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「Z世代は何を求めどこへ行くのか」(視点・論点)

信州大学 特任教授 原田 曜平

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今、「Z世代」が世の中で大変注目され始めています。
「Z世代」は欧米諸国でのX世代(Generation X), Y世代(Generation Y)に続く世代という意味合いで使われています。明確な定義はありませんが、おおむね1990年代中盤(もしくは2000年代序盤)以降に生まれた世代を指すとされています。

私は海外でも若者調査を行っていますが、欧米諸国では少なくとも5、6年前からGeneration Zという言葉とともに、彼らの新しい価値観を理解しようとする動きがみられていました。
一方日本では、若者を表す言葉が話題に上ることはなく、「ゆとり」「若者の○○離れ」といった若者像が長く更新されないままになっていました。この温度差は、若年層の人口ボリュームの違いに起因します。
欧米諸国では移民・難民の影響もあり、Z世代の人口は他の世代に比べて多いのですが、日本では少子化が進行し、若年層のボリュームは減り続けています。

しかしながらここ1年ほどで、日本でもZ世代への関心が高まってきています。
ビジネス誌でZ世代の特集が組まれるようになりましたし、予備校等が「Z世代のキミに」と呼び掛けるCMを放映したり、Z世代の常識をテーマに据えた番組を開始するなど、新しい動きが見られます。

これには若者軽視の風潮からの揺り戻しもありますが、Z世代がもつ新しい価値観と、それにひもづく消費意欲に注目が集まっていることが大きいと思います。
確かにゆとり世代が若い頃と比べると、日々生み出されるトレンドの量は非常に多くなっています。

では、なぜZ世代が消費に対して積極的なのか。まず、景気や雇用状況の違いが挙げられます。平成不況によって消費離れを起こし、その一部は第二次就職氷河期も経験しているゆとり世代に対しZ世代はアベノミクス景気・超売り手市場のなかで育ってきました。
今、コロナ禍で有効求人倍率が下がっていますが、日本は40年も少子化を続け、もともと人手不足が深刻だったので、旅行・航空・飲食業など特定の業界を除けば、若者の就職状況は悪くなっていません。

加えて、その世代がどんなデジタルツールに囲まれてきたかということも、消費スタンスに少なからず影響します。Z世代が中心的に使っているInstagramのような発信型のSNSは、「私も○○が欲しい!」「私も○○をやってみたい!」といった気持ちが刺激されやすい。一方、ゆとり世代が親しんできたmixiのようなSNSは発信よりも人間関係を構築するツールとして使われており、消費につながる情報収集はあまり行われていませんでした。

私は拙著「Z世代」の中で、彼らの最大の特徴を「チル(chill)」と「ミー(me)」を挙げています。まず「チル」について。これはアメリカでヒップホップの中で使われるスラングですが、まったりする、などという意味です。彼らの中では心を整える、まったりするといった振る舞いがファッションになっています。ゆとり世代は「ゆとり」などと言われながらも、上を目指そう、昇格や昇進といった目標のために頑張ろう、という認識がまだあったように思いますが、Z世代にとっては、そもそも人と比べるという価値観はかっこよくない。それよりも自己満足・自己充実してる人がクールだよね、ということなのでしょう。

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昭和・平成の若者たちは、「人より高いもの」を「人より速く」手に入れることを重要視していました。隣の家より早く車を持つ、会社の同僚や友達よりも早く、新作のブランドものを手に入れる、といったことが喜びだったのです。しかし、Z世代が多くの時間を過ごすSNSの世界で「いいね」が多いのは、必ずしも値段が高いもの、新しいものではありません。ある程度親しみが得られて、周りが共感しやすいもの、行き過ぎたおしゃれではなく、ちょっとおしゃれなものが「いいね」を集めます。
こうした傾向を、私は「新しい見栄消費」と捉えています。

次に「ミー」について。ゆとり世代と比べると、発信欲求・自己承認欲求がとても強くなっています。発信力があるし、少々意地悪な言い方をすると自意識過剰な子が増えている。とは言えどんな内容でも発信するわけではなく、何をどのような場で発信するかを注意深くコントロールしています。
こうした彼らの自意識を象徴するものの一つが、間接自慢とそれに続く“診断シェア”の流行ではないでしょうか。間接自慢は“匂わせ”とも言われるもので、たとえばスイーツの写真をシェアしているように見えて、その写真の隅に彼氏の存在を匂わせる何かが映りこんでいる。デートに出かけている幸せな自分を、暗にほのめかしているのです。ですがこうした方法は間接自慢は「あざとい」などと炎上することも増えてきました。
そこで、間接的・えん曲的に自分を表現する方法として登場したのが、“診断シェア”です。
2019年上半期に流行ったのがプロフィールを入力すると、恋愛や性格についての診断結果が免許証のようなフォーマットで出て来るサイトです。あくまで公正な診断結果という言い訳が成り立つ状況で、自己表現をするというわけです。診断結果をシェアしてもらうことで、SNSでの拡がりを狙うという手法は、企業のプロモーションにも取り入れられています。

では、この変化の激しいZ世代をどう掴んでいけばいいのでしょうか。若者のトレンドは“点”で見ようとしてもダメで、流れの中で捉える必要があります。私の手元には30人ほどのバイトの学生さんたちから、毎日膨大なトレンド情報が集まってくるのですが、来る日も来る日もそれに目を通し続けることで、変わっていること・変わらないことが見えてきます。そのような流れが見えていないまま、一朝一夕で調べてヒットを狙うというのはとても難易度が高く、偶然に頼ることにもなってしまいます。
残念ながら、若者向けの商品を企画してからリサーチを始める、自社が若者からそっぽを向かれていることに気づいてあわてて改善策を考える、といった企業は多いのですが、そうではなく、若者を注視し続け、トレンドの先にあるものに狙いを定めることで、ヒットする確率を上げていこう、というのが私の考えです。 

最後に、Z世代を中心に発信型、拡散型のSNSが浸透したことで、自社の商品やサービスが思わぬ形で注目を集めたり、逆にヒットまでのプロセスを綿密に設計しても、その通りにならないケースも見受けられます。こうした時代にマーケティングのポイントがどこにあるか、というお話です。

以前はテレビ、マスメディアが情報発信の主な舞台でしたが、現在はSNS上で様々な文脈で情報がシェアされるようになり、それがマーケティングにインパクトを与えることも増えています。
誰もがSNSを用いて発信できるようになったということは、自社に対するより多様な意見が表面化するということであり、そのすべてがポジティブということはほぼあり得ません。無難なもの安全なものよりも、多少ネガティブな意見を含んだもの、賛否が分かれるもののほうが広がりやすい側面もあります。日本の企業はこれまでクレームを減らす、なくすということを重視してきましたが、そうしたものを多少許容するという姿勢をもつことが必要になってくるかもしれません。また、SNS上では、ネガティブな意見に対する「切り返しの巧さ」が好印象を集める例も出てきています。クレームの防止ではなく、クレームへの対応が、これからの広報の腕の見せどころではないでしょうか。
商品開発にしても、多くの人の意見を取り入れた“丸い”商品を作るのではなく、一人に深く刺さる尖った案を採用するような思考の転換が必要だと思います。

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