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「地球温暖化対策 COP26への注目」(視点・論点)

地球環境戦略研究機関 上席研究員 田村 堅太郎 

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10月31日から、地球温暖化対策について話し合う国連の会議、COP26が開催されます。それに先立って、今年の8月には、気候変動に関する政府間パネル、IPCCが地球温暖化の科学的知見をとりまとめた第6次報告書を公表しました。本日は、IPCCの第6次報告書を踏まえ、COP26の注目点についてお話したいと思います。

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まず、今回の報告書の最大のメッセージは、「地球温暖化は、人間の活動が原因で起きている」と断言したことです。これまでの報告書をふり返ると、人間の活動が原因かどうかについて、2001年の第3次報告書では「可能性が高い」、2007年の第4次報告書では「可能性が非常に高い」、2013年の第5次報告書では「可能性がきわめて高い」というふうに、その確からしさは徐々に高まってきましたが、あくまで可能性の表現にとどまっていました。それが今回、観測データの精度が上がり、また、コンピュータを使った温暖化のシミュレーションが改善されたことにより、これまで可能性として語られてきた「人為的な温暖化」が、もはや紛れもない事実であると結論付けられました。

ちなみに、今年のノーベル物理学賞の受賞が決まったプリンストン大学の眞鍋淑郎(まなべ・しゅくろう)さんは、複雑な気候を物理方程式で表現することで、コンピュータの中に再現する基礎を築きました。また、共同受賞者であるドイツのクラウス・ハッセルマンさんは、コンピュータを使い、気温変化のうち、自然によるものと人間活動によるものとを識別する方法を開発した功績がその受賞理由です。つまり、今回のIPCC報告書の「地球温暖化は、人間の活動が原因で起きている」というメッセージは、文字通りノーベル賞に輝いた科学的知見に基づいたものなのです。

今回のIPCC報告書の2つ目のメッセージは、このように人間が引き起こしている温暖化は、既に世界中の異常気象に影響を及ぼしており、今後、温暖化が進むたびに、異常気象の頻度と強度が増加する、というものです。今回の報告書では、100人以上の死者を出した西日本豪雨を含めて、2018年の初夏に北半球で起きた一連の異常気象は、地球温暖化がなければ起きなかっただろう、と結論付けています。

では、この温暖化を止めるためにはどうしたらよいか、ということになりますが、これが三つめのメッセージになります。温暖化を止めるためには、人間が排出する温室効果ガスの量と、植林などによって吸収する量とを、差し引きでゼロ、つまり実質ゼロにする必要がある、ということです。そして、後ほど詳しくお話しますが、温暖化を1.5℃でくい止めるには2050年過ぎには世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする必要があると指摘しています。

ここからは、パリ協定の実施に向けたCOP26の注目点についてお話しします。2015年に採択されたパリ協定は、温暖化を産業革命前のレベルに比べ2℃より十分低く、さらには1.5℃に抑えることを目指しています。その後、2℃の温暖化がもたらす悪影響と1.5℃がもたらす悪影響には大きな違いがあることが明らかになり、国際社会は1.5℃を目指そうという動きになってきています。

今回の報告書では、将来の温室効果ガスの排出量について、非常に低い、低い、中間、高い、非常に高い、という5つのシナリオが提示されました。

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非常に高い排出シナリオは、今世紀末の気温上昇は4.4℃程度になります。それに対して、非常に低い排出シナリオだと1.4℃ということになります。ここに示されている「非常に低い」シナリオがパリ協定のめざす気温上昇を1.5度に抑える場合となり、世界の二酸化炭素排出量を2020年代半ばには反転させ、2030年には大幅削減、さらに2050~60年の間に実質ゼロにする必要があることがわかります。

このように道筋は示されているのですが、現実は厳しい状況にあります。現在、パリ協定の下で各国が掲げている排出削減目標をあわせてみると、ここでいう「中間」シナリオに近いものとなり、今世紀末には気温上昇が2℃を越えてしまいます。仮に、2030年の排出レベルがこの中間シナリオに沿ったものだと、その後、どんなに厳しい対策をとったとしても1.5℃に抑えることは事実上不可能になるとされます。まさに2020年代は、我々が今後、安定的な暮らしを営むことができるかどうかを左右する「決定的な10年間」と位置づけられます。

パリ協定は、各国に対して排出削減目標を5年毎に提出し、強化することを求めています。そして、2020年は各国が一斉に取り組みを強化する最初の機会となる年でした。しかし、当時のアメリカのトランプ政権がこの問題に消極的であったことや、新型コロナウイルスの世界的大流行による混乱によって、最初の機会は十分に活かされませんでした。その後、アメリカで温暖化対策に積極的なバイデン政権が発足し、COP26議長国であるイギリスとともに、各国に対して、野心的な排出削減目標を提出するように働きかけをおこなってきました。

COP26に向けて、私は4つのことに注目していますが、各国からより野心的な排出削減目標が発表されるのかがまず注目される点となります。
また、排出削減目標を掲げるだけでは不十分です。世界の排出量を2030年までに大幅に削減するためには、今からの行動が必要となります。特に、化石燃料の中でも二酸化炭素排出の大きい石炭の使用削減を加速すること、再生可能エネルギーへの投資を促進すること、森林破壊を抑制すること、そして、電気自動車への切り替えを加速すること、などの具体的な行動について、国や企業による新たな取り組みやパートーナーシップが発表されことが期待されます。

排出削減の強化と同時に、既に起きてしまっている温暖化の悪影響に適応するための対策や行動の強化も求められます。COP26では、人々の住居や生活、命を守るための防御策、気象災害に対して回復力のあるインフラや農業の構築、そして生態系の保護や回復などの取り組みについて、国、地方政府、企業らによる連携・協力の促進が期待されます。

また、途上国における温暖化対策を支援するために、先進国は2020年までに、政府と民間を合わせて年間1,000億ドルを確保する、という約束をしました。COP26では、この目標の達成状況の検証とともに、新たな資金確保の目標の検討が始まります。この動向も注目されるところです。

4つ目の注目点として、パリ協定を実施していくためのルールづくりがあります。パリ協定の実施ルールの一部はこれまで交渉が難航し、まだ合意に至っていません。今回のCOP26での最終的な合意が目指されています。

2020年代の10年間は、我々が今後、安定的な暮らしを営むことができるかどうかを左右する正念場となります。この重要な10年間の最初のCOPとなるCOP26での議論の行方に注目して頂きたいと思います。

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