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「日米同盟強化 日本の対中戦略は」(視点・論点)

明海大学 教授 小谷 哲男

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菅総理とバイデン大統領の首脳会談が4月16日に行われ、共同声明が発表されました。その中には、外交・防衛に加えて、新興技術のイノベーションやサプライチェーンの強靱化、さらにはパンデミック対策および気候変動対策でも、両国が新たに取り組む内容が含まれました。外交・防衛面では、声明の内容は3月の日米2プラス2の結果を踏襲していますが、52年ぶりに日米首脳が台湾海峡の安全の重要性を確認したことは、台湾をめぐる情勢が相当緊迫していることに関して、両国の認識が一致していることを反映しています。

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共同声明は多岐にわたる課題を取り上げていますが、いずれも中国が念頭に置かれていることは間違いありません。一方で、日米が中国と敵対するということでもありません。
バイデン政権は、中国と対抗するべきことは対抗し、競争するべきことは競争し、協力することは協力するとしています。今回の首脳会談では、両首脳はこの点で考えが一致していることを確認したことになります。

本日は、バイデン政権の対中戦略の方向性を分析し、その中で日本および日米同盟がどのように位置づけられているのか、そして日本はどのような対中戦略でこれに応じるべきなのかを、主に安全保障の視点から考えたいと思います。

まず、バイデン政権は強い立場から中国に向き合うと表明しています。そのためには、アメリカ国内の安定と同盟国との関係修復が不可欠であり、国内では1.9兆ドルの新型コロナ救済計画と、2兆ドルの雇用計画を打ち出し、全米の16歳以上全員にワクチンを供給する体制を整えました。

そして、バイデン政権は、外交でも中国を強く意識して同盟国、友好国との関係強化に精力的に取り組んでいます。

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2月には日米豪印(クアッド)外相会議を呼びかけ、初めてとなるクアッド首脳会議につなげました。続いて、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官を日韓に派遣して2プラス2を開催し、同盟の強化を確認した後、アラスカに中国の外交トップを呼びつけ、安全保障や人権問題に関して厳しい注文をつけました。4月に入ると、バイデン大統領はアフガニスタンからの米軍の撤退を表明し、中東からアジアを重視する姿勢を示した上で、初の対面での会談相手として菅総理をホワイトハウスに招き入れました。同時に、ケリー気候変動特使を中国に派遣し、気候変動問題での米中協力を模索するとともに、日米首脳による共同声明への中国の反発を抑えようとしました。

このように、バイデン外交は綿密に練り上げられていることがわかります。トランプ前大統領は、覇権主義的な動きを強める中国に対して強硬な措置を取り、日本を含む同盟国を安心させましたが、一方で米軍の駐留経費の負担や、貿易面で同盟国に過度な要求をしました。バイデン大統領は、同盟国を批判するのではなく、公平に扱い、中国の台頭という共通の課題に取り組もうとしています。

バイデン大統領は、米中関係を民主主義対専制主義という視点で見ています。民主主義という価値を共有する日本は、バイデン政権の対中戦略にとって不可欠な要素だと言えるでしょう。外交・防衛で日米同盟を重視するのはもちろん、バイデン政権は新興技術や高速通信の分野でも、技術開発での協力だけでなく、個人の自由や権利が守られるように日本と透明で公正なルールを作っていくことを期待しています。半導体やレアアースなどのサプライチェーンに関しても、日本と協力して中国への依存度を減らすことで、中国が経済的な手段を使って他国を威圧できないようにすることを目指しています。

そして、バイデン政権が危機感を強めているのが台湾情勢です。2016年に蔡英文政権が誕生して以来、中国は台湾に対して軍事的な圧力を強めています。

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2020年以降、中国の軍用機が台湾の防空識別圏に入ることが繰り返されるようになり、不測の事態が起こることが懸念されています。数年内に中国が武力によって台湾の統一を目指すのではないかとの危機感も高まっていますが、バイデン政権は民主主義が深く根づいた台湾に対する威圧は容認できないとしています。日米が台湾海峡の平和と安定の重要性を強調したのは、台湾海峡が民主主義と専制主義が競争を繰り広げる最前線の1つだからだと言えるでしょう。

菅総理は、台湾海峡をめぐる問題に関して、対話を通じた平和的解決を求めるという従来の日本政府の方針をバイデン大統領との会談で確認しましたが、一方で日米の間で有事に備えた準備も議論することになるでしょう。中国が武力で台湾の統一を目指すとすれば、真っ先にアジアにおける米軍の拠点である在日米軍基地をミサイルで攻撃することが想定されます。つまり、台湾有事は日本有事になる可能性が高いのです。あるいは、中国は台湾への武力攻撃と同時に、中国側が台湾の一部とみなしている尖閣諸島を奪いに来ることも考えられます。これは、日本が中台あるいは米中の紛争に巻き込まれるということではありません。軍事紛争に備えることで抑止力を高め、紛争の平和的解決につなげることは、台湾のためだけではなく、中国と尖閣諸島をめぐる問題を抱える日本のためにもなるからです。

中国の海警船が尖閣諸島周辺の領海侵入を繰り返す中、バイデン大統領は日米安全保障条約第5条に基づき、尖閣諸島の防衛に強いコミットメントを確認しました。しかし、その前提として、菅総理は日本自身が防衛力を高める決意を強調しています。つまり、日米同盟の中で、日本は自らの役割と能力を拡大させるということです。中国の習近平国家主席は、中国建国100年となる2049年を念頭に「中華民族の偉大な復興」を掲げています。そのためには、中国が「失われた領土」と考えている台湾の統一が欠かせません。そして、中国は尖閣諸島を沖縄ではなく、台湾の一部と主張しています。中国でナショナリズムが高まる中、台湾と尖閣諸島の安全は切り離せない問題だと言えます。

中国の経済力は2028年にはアメリカに追いつくという見立てがあります。軍事力もそれに合わせてさらに高まっていくでしょう。アメリカが単独で中国の軍事的挑戦に立ち向かうことは、ますます難しくなっていきます。しかし、日米が適切な役割分担の下で対処力と抑止力を高めて、尖閣諸島と台湾に対する武力攻撃を抑止することはできます。日米同盟は「盾と矛」という考えの下、日本が守勢的な役割を担い、アメリカが打撃力を提供してきました。しかし、中国が保有する1200発以上のミサイルに有効に対処するためには、日米双方がミサイル防衛能力を高めるとともに、中距離ミサイルを配備する必要があります。日本はいわゆる敵基地攻撃能力の保有を検討する必要がありますし、またアメリカからは日本国内への中距離ミサイル配備を受け入れることが期待されています。

日米にとって最大の課題は、国内ではナショナリズムに基づく統治を強め、対外的には威圧的な行動をあからさまに取るようになった中国とどのように向き合うかということです。そのためには、日本自身がしっかりとした戦略を持って、対抗するべきこと、競争するべきこと、そして協力すべきことを定めた上で、中国と向き合う必要があります。日米は2021年の末までに再度2プラス2を開催し、具体的な取り組みの成果を確認することになっています。日本は、早急に2013年に策定した国家安全保障戦略の見直しに着手し、日米同盟の強化に取り組むべきでしょう。

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