NHK 解説委員室

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「DMAT 新型コロナに立ち向かう」(視点・論点)

DMAT事務局次長 近藤 久禎

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 皆さん。DMATという組織をご存じでしょうか?災害時、医療支援を行う為に、国、都道府県が、病院に依頼し、被災地に派遣する医療チーム、災害派遣医療チームの事です。阪神淡路大震災からの課題を基に、中越地震をきっかけに組織されました。
 東日本大震災では全国から383隊、1852人を派遣しました。その後も、熊本地震、西日本豪雨、近年の水害などに対応しています。その中で、新型コロナウイルス感染症にも対応しています。

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 DMATというと災害現場に出かけて、救急医療活動をするチームというイメージがあるかもしれません。しかし、実際の仕事は、まず、都道府県、災害拠点病院に本部を設置し、医療機関等の被害状況を集約します。そのあとは、被害がありそうな医療機関、社会福祉施設等を訪問し、困りごと、ニーズを正確に聞き取ります。そして、インフラ・物資が課題であれば、物資支援調整、患者後方搬送が課題であれば搬送支援、診療人員不足が課題であれば診療支援を行います。つまり、まず、災害医療体制を確立し、そのあと、被災医療機関・施設支援を行うわけです。

このような言葉があります。

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私は、飾り石のような華やかな人間となるより裏石のように目立たずとも人々を支える人間になることを望みます。

これは、赤十字救護看護婦・竹田ハツメさんが第一次世界大戦の際、被災地支援に行く船の中で日記に書いた言葉だそうです。我々DMATもこの言葉を胸に、被災地に向かいます。
我々が、新型コロナ対応に携わるきっかけとなったイベントの一つがダイヤモンドプリンセス号の対応です。当初、厚労省から支援要請が来た際に思い出したのが福島原発事故の際の病院避難です。当時、原子力災害の医療対応は文部科学省が所管であったこと、その為、対応のための教育を行っていなかったこともあり、DMATは対応しないという決断をせざるを得ませんでした。
その結果、防ぎえる死亡、悲劇が起こってしまいました。今回も同じようなことが起きる懸念がありました。
我々が、乗り込んだ当初の状況は、1日60名の方から、熱が出た、医師に診て欲しいとの訴えがありましたが、実際に医師が見られるのに3日もかかるという状態でした。また、薬が必要な人が2000人、そのうち1500人は命にかかわる可能性のある薬でしたが、それが届かないという状態でした。

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そこで、我々は検疫に必要な業務を一旦停止しても、症状のある方への診療、処方の処理を集中的に行うこととしました。また、多くのDMATも初期に派遣しました。その結果、症状のある方、リスクの高い方の診療、処方を11日までに終えることができ、緊急的な対応を完遂することができました。DMAT472名を動員したオペレーションでしたが、乗客も死亡率は、平均年齢を考慮すると決して高くなく、また、当初、最も懸念しておりました関連死亡を0に抑えることができました。その後、感染が全国に波及するとともに、我々も厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部地域支援班DMATとして、活動することとなりました。支援した施設は、医療機関79、社会福祉施設244を含む、326施設です。
クラスター施設支援の初期活動で大きな支援となったのが、北海道介護老人保健施設クラスターです。我々が、支援の要請を受けた当初、感染がどんどん拡大する中、行政からは、患者は施設内にとどめ観察を継続するよう指示があり、その一方で、人的支援・物資支援が十分に行われない、そのような中で、施設内で亡くなる入所者の方が続発する状況でした。最終的に、入居者96名中71名が感染、16名が死亡する事態になってしまいました。看護・介護職員が、感染等の理由で、平時44名から15名に減少する中、十分な看護、介護ができない状況でした。

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そこで、我々は、まず、状況を整理し、どれぐらいの人員で、患者の観察ができるのか整理し、それを、対応者全員に周知しました。その結果、人的支援、患者搬送が始まり、解決への糸口を見つけることができました。
この施設に必要な支援は、感染管理だけではない、情報を整理、評価し、需給バランスを評価して支援方針を決定、実施する支援でした。これこそが、我々が一般災害で行っている活動そのものです。

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このような経験から、クラスターの発生した病院施設で亡くなる方も、新型コロナによる典型的な死亡だけではなく、新型コロナへの恐怖、混乱、これがシステム崩壊につながり、平常の医療、介護が提供できないことによる死亡、また、職員の減少に伴う、需給バランスの崩壊による医療・介護ケアの質の低下による死亡、更に、新型コロナによる典型的な死亡と表面上、見分けがつきにくいですが、入院、入所当初から状態が悪く、もう一つ何かのイベントが起きれば、最期の時を迎える可能性が高いというような説明を受けていた方の、そのイベントがたまたまコロナだったというケース、最期の一滴死亡、というケースまであります。

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このような死亡、悲劇を低減するため、クラスター発生病院・施設支援共通の対応として、このような項目の整理、支援が必要だということがわかりました。この中でも、この災害で最も特徴的なことが、職員ケアの支援です。職員ケアというと、すぐ心のケアだと思われるかもしれません。しかし、現実に一番優先順位の高いことは、働く環境の整備です。職場での休憩室が十分設けられず、また、家に帰れず、車中泊を続けているようなケースも見られます。まずはこの改善が必要です。
また、スタッフは施設内外からの差別の目、いつまでも抜け出せない暗闇のような感覚に襲われていることが多いのです。我々は、職員の一体感を構築するための支援、また、達成事項を整理し、出口の明示、共有するそのための支援をしています。クラスターの起きた病院・施設の方々は、感染を起こしてしまったという罪悪感の中、平常の何倍の業務に向かっておられます。我々は、まず、皆さんは悪くない、今回の感染拡大は災害と一緒である、だから、DMATが支援にきているんだと説明します。そして、この困難を乗り越えるためにみんなで考えていきましょう、我々も、一緒に考えていきますと申し上げます。

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我々の活動から、クラスターの起きた病院・施設を支援することで、1/4 ~1/2の死亡を低減できる可能性があること、受入医療機関の負荷を1/2以上低減できる可能性があることがわかりました。また、DMATにとっては、防ぎえる死亡、悲劇の低減、施設を支える、将にDMATの目的にかなった活動と言えます。

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新型コロナにおいては、クラスターの悲劇、また、医療崩壊の危険性が叫ばれます。なぜこのような事態が起こるのでしょうか?新型コロナへの恐怖、それによる混乱、更に差別、このサイクルが回り続けることが大きな要因だと考えられます。このサイクルを回すきっかけは、医療者が対応医療者を差別すること、これは医療者全体が差別を受けることにつながります。このような差別・風評被害への恐れが、新型コロナ患者、寛解者の診療拒否を起こし、医療の偏在拡大、診察可能病床逼迫につながっているのではないでしょうか。このトンネルを抜けられるかは、この病気をどれだけ普通の病気にできるかにかかっています。
その為には、電話診療、外来診療、寛解者の受入、最終的には陽性患者の受入、これらについて、全ての医療者が貢献するための条件を整理することが必要ではないでしょうか。このことが、対応する医療者・機関の偏在の是正、しいては、コロナ災害の出口につながるものです。
今後も、自然災害、感染症の脅威は続きます。我々は、DMATとして、医療崩壊時の被害の低減のため、最善を尽くしていきます。

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