にあたる部分は、どうしても隙間ができてしまいます。この隙間から漏れた息が風となって眼の表面に吹き付けられます。

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この写真は微粒子可視化システムで、吐く息の流れを可視化したものですが、マスクを着けないときは吐く息がそのまま前に出ていきますが、マスクを着用すると上の隙間から息が漏れ、眼に直接あたっていることが分かります。この風によって角膜の表面の涙液が蒸発してドライアイが生じます。
コロナによって、世界中の人が一日中マスクを着用するようになりました。日本では、以前から、インフルエンザや花粉症の時期になると予防としてマスクをつける習慣がありましたが、欧米の方々は、今までマスクなど付けたことなどが無い方が多く、海外から驚きをもってマスクドライアイの報告が多数されました。ヨーロッパの研究で、約18%の方がマスク着用でドライアイ症状が悪化したと報告されています。日本の調査でも同様の割合でマスクドライアイが生じていることがわかりました。マスク着用は、これからも続けていかないといけません。マスク着用を続けながら、眼を守っていくことが重要であると思います。

コロナ禍におけるドライアイの増加の理由の三番目は、精神的なストレスです。
先の見えないパンデミックが長期に続いたことで、多くの方々が精神的にダメージを受けました。不安やストレスの持続で自律神経のバランスが乱れてドライアイが悪化すると考えられています。以前から睡眠不足や、精神的なストレス、うつ状態というのはドライアイを悪化させると言われています。これは涙を分泌する涙腺、特に水分の分泌が副交感神経支配を受けており、ストレスや緊張状態で交感神経の興奮が強くなると、涙腺からの涙の分泌が減ることが原因です。
このように、コロナ禍では、ディスプレイを長時間みること、マスクの長時間の着用、精神的なストレス、によってドライアイが強くなり、目にとって良くない状況になっています。それでは、私たちはドライアイに対してどのように対応していけばよいでしょうか。
コロナ禍におけるドライアイから眼を守るコツとして次の方法が考えられます。

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一つ目は、ディスプレイを見ている時の工夫です。具体的には、まばたきを意識しておこなうこと、エアコンや空調の風が直接目に当たらないようにすること、加湿器を使うこと、長時間見ることが続いたら眼を休めること、また視線を上向けにすると目が大きく開いて涙の蒸発が増えてしまいますので、パソコン作業時は、視線を下向きにするのが良いと思います。入浴やストレッチなどでリラックスして涙が出やすくするのも良いです。また、点眼薬を上手く使うことも重要です。まずは薬局で買えるドライアイ用の市販薬を使われると良いと思います。その際、大切なことは、薬の添付文章に記載してある用法・用量を守ることです。目薬のさしすぎは逆に角膜にキズを付けることもあるので注意をしてください。また、市販薬をいくら使ってもドライアイ症状が変わらない場合は、是非眼科を受診してください。

本日は、コロナ禍におけるドライアイについてのお話をさせていただきました。皆さん一人一人が眼を守る意識を持っていただき、コロナ禍でも快適な見え方を維持していただければ大変うれしく思います。ありがとうございました。

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