NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「東日本大震災10年 サードセクターの社会的役割とは」(視点・論点)

京都経済短期大学 講師 菅野 拓 

s210315_023.jpg

東日本大震災の発災から10年が経ちます。このような大規模災害は日本社会に大きな影響を与えます。その影響の一つがボランティアの広がりです。そもそもボランティアが注目されたのは阪神・淡路大震災がきっかけで、その年、1995年は「ボランティア元年」と呼ばれています。ボランティアが社会から広く注目を浴び、1998年のNPO法の制定に大きく影響しました。また、2006年に関連3法が成立した公益法人制度改革から非営利の法人格取得がさらに容易になりました。
これらの法律整備から、NPO法人、一般社団法人、公益財団法人などに代表される、公益的な事業を行う民間組織から構成されるサードセクターが、ある程度育っていた状況で起きたのが2011年の東日本大震災でした。東日本大震災を通して見えるのは、NPOなどのサードセクターが日本に定着し、行政や営利企業と協働して、災害復興をはじめとする社会的課題に対応することが当たり前になったということです。今日は、サードセクターが行った活動を踏まえて、これからのサードセクターの特性や、その役割の重要性を考えます。

東日本大震災でも多くのボランティアの方々が被災者支援活動を行いました。しかし、市民が自発的に行う支援の中で、より大きな注目を浴びたのは、サードセクターによる組織的な支援でした。サードセクターによる支援が台頭したことは東日本大震災からの復興の特徴です。サードセクターの代表的な法人格であるNPO法人の被災3県内における認証数について震災前と震災後の状況を比較すると、NPO法ができた1998年から震災前までの認証数は1,425法人、震災から2014年5月までの新たな認証数は617法人で、約3年程度で43%も増加しています。特に津波被害を受けた沿岸自治体での増加は顕著です 。復興にかかわる支援者が組織化するための「器」として機能していたことがわかります。
 
 では、東日本大震災で復興支援活動を行ったサードセクターの実態について、アンケートから見てみます。

s210315_011.png

2013年11月に実施したアンケート によると、7割のサードセクターの組織がなんらかの法人格を取得しており、なかでも、特定非営利活動法人、いわゆるNPO法人は46%にも及んでいました。また2006年の公益法人制度改革も影響し、一般社団法人・一般財団法人、公益社団法人・公益財団法人も13%あります。震災前に設立された団体が63%、震災以後が37%で、震災前に設立された団体の中でもNPO法が成立した1998年を境に団体数が増えています。
サードセクターは被災者や地域に寄り添った様々な活動を柔軟に行いました。

s210315_014.png

被災者が避難所で生活を続け、仮設住宅に移っていく期間である発災から2011年9月までの約半年間は、「物資配布」、「避難所に対する支援」などを行いました。被災者の多くが仮設住宅に住む2011年10月から2013年9月までの2年間は「被災者の生活行為を助ける支援」や「被災者の孤立防止」など、より被災者の生活に寄り添う活動へと移り変わりました。2013年10月以降は「コミュニティ・住民自治への支援」、「心と体の健康に関する保健・福祉分野の支援」といった被災者支援と単純には言い切れない、まちづくりや地域福祉にかかわる活動へと変化しました。

s210315_018.png

被災地で活動するサードセクターの収入内訳をみると、2012年度は寄付金、民間助成金、自主事業の割合が大きく、2019年度 は行政委託・請負や自主事業の割合が大きくなっています。震災初期には善意にもとづいてなされた贈与を活用していましたが、時間が経つにつれ、例えば地域福祉やまちづくりといった領域で行政サービスを担うようになったことがわかります。また、どの時点でも行政や営利企業と協働しながら、様々な資金を組み合わせて活用していることも特徴です。

s210315_021.jpg

例えば、仙台市では行政などと協働し、パーソナルサポートセンターというサードセクターの組織が被災者生活再建支援の一部を担いました。
そこで開発された官民協働の被災者生活再建支援の新しい方法は「災害ケースマネジメント」と呼ばれ、その後の大規模災害での対応に受け継がれています。

