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「新型コロナ後遺症と今後の課題」(視点・論点)

国立国際医療研究センター 国際感染症センター 医師 森岡 慎一郎

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はじめに
新型コロナウイルス感染症罹患後に急性期症状が遷延したり、回復後に症状が出現したりする、いわゆる「コロナ後遺症」があることがわかってきました。きょうは、後遺症の疫学調査を行うことになったきっかけ、後遺症の種類や持続期間、考えられる原因と治療法、今後の課題をお話しします。

後遺症の疫学調査を行うことになったきっかけ
国立国際医療研究センターでは、2020年1月の武漢帰国便や2月のダイアモンドプリンセス号など、新型コロナウイルス感染症対応の初期段階から多くの患者さんを受け入れてきました。患者さんの中には、退院後もだるさ、息切れ、においや味がしないなどの症状が続く、毛が抜けると訴える方がみえました。当初、我々は きもちの問題 ではないかと考えておりました。しかし、このような訴えのある患者さんが一定数みえ、コロナの後遺症ではないかと考えるようになりました。6月頃だったと思います。そのころ、世界中でSNSを通してこのような後遺症で苦しむ患者さんが紹介され、一部には必要以上に不安を煽る内容があったと記憶しております。我々は、後遺症を正しく知り、正しく恐れるため、客観的な疫学情報を得ることを目的に後遺症の調査を行いました。

4か月以上続く後遺症
新型コロナウイルス感染症の後遺症については、7月ごろから海外からの報告が出てきました。イタリアからの報告では、発症後60日の段階で87%の患者が何らかの後遺症を訴えていました。特にだるさや呼吸苦の頻度が高く、関節痛、胸痛、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、のどの痛み、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状がみられました。
我々は7月から8月にかけて、2~6月に当院を退院した患者さんに電話で後遺症に関する聞き取り調査を行いました。聞き取りができたのは63人で、平均年齢は48歳、約9割が日本人でした。75%が新型コロナウイルス肺炎と診断されましたが、酸素投与を受けた中等症患者が27%、人工呼吸管理を受けた重症患者が8%。大半は軽症患者でした。
結果は、発症から約2か月で48%の方に、約4か月たっても27%の方に何らかの後遺症を認めました。

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この図は新型コロナウイルス感染症発症からの日数と、急性期症状を有する患者さんの割合の関係を表したものです。呼吸苦、だるさ、嗅覚障害、せき、味覚障害といった症状が、発症2か月後も5~18%、発症から約4か月後も2~11%続いていました。

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こちらは新型コロナウイルス感染症発症からの日数と、脱毛を有する患者さんの割合の関係を表したものです。脱毛は全体の24%の方で見られました。発症後約1か月から出現し、症状持続期間は平均76日でした。

後遺症の原因
 こうした後遺症は、いくつかの症状が複合的に絡み合ったものと考えられます。
 1つ目は、「集中治療後症候群」です。これは、集中治療室での治療後に生じる身体障害・認知機能障害・精神の障害を指すものです。しかし、新型コロナウイルス感染症の場合は、重症者の多くが高齢者で、ワクチンも特効薬もない感染症で治療が長期化したこと、厳重な感染対策のために家族や友人とも会えず孤独な闘病をよぎなくされたことなどから、いっそう重い症状が現れた可能性があります。
2つ目は、急性期の症状が遷延しているタイプです。この「持続型」の後遺症で最も多くみられたのは、肺の機能低下と関係する症状です。肺の細胞で増殖したウイルスが重い肺炎を引き起こした場合、その肺炎が治る際に細胞の壁が硬くなる「線維化」が起こるなどして、長引く呼吸苦やせきの原因になります。
味覚障害・嗅覚障害は、新型コロナウイルス感染症の最も特徴的な症状です。これは、特に若い世代や女性に多く見られます。この症状が長く続く人の話によると、人生の楽しみを奪われたようでつらい、精神的にも落ち込むと語られています。
3つ目は、「ウイルス後疲労症候群」です。これは急性期ではなく、回復後に出てくる症状です。発症から約110日後に電話で聞き取った回復者のうち、約3割の人に脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下などの症状が見られたというフランスからの報告があります。日本の報告でも脱毛は同じように発現しています。ウイルスが直接影響した症状ではなく、感染による肉体的精神的ストレスによって起きている可能性が指摘されています。
4つ目は、心臓や脳への影響です。新型コロナは、肺だけでなく、心臓や脳にも感染し深刻な障害を起こす恐れがあるとの報告が相次いでいます。脳では髄膜炎や脳炎、心臓では心筋炎や心房細動などが出る方もいて、後遺症が心配されます。
いま後遺症を引き起こす仕組みにも複合的な要因があることがわかってきています。

VTR(サイトカイン・ACE2)
1つは、肺に侵入したウイルスが増殖すると、そのウイルスを撃退しようとして免疫細胞がサイトカインと呼ばれる生理活性化物質を過剰に放出し、全身の正常な臓器を障害する仕組みです。
もう一つは、新型コロナがもつスパイクと呼ばれる突起が、人間の細胞の表面にあるACE2という受容体と結合することで細胞内にウイルスが直接侵入・増殖し、多臓器を障害する仕組みです。ACE2は肺や心臓、血管内皮、小腸などの細胞、鼻やのどの粘膜に多く見られ、脳でもACE2が多く見られる部分が確認されています。ACE2は年齢とともに増加するとされていて、このことが年齢が高いほど重症化するリスクが上がることに関係していると考えられます。

治療
今のところ、これらの後遺症に対する確立した治療法はなく、対症療法が中心となります。今後の研究において、新型コロナウイルス感染症後遺症の病態を解明していくとともに、有効な治療法を見つけていく必要があります。

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今後の課題
今後は、まず新型コロナウイルス感染症後遺症の概念を多くの方に知ってもらうことが大切です。特に、回復後の患者さんが受診するような開業医の先生方には広く認知していただきたいと思います。
次に、後遺症により仕事に行けないなど生活に支障をきたした場合の救済問題があります。これは、後遺症をどのように定義するかにかかわる難しい問題です。なぜなら、後遺症の症状は主観的な訴えが多く、検査値など客観的な指標で後遺症を定義づけることが困難だからです。これも今後の課題です。
臨床研究の面では、今後はさらに多くの患者さんにご協力いただき、後遺症が出現もしくは遷延するリスクを見つける予定です。さらには、病態解明による有効な治療薬開発につなげたいと考えています。

コロナに罹患しないことが最大の後遺症予防
最後に、最近では「コロナはただの風邪」という言葉を耳にします。しかしながら、新型コロナウイルス感染症は、後遺症という点だけ見ても風邪やインフルエンザとは異なり、一緒のように考えてはいけません。多様な症状が月単位で長引き、回復者の生活の質を低下させ、美容というデリケートな面でも問題を引き起こしています。重症者だけでなく、軽症・中等症の患者や若い世代にも一定の割合でつらい後遺症が長く続くという実態を知っていただければ、「若いから感染しても大丈夫」とは決して言えないことをわかっていただけると思います。

ウイルスの増殖や細胞へのウイルスの侵入を止める決定的な治療薬が開発されたり、有効性と安全性が確認されたワクチンが広く普及されたりするまでは、できるだけ感染しないように基本の感染対策を続けていくことが大切です。

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