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「シェアでつながる社会に」(視点・論点)

一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 石山 アンジュ

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 きょうは「シェア」という概念が、豊かさや幸せについて再定義される今、社会にどのように変革をもたらすのか、シェアすることで生まれる新しい生き方についてお話ししたいと思います。

 ここ数年、シェアリングエコノミーという言葉をニュースなどで見聞きすることが多くなったのではないでしょうか。シェアとは、誰かが持っているモノ、場所、時間、経験まで貸し借りしたり売買したりする概念です。

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左は、かつてあった長屋文化、日本にもお醤油の貸し借りがあったころの絵です。それを右の図のように、現在は「インターネットによってそのような共有が世界中で簡単にできるようになった」のです。
 テクノロジーの発展によって、個人と個人がインターネットを通じて直接つながることができるようになりました。そのおかげで、空いている部屋を宿泊場所として提供したり、自分の車や駐車場を貸したり、ご近所さんの家事を手伝ったりといったことが簡単にできるようになりました。
 もらう側も与える側も潤うしくみ。たくさんのモノであふれる社会から、「必要なモノだけあれば十分だ」「家も、仕事も、子育ても誰かと共有すればいい」という価値観が生まれ、支持されつつあります。

 私は現在、Cift(シフト)というシェアハウスで生活をしています。0才から60代まで、「意識でつながる家族」を掲げ、約100人の人たちと一緒に暮らしています。弁護士、お坊さん、美容師、料理研究家、ミュージシャン、画家など、さまざまな肩書きをもった大人と、子どもたちがいます。一緒に暮らしながら子育てに関わったり、何か困った時は、それぞれの得意を持ち寄りながら、助け合いが日常にあります。
 年齢や性別、あらゆる違いを超えて、つながりを感じることができる。「この先何があっても大丈夫」と心から安心できる、かけがえのない場所になっています。何より、自分がつらくてどうしようもない時、時間を惜しまず、手を差し伸べてくれるつながりのある生活に、確かな安心感を感じています。

このようなシェアリングがなぜ、今の社会にとって大切な概念なのかをお話ししたいと思います。
 私たちは今、これまで考えられてきた社会や個人の「豊かさ」を見直さなければいけない時代にいます。
 戦後の「何もない」時代から、「何でもある」時代を目指して社会全体が一直線に前進し、大量生産・大量消費を繰り返しながら、急速に成長を遂げてきました。その中で個人の生活も、貧しく「何もない」状態から、会社に勤めて得た給料で、マイホームやマイカーを所有し、「何でもある」生活を夢見るようになりました。一度会社に入ってしまえば、終身雇用によって守られ、定年を迎えても手厚い社会保障を受けられ、たくさんのモノに囲まれたまま、穏やかに生涯を終えられる。そんな人生を目指すことで、個人も社会全体も幸せになると考えられてきました。
 しかし今日の日本は、こうした豊かさを追い求め続けられない時代にあると考えています。

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この図は、これまでの豊かさの価値観が、これからどのように変わっていくのか示しています。大きなものの一つは、「無限」から「有限」を意識せざるを得ない状況になった点です。「地球上の資源は無限に使ってよい」という前提のもと、大量生産・大量消費を繰り返してきた結果、深刻な環境問題が起きています。 
 もう一つは、物質的に豊かになった今日、「どんなに物質的に豊かでも、なかなか幸せにはなれない」という事実が、さまざまな調査で明らかになってきたことです。
 年収と幸福度の比較研究では、「一定のラインまでは年収と幸福度は比例する傾向にあるが、あるポイントを超えると、年収は上がっても、幸福度は比例しなくなる」という結果も出ています。また大きな格差と分断が問題となっています。

 そして私が最も問題であると思っているのが、経済発展の中で、私たちは「人とのつながり」を失いつつあるということです。

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今日、お金のみが交換の価値であるとされ、その貨幣を稼ぐことが人生の目的のようになりつつあります。モノを入手する手段の効率化・自動化も進みました。しかし、もともと貨幣経済の普及前は物々交換がありました。着物とお米を交換したり「お金を介さないで、それぞれがモノの価値を決める」という合意のもと、成り立っていました。さらにそれ以前には、「贈与の経済」も存在していました。「お互い様」という精神のもと、与えた瞬間に同等の価値が戻ってこなくても、巡り巡って返ってくるという、つながりと信頼の関係性のもとに成り立っていたのです。

 結果、現代においては、人とのつながりを感じることは難しくなり、モノの個別化の歴史が、つながりの希薄化、孤独の原因となっているのだと思います。今や1年に3万人の人が孤独死をしているというさまざまな推計がある事実をご存知でしょうか。

シェアリングエコノミーは、現代のこのような問題が生じている中で、持続可能でより人間が人間らしく生きることができる概念だと私は信じています。

 シェアすることで生まれる最も大きな価値は「つながり」です。
何かあったら手を差し伸べてくれる人が思い浮かぶこと、明日もし地震が起こっても、お米を届けてくれる人や、泊まらせてくれる家や人のつながりがあること、そのようなつながりを増やしていくことが、これからの時代を生きる上での重要な資産になるのだと私は確信しています。そしてその「つながりをどれだけ貯めることができるか」が、新たな豊かさの指標になるのではないかと思っています。

 さらに、シェアは現在失われつつある「共助」を再構築できると考えます。
自分で自分の生活を守る「自助」、行政がサービスを提供することで守られる「公助」、
そして地域のコミュニティや共同体のつながりを通じて助け合いを行う「共助」です。
 しかし、今この「共助」の機能が失われつつあります。無縁社会や孤独死などが取り上げられているように、地方の人口流出や地域コミュニティの高齢化、都心を中心とした単身世帯の増加などを背景に、かつてあった地域のコミュニティやつながりが希薄化しました。かつてはあった自治会、地域活動も、都心を中心に失われつつあります。

 私も社会人になってから東京に暮らし始めましたが、どこに町内会があるか分からなかったですし、住んでいる場所で近所の人と関わりをもつのは、勇気のいることでした。
「もし明日地震が起こっても、マンションの隣に誰が住んでいるのかわからない。」そのようなつながりを持たない人は多いのではないでしょうか。
 そのような中で、シェアを通じて、かつてあった共助の機能にインターネットと個人を結びつけることによって、新しい形の共助として再構築できる可能性があります。

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 現在、わたしたちが直面している新型コロナウィルスの感染拡大をはじめ、不確実な未来と共存しなくてはいけない時代にいると思います。正解がない時代の中での確かな豊かさとは、支え合えるつながりを持ち、一つの企業やモノに依存しなくても複数の選択肢を持つことではないでしょうか。
 今日ご紹介してきたシェアリングエコノミーは、そのような選択肢を増やすことができる手段だと思っています。「シェア=分かち合う」という概念が広がり、多くの人がシェアリングを実践していくことで、支え合いや分かち合いの広がる社会になることを願っています。

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