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「ジェンダー平等をどう実現するか」(視点・論点)

関西学院大学 客員教授 大崎 麻子

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ジェンダー平等とは、男性と女性が平等に権利と機会を享受し、責任を分かちあえる状態、意思決定に対等に参画できる状態を指します。これは、国連憲章、そして、憲法で謳われる普遍的な価値です。近年では、SDGs(持続可能な開発目標)が強調するように、ジェンダー平等は、持続可能な社会・経済の必須要件であるという考え方が国際社会に定着しました。現在、世界各地で、政府や民間企業が、女性に対する差別や暴力の根絶、固定的性別役割分業の解消に向けた取り組みを加速しています。
一方、日本は、世界各国の男女間の格差を測る「ジェンダーギャップ指数」で、世界156カ国中120位となっており、その解消が喫緊の課題です。
今日は、自治体の先進事例として、人口約8万人の地方都市、兵庫県豊岡市のジェンダーギャップ解消に向けた取組みを紹介いたします。

人口減少に対する危機意識

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豊岡市は今年3月、「ジェンダーギャップ 解消戦略」を策定しました。ありたい未来として、「固定的な性別役割分担を前提とした仕組みや慣習が見直され、お互いを尊重し、支えあいながら生き生きと暮らしている姿」を掲げ、「職場、家庭、地域、学校など、まち全体で取り組む」と謳っています。

「男女が共に働きやすく、働きがいのある職場への変革」を目指すワークイノベーション推進会議は、市役所と民間企業で構成され、経営者や管理職の研修、マネジメントの優良事例の共有を継続的に行っています。参加事業所の数はスタート時の16から、現在、58まで増えました。労働力不足が深刻化する中、魅力のある職場作りは、人材の獲得や定着率・生産性の向上につながり、経営にプラスにも働くという認識が広がっているようです。
また、地域コミュニティは、「高齢化が進み、地域活動の担い手が減っている」という悩みを抱えてきました。

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市内すべての地域コミュニティの会長を対象にした研修会、地域住民の意見交換会では、ジェンダーについて一緒に学び、考え、議論していますが、それ自体が、誰もが参加しやすい地域活動のあり方の模索にも繋がっています。

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市民向けには、「マンガで考えよう!ジェンダーギャップ」を制作。日常生活に潜むジェンダー・バイアスに気づき、周囲の人たちとの会話のきっかけになっているそうです。また、現在、市民を対象に調査を行い、家事・育児、地域活動、仕事などに費やす生活時間が男女でどのように違うかの実態把握を進めています。データに基づいて、実状に合った施策を策定し、きちんと効果測定をする、というサイクルを作る上で、重要な取り組みだと思います。

人口減少への危機意識 〜女性の流出が止まらない〜
そもそも、豊岡市がジェンダーギャップに注目したのは、2017年のことでした。
当時の市長、中貝宗治さんが、国勢調査から算出された若者回復率の男女別データに注目したのです。

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これは、10代で豊岡市から転出した人に対して、20代で転入した人の数を比べています。男女合計で見ると緩やかに上昇していますが、男女差があり、若い女性が豊岡市から流出し、戻ってこない、移住してこないことがわかりました。その背景には、収入、雇用形態、管理職比率でのジェンダーギャップを生み出し続けた「男性中心社会」があるという仮説を立て、取り組みが始まりました。

まずは、職場から 〜ワークイノベーション戦略〜
中貝さんは、まずは、市役所内で管理職に女性を登用していこうと考えましたが、女性たちからは、戸惑いの声も上がったと言います。

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調べると、同じ勤続年数でも男性が多様な職務を経験しているのに対し、女性は庶務や窓口しか経験していないことがわかりました。「男性は基幹業務、女性は補助業務」という性別役割分業が固定化し、女性のキャリア形成の機会が欠けていたのです。
そこで、2018年に「豊岡市ワークイノベーション推進会議」を設置し、職場でのジェンダー平等の推進に着手します。女性管理職の育成や男性の育休取得推進にも意欲的に取り組みますが、やはり、個人の意識、家庭、社会に根強く残る「男は仕事、女は家庭」という固定観念が立ちはだかります。これは職場だけで解決できるものでありません。市は、まち全体に取り組みを広げていきます。

まち全体での取り組みへ 〜ジェンダーギャップ 解消戦略〜
私は、この段階で、助言を求められ、市がそれまでに行ってきたあらゆる調査や男女別データの分析、そして市議会議員、経営者、20代の若者など、男性に対するヒアリングを行いました。そして、2019年12月に、多様な世代の意見を取り入れながら、戦略を策定することなどを提言しました。

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2020年2月には、「高校生」と「20代」を対象にワークショップを行い、ジェンダーギャップ が「解消された豊岡市」と「解消されなかった豊岡市」のそれぞれの未来像を描きました。解消された豊岡市は、「誰もが居心地がよく、自分らしく輝けるまち」「活気があふれる街」と表現され、解消されない豊岡市は「暗く疲弊したまち」と表現されています。若い人たちが求めているのは、男女が共に人間らしく働き、協力しながら家計を支え、家庭生活を営める環境でした。
そして、9月にジェンダーギャップ 解消戦略会議が設置されました。商工会議所の会頭、地区コミュニティの会長、経営者、教員など、男女半々10名のメンバーが3回にわたり、ワークショップ形式でジェンダーのことを学び、「何をどう変えれば良いのか」、ディスカッションを重ねました。その集大成として取りまとめた提言書が、冒頭で紹介した、ジェンダーギャップ 解消戦略の土台になっています。

市民が主人公の豊岡市 〜誰ひとり取り残さない社会に向けて〜
今年度に入り、豊岡市の取り組みはさらに深化しています。
市役所の中に「ジェンダーギャップ 解消庁内推進委員会」が設置されました。市のあらゆる政策や事業に、ジェンダーの視点を主流化させることを目的としています。

6月から、毎月1回、防災、都市整備、こども教育、農林水産、社会福祉など、異なる部署に所属する職員が集まり、男女別データの活用の仕方、一見、男女に中立に見える事柄、例えば、自然災害や新型コロナウイルスのような感染症がいかに男女に異なる影響を及ぼすかを学習してきました。そして、実践として、今年度改訂される、第4次豊岡市男女共同参画プランの骨子案を作成しています。ジェンダーギャップ 解消戦略が「人口減少対策」を起点としているのに対し、男女共同参画プランは、ジェンダー平等社会を目指す、包括的な政策です。まずは行政として骨子案を作り、市民と対話をしながら取りまとめる予定です。

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去る9月24日、今年度第1回目のジェンダーギャップ 解消戦略会議が開催されました。今年5月に就任した関貫久仁郎市長は、冒頭で、「首長は変わったが、皆さんの委員会は続けて頑張ってやっていただきたい、市民目線の施策を立案・実施していきたい」と述べました。

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豊岡市の取り組みは、
1. 市長によるリーダーシップ
2. 行政職員のコミットメント                                    
3. 男女別データとジェンダー分析(専門家の知見の活用)
4. 民間企業や地域社会との協働
による「統合的なアプローチ」であり、これからも進化していくでしょう。

ジェンダー平等の推進は、過去の社会のありようや人々の生き方を否定するものではありません。産業構造や人口構成の急激な変化に耐えうる、持続可能な地域社会を作ることであり、今を生きるすべての人が、誰一人、取り残されない社会を築くことです。
豊岡市の事例が、国の地方創生政策に活かされること、また、こうした取り組みが全国各地に広がっていくことを願っています。

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