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「アリ社会に見る持続可能な暮らし」(視点・論点)

九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター 准教授 村上 貴弘

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こんにちは。九州大学の村上貴弘です。わたくしは25年以上にわたってアリの研究をしております。今日は10分間アリの奥深い世界のお話をしていきます。

私はハキリアリというアリや侵略的外来アリのヒアリを中心に研究をしています。ハキリアリは、なんと農業をするアリです。人間以外にも農業をするアリがいることを皆さんご存知でしたか?

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つい先日、僕の共同研究者でもあったウィスコンシン大学のキャメロンキュリー博士が中米に生息するハキリアリがマグネシウムという鉱物を自分で作り出して鎧のように身にまとって敵から身を守ったり免疫機能を向上させたりしているという衝撃的な研究を発表しました。このようにアリにはまだまだ未知の世界が広がっていることも解説していきます。
その前に基本的なことですが、皆さんが普段目にしている働きアリ。これはすべてメスです。アリの社会はメス中心で構成されています。もちろん産卵を司る女王アリもメスです。オスは何をするかというと、特定の時期にしか現れず、とくに仕事もできず、時期が来ると交尾をするために飛び立って、交尾が終わると死んでしまいます。
そんなメス中心のアリの社会 。労働はどのように分業されているかというと、年齢で分かれています。

アリの社会はメス中心
アリの社会では、基本的には若い個体が安全な巣の中での仕事、例えば子育てとか貯蔵された食糧の管理などをしています。老齢の個体が危険な外仕事、たとえば狩りとか巣の防衛などをします。「老人虐待じゃないか!」という意見もあるかもしれませんが、あまり大きくないアリの集団では若い個体が死んでしまうと失われる労働力が大きいので、寿命に近い老齢の個体が危険な労働をした方が、コストが低くなるのですね。

アリの多様な社会形態
しかしながら、アリの社会というのは多様です。より複雑な社会を持つようになると、年齢ではなくスペシャリストが現れます。たとえば、中南米に生息するナベブタアリ。

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このアリの働きアリの一部は、頭部がこんなふうにお皿のように変化してしまっています。このアリは木の空洞などに巣を作りますが、この働きアリは巣の入り口をこうやってペタッと塞ぎ、「扉」役をします。扉役の働きアリは年齢によって働きが変わるわけではなく、若い時も年老いたときもずっと一生扉役で終わります。凄いですよね。

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また、北米大陸の砂漠地帯やオーストラリアに生息するミツツボアリは、このように貯蜜ワーカーと呼ばれる貯蔵庫役の働きアリがいます。この働きアリは、巣の天井にぶら下がって、別の働きアリが集めた蜜をお腹に溜め込んで、こんな風にパンパンに膨らんだ状態でジッとしています。エサ不足の時などに仲間に蜜を分け与えて、まさに貯蔵庫役として一生巣の天井にぶら下がっています。どういった気持ちでぶら下がってるんでしょうね?アリの社会にはもっともっと多様なものがありますが時間の関係上、割愛させていただきます。

アリたちの“感染対策”
人間社会は今年、新型コロナウイルスで大変苦労しております。密集した社会、高度に発達した社会を持つアリもまた、さまざまな病原菌やウイルス、寄生虫に注意を払わなくてはなりません。わたくしは、ハキリアリなどの巣をこれまで1000時間近く観察して、記録をつけておりますが、
【VTR・グルーミング】
巣の外から戻ってきた個体は必ず自分の体をグルーミングといってクルクルと足を使って掃除して、さらに他の個体も手伝ってグルーミングしてからでないと巣の中に入ってきません。これは100%例外なくやっております。皆さんはどうでしょうか?帰宅後100%手洗いうがい、着替えをしていますか?もししていない場合はアリのことを自分たちより下には見られませんよ。

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さらに、それだけでは病原菌やウイルスに対抗できません。ハキリアリ達はさらにすごいものを身につけています。このように体の表面の特定の場所に抗生物質を分泌するバクテリアを共生させているんですね!このバクテリア、実はこの地球上でハキリアリの体の表面にしか生息していません。

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それ以外にも、自分自身で抗菌物質を分泌したり、先ほど冒頭で説明したようにマグネシウムまで作り出して鎧を身にまとうなど、想像をはるかに超えるような方法で病原菌・ウイルスに対抗しているのです。密集した集団生活をしている人間はまだまだこういった経験が浅いんですね。アリたちは1億5千万年も前から社会生活を営んでさまざまな危機に対応してきています。そのようなアリの社会から学ぶことはたくさんありそうだと思いませんか?

【VTR・農業するハキリアリ】
そんなアリの社会についてわたくしは近年、音声コミュニケーション、つまりおしゃべりするアリの研究をしています。先程出てきた農業をするアリ、何を育てているかというとキノコを栽培しています。森から葉を切り出しては、それを巣に持ち帰り、小さく切り刻んで菌糸を植え付けて育てるのです。ハキリアリの仲間は人間よりもかなり昔、約5000万年前からこの農業を続けてきているのです。人間など足元にも及ばないほどの持続可能な社会を実現していると思いませんか?そして、この農業をするアリが多様な音を使っているということを発見しております。例えばどんな音を使っているのか? 

【音・いい葉っぱ】
この音は、ハキリアリが良い葉っぱを切っているときの音です。 

【音・きらいな葉っぱ】
一方こちらの音は、あまり好きではない葉っぱを切っているときの音です。このように同じ葉を切るという行動でも、全く違う音を使って情報を伝達していることが分かりますね?ということは、ハキリアリにおいては、お喋りすることが非常に重要な要素であるかもしれないという仮説に基づいてさまざまな音を録音して解析をしているところであります。
この研究が理想的に進めば、今問題になっている侵略的外来生物のヒアリや現地中年米では大きな農業被害をもたらすハキリアリを「腹を割って話す」ことで説得して、お引き取り願えるのではないかと考えております。研究の進展にご期待ください。

さて、アリという生き物は1億5千万年前にこの地球上に出現し、大きな環境変動に耐えながら、現在1万1千種以上が存在し、合計の生物量、つまり総重量はなんと人間と野生哺乳類を足したものと匹敵すると言われています。われわれ人間は、この地球上に誕生してからたかだか20万年。近年、エネルギーの枯渇や食料不足、環境変動を引き起こすなどとてもではないですが1億年も今後地球上に暮らすことなどできないような環境負荷をかけながら存在しています。

アリたちは環境を大きく改変することなく、地球上に広くそしてたくさん存在し、かつ長い時間持続的に発展し続けています。この上手に地球環境に適応し、持続可能な社会を実現しているアリから、皆さんもどうか色々と学んでいきましょう。アリたちは、私たちの大先輩で、素晴らしい教材なのです。

本日は有難うございました!

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