「サイバニクスが拓く未来」(視点・論点)
2021年01月06日 (水)
筑波大学教授 山海 嘉之
こんにちは。きょうは私がサイバニクスを駆使して未来開拓に挑戦してきた取り組みについて、手探りを続けながらやり抜いていくことの大切さ、やりがい、面白さなどをお伝えできればと思います。何かしらご参考になることがあればと願っております。
これは生物の進化の流れです。私たち生物は、このように遺伝子を変えながら進化してまいりました。ここにホモサピエンスという私たち人類がおります。大きな脳、そしてテクノロジー、技術ですね、そして一種の仲間を手にしました。さて、これからどのように私たちは進化していくでしょうか。
これは私たちの社会変革の流れです。狩猟採集社会、農耕社会、工業社会、そして今現在ある情報社会になってますが、それぞれにソサエティー1.0から4.0という番号をふりましょう。そしてこの初期の段階では、物理空間というフィジカル空間が中心の社会、そして現在は、そこにサイバー空間という情報社会が加わっておりますが、次はどうなっていくのか。
実はこの中で重要なことは、テクノロジーだけの問題ではなく、人との関わり、あるいは人を中心とした社会作りがかなり重要で、そこをしっかりと展開するためのサイバニクス技術ということが、1つの核になると考えています。
こういうことを展開して私たちは歩んできたわけですけれども、この技術の進化とともに、徐々に寿命が延び、今高齢化という大きな問題にもぶつかっているということになります。
ここをどう解決するかというところ、ここがサイバニクスの腕の見せどころということになると思いますが、その中で人とテクノロジーが共生する「テクノ・ピアサポート社会」というものが構成されていくというふうに考えています。これは新たな人類の進化の道というふうに考えることもできるでしょう。
サイバニクス技術はこのように、人、そして物理空間扱うロボットなどの技術、そして情報系の技術、これらを1つの塊とした分野で、脳神経科学、あるいは生理学、人工知能、ロボット、行動科学、そして心理学やさまざまな技術、それに加えて倫理や法律や経営なども巻き込んだ、1つの塊とした、非常に重要な未来開拓の、分野開拓になっていると思います。
ここで1つキーワードとしては、皆さんがご存じのIoTという、モノのインターネットという言葉がありますけれども、そこにIoH、Internet of Humanという言葉を足して、ヒトとモノのインターネットというキーワードをここで示しておきます。
実はこういう1つの社会の出口、Society5.0については、日本は世界に対して、G7の時に私が基調講演をさせていただきましたけれども、そのSociety5.0をどう作り上げていくのか、そして医療や健康の情報をどのようにして世界協調させながら作り出してくるのか、そういう話が1つの焦点となりました。
これはG20の時の話ですが、G20ではそのようなデータ自体が非常に主役となって現れてきて、デジタル産業とか、あるいはそれ自体を貿易の対象にしていこうという流れが出来上がってきました。
こういう取り組みを通しながら、私たちは未来改革のために、1つの技術を作り出していく、その技術的な取り組みと、それから社会的な取り組みというものをしっかりと捉えて、そしてさらに国際連携というものを軸に、新しい社会をつくっていこう、地球を1つの塊として捉えて、未来をつくっていこうという流れと今なっているんだと思っています。
これは世界で初めて作られた、世界初の装着型サイボーグ技術で「HAL」というものです。実は装着するだけで人をサイボーグ化する技術で、体を動かそうとすると、脳神経系の情報とこの「HAL」がつながって動いていく。体を動かさなくても、このように体を動かそうとするだけで動いてくれる、そういう技術となっています。
これを装着することで、人と「HAL」の間で神経系の1つの伝達ループが出来上がって、神経と神経の間のシナプス結合などがどんどん強化されて調整されていくということで、新しい治療技術としてサイバニクス治療というものが誕生いたしました。
ただそういったものを医療現場の中に投入していこうとすると、社会に受け入れてもらえるようにしなければいけないので、許認可が必要です。ただ、分野のない新しい技術ですから
そこでISOといいう国際標準化機構の中に入って、最初はそこで委員として入りますが、エキスパートメンバーとして世界ルールを作り、そして現在は医療や福祉や生活の中にこういう技術を展開することができるようになってまいりました。次はデータの時代ということになってまいります。これによって、早期発見や予防というものをまた作り出していこうという、そういう流れとなっています。
さて、こういう技術的な取り組みをしながら、ある段階に到達したとしても、社会の中に実装していくためには、その技術をしっかりと社会に受け入れてもらえるようにするために、例えば臨床研究、治験というものをやっていくわけですね。例えばコロナ禍の中で、ワクチンの開発などではかなりの時間が必要だということを、マスメディアなどでも発表されてたりしますけれども、実はこの医療技術全般について言えば、もうとにかく時間がかかるんです。それを一つ一つ越えていく取り組みが必要で、例えば進行性の神経筋難病疾患、脊髄損傷、脳卒中、こういったものに対する取り組みなどについても、1年2年3年4年5年6年と、どんどん時間をかけながら取り組んでいきます。
そしてその間にアジア展開をしていく、世界展開をしていく、そういうことをやっていくわけですね。
こうして日本生まれの技術がヨーロッパ全域で医療機器になり、米国で医療機器になり、そしてアジア、中東へ展開されているという状況です。米国の中で一緒に歩んでくださっている医療機関の例をちょっと示しますと、
これはギラン・バレー症候群の患者さんで、初期の頃はこのような歩き方しかできてなかった方が、治療が進むことによって、このようにご自身で歩けるようになってくる。ただこれは健常者のボトムラインですので、もっとほんとは良くなるはずなんですが、これは普通は退院するんですけれども、もっと続けていただきます。
そうするとなんと、このようにジョギングして歩んでくださるようになってきます。とてもすばらしいことです。こういうことをしていきますと、さらに国際的な医療機関との連携が強化されるということで、1つの技術が世界連携をまた作り出していくということになります。
こちらちょっと見ていただきますと、この高齢者の方、84歳の方ですが、10メートルを30秒近くかかってた方が、なんとこのようにすたすたと歩き始める。驚異的なことは、同じように歩行器を使えば、サニブラウン並みの速度で歩くというようなこともできてきてるということで、私自身驚かされました。
さて、こういう技術がコロナの時代になった時でも使えるようにする、つまり病院や施設に行かなくても、家庭でもできるということで、在宅の技術への展開、こういったものもこのサイバニクス・クラウドというものを作り上げることで実現されていくということになります。
このように技術的な取り組みや社会的な取り組みに加えて、もう1つ重要なのが、人材をどう作り出してくるかということなんですね。追いつき追い越せ型の人材から、未来開拓型の人材へ。そして重要なことは、人間観、倫理観、社会観、こういったものを軸にしていくということが重要です。
こうして模倣、知識が重要だった時代から、創造、共感が重要な時代へとシフトしてるということになると思います。
きょうは私は、未来に立って今を見る、そして未来と現在をつなぐさまざまな技術を作り出していくこと、これを通して未来開拓をしてきたというお話をさせていただきました。
あるべき姿の未来を拓く、これ、とても大切なことです。そして未来は自らつくり出すものだということが伝わったと思います。「テクノ・ピアサポート」という、人とテクノロジーが共生する時代、こういった時代をどうつくっていくかということの根幹にあるものは、私は夢や情熱というのはとても大切なんですけれども、それと同様に、あるいはそれ以上に人を思いやる心が重要だと考えています。
きょうはそういったお話をさせていただきました。どうもありがとうございました。