サードセクターは、自らの思いに加え、寄付などの贈与や行政の資金など、いわば、自助・共助・公助の資源を組み合わせ、東日本大震災で生じた社会的課題に対応しています。では、彼らはどのように様々な資源を集めているのでしょうか。また、新しい支援方法を開発するといったこと、つまりイノベーションをどのように生み出しているのでしょうか。その秘密は、サードセクターを中心に張り巡らされた、人と人とのつながり、つまり、社会ネットワークにあるようです。
彼らの社会ネットワークについて、数珠繋ぎのインタビュー調査で調べてみました。あるサードセクターの活動者に、「東日本大震災でお世話になっていたり、信頼していたりする人を最大10人教えてください。行政・営利企業・サードセクターのどこに所属していてもいいし、震災前からのつながりでも、震災後のつながりでもいい。被災地に住んでいる人でも被災地外の人でもいい」と聞きました。この質問で把握できた人のうち、震災後に被災地に住んだことがあるサードセクターの活動者に、またインタビューを行います。これを80人繰り返し、彼らの社会ネットワークを可視化しました。

s210315_022.png

図からはサードセクターの関係者のつながりが、被災地にとどまらず全国に広がっていることが分かります。また、円の色は行政、営利企業、サードセクターなど、関係者がどこに所属しているのかを表していますが、様々な所属を結び合わせていることが分かります。さらに注目いただきたいのは、何人の関係者から指名されたかを表す、円の大きさです。この調査では、80人に最大10人ずつつながりを聞いたので、最大800人の関係者が把握できることになります。しかし実際に把握できた関係者は459人にとどまりました。ほとんどの方は10人ずつ答えてくれていたので、複数人から指名を受ける人がいたわけです。ほとんどの関係者は1人からしか指名されていませんが、ごくたまに大きな円で描かれている、たくさんの人から指名を受ける関係者がいます。この人は多くのつながりを持つ人なのです。
このような多くのつながりを持つ人が、ごくたまにいる状態のネットワークは「スケールフリー・ネットワーク」と呼ばれます。スケールフリー・ネットワークの代表例はインターネットです。インターネットでは世界に10億以上のホームページがあるなかから、検索サービスを利用することで、わずか数クリックのうちに、目当てのホームページにたどり着くことができます。検索サービスが多くのつながりを保有しているから、このようなことが可能になります。サードセクターの社会ネットワークでも、多くのつながりを持つ人が様々な情報や資源をやり取りする中継点となっています。そのため、情報がすぐに伝わり、効率的に知識や資源のシェアが可能なのです。
また、サードセクターの組織がなんらかのイノベーション、つまり新しい方法を作り出す際に、地域を超え、全国的に張り巡らされた社会ネットワークから得た情報や資源を利用しているようでした。つまり、シリコンバレーなどの1つの場所に集積してイノベーションを生み出すといった営利企業のようなメカニズムが働いているわけではなく、サードセクターではそれぞれの組織がそれぞれの地域に根を張り、地域間で情報や資源をお互いさまで交換しながら、社会的課題の解決につながるような新しい方法を生み出しているようなのです。
 東日本大震災を通して見えるのは、NPOなどのサードセクターが日本に定着し、行政や営利企業と協働して、災害復興をはじめとする社会的課題に対応することが当たり前になったということです。彼らは全国的に張り巡らされた社会ネットワークから得た情報や資源を互いに利用し合い、例えば、まちづくり、地域福祉などの分野で、様々な社会的課題に対応しています。このようなサードセクターの特性はわかる人にしかわからない不明瞭なものであったため、彼らとの協働の程度は、地域や企業によって様々です。
多くの社会的課題が存在する現在、このようなサードセクターの特性を、「市民協働」や「公民連携」などとして地域で上手に利用することが望まれます。

関連記事